痛み止め
Ⅰ
目を閉じて
朝が来る前に
瞼の内側からなら
僕らはもっと太陽を愛せるはず
カーテンに映し出される
幾千もの朝の往来
ボウルにバターを浮かべ
背後ではテレビが走りだす
シャッターの開く音と
寝ぼけ眼のコーヒーの湯気が
じっとりと暑い朝の再来を告げる
Ⅱ
孤独のお陰で
僕はかろうじてこの痛みに耐えている
窓の外の正午にむせ返る午前のシールコレクター
シェードの下にざわめく食器と金色の影の数々
きっちりと襟元まで留められたボタンは
蒸気する冷たい水を閉じ込める
太陽の使者が起き上がる
目の下の隈をこすり鏡の自分の髭を剃る
その時、意識が手元を離れて
Ⅲ
僕が動かなくても世界は勝手に進んでゆく
婦人たちの午後
せわしなく扇子をあおぐ
コンドームいっぱいの海水浴に向かって
馳せる青年たちは馬のような足跡を残して
傷がまた開いてきた
冷えた鼻の穴を空気で満たし
この目で時間が通りすぎて行くのを見ようとしても
灰色の霧はいっこうに晴れない
Ⅳ
うなされる夜の開けた街路
鳴り止まない下手くそな金管楽器に
僕はすべての窓を閉じた
かえって自分が追い出されたような淋しさに
テレビの箱をあけて
挿花のような生活感を溢れさせる
貸し出し書籍の弱い心を眺めても
頭の中は人工的な光の像でいっぱい
それでも身体を横たえてみると
突然、想像のネズミが僕の思考に噛み付いた
(2012年12月)