公務員試験青春白書 pt.3
まず座学の面接対策講義を受けた。カリスマな講師が配ったレジュメには書店で見るような面接対策の本ではあまり見かけないことがたくさん書いてあった。基本的なスタンスとしては「面接官と会話をしろ」というもので、一問一答で固めていくのではなく自分の今までの人生からその場で答えを出していけば自然と筋の通ったものになるということだった。面接の練習をしすぎるな、面接中に泣いたって受かった人はいるんだぞというような型破りな発言が新鮮だった。ここで面接の練習は次の試験まで2回だけにとどめておこうと決めた。
最初の模擬面接の日がきた。事前に郵送されていた模擬面接用の面接カードには2つの質問(志望動機、今まで力を入れてきたこと)しかなく、それらを中心に集団面接の形式で30分程度面接を受けるというものだった。俺が受けた回は三人で、27歳フリーター男の俺を除いて他の二人は新卒男女といった感じだった。全員キッチリとスーツをジャケットまで着ていた。模擬面接が始まった。女の子は場数踏んでる感じがあって表情良くハキハキ喋る。男の子は慣れていないながらも落ち着いて喋れてる。そして俺は…。酷いものだった。面接官役の講師がそれぞれの受け答えを講評してくれたが、俺は遠回しに練習不足を指摘された。面接カード、今朝考えたやつだから…って心の中で言い訳した。言われたことは全てメモに取って、できるだけ吸収するようにつとめた。模擬面接が終わって俺が一番先に教室を出た。後から出てきた2人はいつのまにか仲良さそうに話していた。そのままエレベーターに乗ったら一緒になってしまうので用もない自習室を経由して時間差で帰った。次回の模擬面接の予約をしようとしたら直近の日程はすでに定員だったし、悔しい思いするだけだからもう模擬面接は行かないことにした。
それから練習無しで本番に臨む訳にはいかないので、本屋で適当に公務員の面接対策の本を買って読み、ネットからも有用と思われる情報を手に入れた。そこで得た知識からどんな質問にどう答えるかを、ありきたりにならないように自分らしさを入れてたくさん書き出してみた。
ほぼ必ず聞かれるであろう「志望動機」「自己PR」「職員になってやりたい仕事」「長所短所」「なぜ民間でなく公務員を志望するのか」「今まで力を入れてやったこと」…等を網羅し、更に突っ込まれた場合の受け答えも用意した。時間がある日は本番を想定してそれを何度も声に出しながら暗記した。どれも自分の意見や経験のことなので、覚えるというより引き出しをすぐ開ける練習をしてる感じだった。
二次試験、集団面接の日がきた。会場は市役所近くのなんとか会館。控え室は少し広めのホールという感じで、係りの人が前に座って次順の受験生に面接会場の行き方などを説明をしている。四人一組で席に座り、番号を割り振られた。俺は1番だった。よし、と思った。通常、集団面接では1つの質問に4人がそれぞれ答える。前の人の答えと同じ回答をするのはやはり良いことではなく、番号は若い方が有利だと思っていたからだ。順番が来た。何回もお茶飲んだのに口がめちゃ渇いてた。
控え室から面接室までは少し歩いて階段を上らなきゃいけないんだけど、その間もみんな無言で隊列を崩さずに歩いた。面接室前に着き、扉の前に立った。ここで「あ…ノック、俺がやるのか。」と初めて気付いた。始める前に振り返ってみた。「みんな、準備はいいな?」とみんな苦笑いで俺もつい苦笑いした。その時に俺の後ろには2人女の子がいて最後尾に男の子が1人いること、女の子のうち1人は顔が可愛いことに気付いた。コンコンコンとノックして応答があったら扉を半分まであけて「失礼致します」と言い面接室に入り、扉の横に立って一礼して椅子の横まで歩いた。ここまではネット通りに上手くいった。しかし「順番にお名前をお願いします」と言われた時にはもう声がわずかに震えていた。
面接は想定の範囲内の質問ばかりだったのでスムーズに受け答えできた。模擬面接の時より何倍もマシだと思った。しかし面接が進むにつれて明らかになっていく事実(俺以外全員新卒で地元出身)や番号順を無視して指名されること、2人の面接官のうち左に座ってる方がやたら怖い顔してて俺に素っ気ない対応をする事で何となく俺が不利になっていく感じがした。それでも挙手制の質問には全部一番に挙手し、表情も明るく保ち続けてフィニッシュした。面接の後に制限時間付きで作文の課題もあったがこれはリラックスして受けられた。
二次試験が終わった。