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「こたけ正義感」の「弁論」ライブの所感-法曹をエンタメ化して語る意義-

先日、弁護士芸人のこたけ正義感氏の漫談ライブ「弁論」が、期間限定でyoutubeに無料アップロードされていたので見てみました。素人目でも分かるくらいに、しっかり計算された語りで、面白おかしく法曹界の基本を解説されていました。本当は(無料で楽しんだ手前)グッズの一つでも購入して応援するのが筋だと思うものの、私の懐事情はシベリアの冬をも凌駕するので、せめて簡単な考察noteを公開してお返ししようかなと考えた次第であります。

私は法や裁判の知識は、大学の教養講義(や学校の授業)でふれた程度しかないので、ライブで語られた内容を(専門的に)深堀りすることは出来ません。ではどうするか。このnoteではタイトルにも書いた通り、敢えて素人視点から、法曹の様な真面目な社会問題をエンタメにして語ることの意義を(簡単に)探ってみたいと思います。

法曹と言えば、大抵の人にとっては、一般に重要だとされているものの、詳しい話は勉強しないと中々分からない(し、その勉強の機会も殆どない)のではないでしょうか。例えば「弁論」ライブでは、袴田事件について特に詳しく説明がありましたが、私を含めた大勢の人は、袴田事件が最悪の冤罪事件であることは知っていても、具体的な裁判の流れ、判決文や検事総長談話の内容までは知らなかったことでしょう。となれば、面白い解説で見る人の心理的ハードルを下げ、自然と必要な知識が身につく様にすることに、敢えてエンタメとして語る意義があると言えます(実際、何年も前からゆっくり解説動画なんかも流行ってますし)。

ただし、ここは気を付ける必要がありますが、語りの面白さと語られた内容の正確さは別物です。こたけ正義感氏はお笑い芸人である一方で、現役で弁護士をされている様ですが、言わばプロが語る内容であっても、どこまでそれを鵜呑みにしていいかを(きちんと)判別することに関しては、素人には限界があります。

となれば正確な情報をエンタメ化するのは勿論重要ですが、敢えて真面目な話をエンタメにすることに拘る場合、更にもう一歩正確さだけに留まらない意義を考える必要があるでしょう。

ここでこたけ正義感氏の「弁論」ライブの語り口に注目してみましょう。例えば氏は、弁護士の役割を説明される際も、争点整理という問題解決のための議論の仕方、法律文を解釈する困難さを実例を挙げながら紹介されています。また、袴田事件の解説でも、単に検察側の証拠品や判決内容や検事総長談話のおかしなところにツッコミを入れるだけでなく、弁護士・検察・裁判のそれぞれの立場、背景まで示唆し、そこから「犯人」と「被告人」を区別する視点を提案されながらライブしていました。ここが重要で、「弁論」ライブでは、単に正しい知識の啓蒙という話だけでなく、その背景にあるそれぞれの視点の(考え方の)筋が見えてきます。そうなると、ただ(法曹の)新しい知識が身につくというだけでなく、普段気にしていなかった考え方、価値観が見えてきます。

またそうなると、(専門内に踏み込むためには依然正しい知識が必要になるものの)エンタメ化して語られた考察は、素人でも新たに気づいた考え方を議論・検討し、問題を捉えるための下地になります。ここにエンタメ化の意義があったと言えるのではないでしょうか。そう考えるなら、こたけ正義感氏の「弁論」ライブは、(一方的な啓蒙を果たして)それ自体が有難がられるものではなく、見た人が自分の考えを展開する為の橋渡しだったことになるでしょう。敢えてエンタメとしての語りを挟むことで、次の考察に繋げるための機会を提供するという意義、これが本note(なり)の結論になります。

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