京三

リアルにはフィクションをひとつまみ。 フィクションにはリアルを大さじ2。

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最近の記事

心のカビと文学

   頭が痛い。頭の右側の後部に、鈍い痛みがある。こういう時は大抵胃の調子も悪い。抜けないガスが、腸の中をゆっくりと這って移動するのがわかる。心はずっと重たい湿気をまとっており、黒いカビのようなものが表面にびっしりと広がっている。    洗うことの出来ない繊細な臓器は、既に手の施しようがないほどに汚染されていた。脳の毛細血管にプツプツと細かい気泡のようなものが現れ始める。それは急速に増え始め、太い血管も全てが膨らみ、とたんに頭全体が強く弾けた。弾けた頭からは大量の胞子が部屋

    • 「人」という字のいびつさ

          心の健康と身体の健康の間でバランスをとることが非常に難しい。酒とタバコの摂取が難しくなってからというもの、身体はどんどん健康になっていく一方、発散する場所を得る機会がなくなって心が弱々しくなっていくのを感じている。     以前までは「てんでダメな私」という失態を酔っ払った私に押し付けることでシラフの私は社会的な重圧を回避していた。しかし、これからは居酒屋でジンジャエールを飲む私が全てを背負い込まなくてはならない。     頭の中のモヤにある粒たちが擦れあって稲妻

      • 糧は毒、毒は誰かの糧に

           言葉の毒は一度摂取してしまえば、どれだけ時が経とうとも分解されることはない。なんなら、時が経てば経つほどより強力なものへと姿を変える。地元のあいつが怒りの表情で言う僻みも、元カノが別れ際に見せた涙も、兄が放った呪いの言葉も全て私の内蔵に蓄えられている。しかし、それらは私自身を形作るものであり、なんなら私のアイデンティティだと言っても過言では無い。つまり、それらの毒を敵にするということは私自身を敵にすることと同じことになる。    フグ毒はフグが生まれ持ったものではなく

        • 蝉と共に鳴く

              私はなんて不幸な人間だろう。誰しもが当然思うことをさぞ自分だけが思っているかのように考えていた時刻、ようやくアスファルトの熱が冷めて心地よい風が体の傍を通りはじめた。前を見ると一本道にまるでイルミネーションのように街灯が続いている。本来なら昼行性である蝉たちがその光の下に集い、歌い、踊り狂っていた。一次会から二次会へと酒を飲み歩きながらさまよっていた20歳過ぎの私にどこか似ている。     あの時間が楽しかったかと訊かれると凄く楽しかった印象がある。けれどよくよく考

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          形から入るキャンプ

            「形から入るタイプ」と言えばそれはもはやミーハーであり、何をするにしても長続きせず、金だけ浪費して結局何も得られることはないという散々なイメージを付けられがちだ。しかし、「キャンプ」という趣味の分野に至ってはある程度の形を作らなければスタートラインにすら立つこともできない、言わば大人の趣味の登竜門である。 しかし、満員電車、マナーのなってない観光客、車間距離という概念を知らないじいさんたちなどの日々のストレスの憔悴しきった私は、某通販サイトで高くない、しかし浮かれながら少

          形から入るキャンプ

          私は人間

             カフェの隅に置いてある造花でさえ花としての役割を果たそうとしているというのに、人間と同じ組織で作られたはずの私の身体は、私の望む人間としての役割を果たそうとしない。周りと同じことをしているはずなのに、脳の毛細血管から痛みがあぶくのように溢れ出す。社長が会議中に何度も声を荒げた生産性、効率という言葉に含まれる「期待」の正反対にいる自分には、それらの言葉が棘のようげ突き刺さる。太陽の下を歩けない人は、人なのか。答えは分かっているはずなのに、意地悪な人たちを頭の中で作り上げて

          私は人間

          就業時間中にコンビニのカウンターから眺める景色は美しい

           就業時間中、隣の席の先輩と一緒に会社を出て近くのコンビニへと向かった。高齢化が進みすぎて老人ホームのようになったオフィスの中、ずっと椅子に座り続けてパソコンを睨んでいると目が目としての機能を失っていったからだ。これはサボりとは少し違う。目に異常をきたして病気になってから休職をするよりも、隙間時間に先輩とパワハラ上司への愚痴を吐きながらコンビニのカウンターでアイスを食べて心を休めるほうがよっぽど効率がいいと考えたからである。いわゆる今巷で話題の「タイパ」とよばれるものだ。

          就業時間中にコンビニのカウンターから眺める景色は美しい

          カモミールティー

              一晩の間に完全に分解しきれなかったアルコールが胃袋を蹴った衝撃で僕は目を覚ました。ケトルでお湯を沸かしている間に洗面所で顔を洗い、歯を磨いておく。クタクタになった内蔵を少しだけ気遣ってカモミールティーを飲んだ。どれだけ気遣ってもプラスマイナスゼロには到底ならないが、なにもしないよりかは幾分かマシである。これも仕方のないこと。記憶にシミとなり得る汚れに気づいた昨夜は、少し多めのアルコールで浄化してやる必要があったのだ。     窓を開けてアスファルトから湧いてくる蒸気

          カモミールティー

          スペシャル

           強烈な西日がオフィスのブラインドを突き抜けて僕のPCを襲う時刻。先輩は席を立ってブラインドをきつく閉ざした後、お疲れさまでしたと言って手を振った。それを見た僕も慌てて机の荷物をカバンに流し込み、退勤用のサイトにアクセスして打刻する。はきっぱなしで馬のひづめのように足と一体化した革靴でアスファルトを蹴って帰路についた。  コンビニで買った150円のアイスクリームを片手に駅へと歩く傍ら、ミサイルのように突っ込んでくるサラリーマンたちに注意を配る。この時にイヤホンで流す音楽はメ

          スペシャル

          夢が叶っても

          「外国語を使う職業に就く」という夢がこの4月に叶った。先輩の指導を受けながら英語でメールを書き、ドイツ語で電話をする。こういったことをするためだけに1年間ドイツに留学し、帰国後も英語をひたすら勉強した。病気で入院してる時も、洋楽の歌詞をノートに書き写して分からない言葉を英英辞典で調べてメモした。努力はかなりしたつもりだ。その努力が芽吹いた。 この現象を幸せに感じることはない。   そもそもドイツ語や英語の勉強を始めた理由は酷くつまらない理由だ。周りで誰も話せない言語で話せ

          夢が叶っても

          バンコクを歩く

             2月の初め、幼馴染とのタイ旅行9日目。これといった目標なんかもなくダラダラと過ごしている。朝は9時くらいに起床して、ゆっくりと歯を磨き、着替えや髪のセットなどたっぷり時間をかけて身支度していく。友人はタイの洗礼というべきか、食あたりにあってしまってので彼でも食べられそうなものを探しに僕は散歩に行く。ついでに家族への大量のお土産も探してまわるつもりだ。ホテルのエントランスを抜ける頃には11時を回っていて、その頃にはバンコクの気温もぐっと上がっていた。そして自動ドアが開くと

          バンコクを歩く

          もう見放そう

             世の中の人間というのは「対等」というものをあまり求めていないのではと感じることが多々ある。    そんなことわかっていると思っているだろう。だが本当に理解できているだろうか。「分かる」ではなく「理解」できているかだ。    例えばあなたの家族、友人、恋人、その者たちから自分の考えに異を唱えられても受け止めることができるだろうか。あなたはそれができるのか。無理に論点をずらして自己主張することはないか。自分が全て正解を持っていると勘違いすることはないか。人それぞれ得手不

          もう見放そう

          成長だなんておこがましい

             最近俺は前向きに物事を考えられるようになったな、自分は成長したなと勘違いすることがよくある。    実際、以前なら乗り越えるのにかなり時間を要していたものも、少しの時間があれば解消できるようになった。自分のモヤモヤの対処法をいくつか編み出すこともできた。でもそれは成長とはまた別のことだろう。今たまたま自分を取り囲む環境や物事がうまく運んでいるだけで、今たまたま自分にあうリラックス方法があって、今たまたまそれに注ぎ込める自由な時間があるだけだ。    最近は中華料理屋

          成長だなんておこがましい

          友達の家はよく寝れる

             連休を利用して、京都にいる幼なじみを訪ねてきた。なんでそんな話になったのかは覚えてない。毎日とは言わないが、週に何度も電話している仲だ。深夜の電話で少しハイになって夜行バスを予約したのだろう。気づいたら福岡から京都まで行くことになっていた。友人も次の春から働き始める。その時は京都から出るらしい。そんなわけで、京都らしいものちゃんと見とこうかと話をし、バイクに二人乗りで色々見てくることにした。    旅行とは行っても2人とも小さい頃から気が知れてる仲なので、見てまわる大

          友達の家はよく寝れる

          季節は地球からの贈り物

           最近はとにかく天気や季節の話をするようになった。幼い頃は、そんなのじいさんやばあさんがする話、テーマだと思っていた。だが、気温の変化を感じ、たんすから服を出したり、季節の果物を食べたり、その時々の花を眺めて写真に収めたり、そんなことが楽しくなってきたのだ。これが大人になったということなのか。  自分は暇さえあれば祖母の家を訪ねるので、それこそ天気や季節の話ばかりする。「最近は暗くなるのが早いね。」「ほんとね。気温もやっと落ち着いてきた。」「でもまだ今日の昼にクマゼミが泣き

          季節は地球からの贈り物

          側頭部をドリルで穴開けられた話(その後)

             開頭手術が行われて早3週間。40個はあったであろうホッチキスは全てはずれ、長い間悩みの種であった頭痛どころか、パニック障害すら治ってしまった。頭痛というメインウェポンですらとんでもなく苦しく、何度冷蔵庫に八つ当たりをしてしまったかわからない。冷蔵庫のへこみには、漫画『鬼滅の刃』の煉獄さんのポストカードが貼ってある。サブウェポンのパニック障害はほんとうに気まぐれなやつで、一日に3回は俺を訪れる日もあれば、たまにひょっこりもしてくる迷惑なやつである。いつも海深くで溺れている

          側頭部をドリルで穴開けられた話(その後)