おばあちゃんと食べたはっさく

ちーちゃんはおばあちゃんと一緒に谷あいの小さな村に暮らしていました。

お母さんは麓の町に住んでいて、朝早くから夜遅くまで市場で働いていました。

お父さんはいません。

お母さんに会えるのは月に一度くらいです。

ちーちゃんはお母さんとあまり会えないことを寂しく思っていました。

そんなちーちゃんをおばあちゃんはやさしく面倒見ていました。

ちーちゃんはおばあちゃんのことが大好きでした。

おばあちゃんといつも一緒でした。

村には週にいちど、移動販売車が来ました。

移動販売車には村では買えないものや珍しいもがありました。

村の人は移動販売車が来るのを楽しみにしていました。

おばあちゃんも楽しみにしていて、移動販売車が来るといつも出掛けていました。

もちろん、ちーちゃんもついていきます。

おばあちゃんは移動販売車に並べられた品物を丹念に見たり、村の人と話たりして楽しそうでした。

でも、品物を買うことは滅多にありませんでした。

おばあちゃんががまんして欲しいものをあまり買わないのを知っていたので、ちーちゃんもチョコレート菓子が欲しいとは言いませんでした。

その日はおばあちゃんの具合が悪かったので、ちーちゃんひとりで移動販売車のところまで来ました。

ちーちゃんは買い物をしたことがなかったので、なんだかちょっといづらくて少し遠巻きに買い物をしている人を眺めていました。

村の人の買い物もひと段落して人がまばらになると、ちーちゃんは移動販売車の棚にはっさくが残っていることに気づきました。

おばあちゃんは、はっさくが大好きです。

ちーちゃんはおばあちゃんにはっさくを食べさせてあげたくなりました。

移動販売車のおじさんにちーちゃんは「はっさくください」と言いました。

おじさんはいつもおばあちゃんと一緒に来るちーちゃんのこと知っていました。

おじさんは、「おつかいかい?」とたずねました。

おつかいではないからちーちゃんはもじもじしています。

それを見ておじさんは、「何個だい?」と聞きました。

「いっこ。」

ちーちゃんは答えました。

「200円ね」とおじさん。

ちーちゃんはお金を持っていないのでさっきよりももじもじしてます。

「お金忘れたのかい?」とおじさんがやさしく聞きます。

忘れたわけではありませんが、お金を持っていないのでちーちゃんはうつむきました。

それを見ておじさんは、「そうか、鍛冶屋さんのところの嬢ちゃんだよな?ツケでいいよ」

そう言うと、はっさくを1個袋に入れてちーちゃんに差し出しました。

ちーちゃんはおじさんに怒られるものだと思っていたから、ちょっとびっくりしました。

ツケの意味はよく分かりませんでしたが、はっさくを買うことができたようです。

はっさくの入った袋を受け取ると、なんだか誇らしげな気分になりました。

おばあちゃんの喜ぶ顔が目に浮かびます。

ちーちゃんはおばあちゃんの喜ぶ顔が早く見たくて、走って家に帰りました。


「ただいまー!いどうはんばい行ってきた!」

息を弾ませたちーちゃんは、そう言いながら横になっているおばあちゃんにはっさくを差し出しました。

おばあちゃんはそのはっさくを見て驚いた顔をしました。

そして、すこし怖い顔をしながら「ちーちゃん、お金はどうしたんだい?」とたずねました。

ちーちゃんはそんな怖い顔のおばあちゃんを見たことがなかったのでびっくりしてしまいました。

喜んでもらえるものだとばかり思っていたから、なんだか哀しい気分になりました。

今にも泣きそうな顔をして、「おじちゃんが売ってくれたの。ツケで。」とちーちゃんは答えました。

それを聞いたおばあちゃんは少し考えているようでしたが、やがてすべてを理解した様子で軽くうなずくと、いつものやさしい顔に戻りました。

そしてちーちゃんの顔を見つめながら、

「そうかい。ありがとね。ちょうどはっさくが食べたかったところだったんだよ。」

おばあちゃんはちーちゃんからはっさくを受け取ると、宝物を見るようにはっさくを見つめました。

そして「ひとりで買い物えらかったねぇ。」と言いながらちーちゃんの頭をなでました。

ちーちゃんはうれしくてもじもじしています。

「ちーちゃんも半分食べるかね?」

そう言いながらおばあちゃんははっさくをむいてくれました。


ちーちゃんとおばあちゃんは大事に大事に、ゆっくりゆっくりはっさくを食べました。


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まんまる
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