機内食の裏側と隠語。面倒くさいがかわいい、年下の香港人パイロットの場合👨✈️
「Maniko、元気?キミの苗字って何だっけ?」
と、久しぶりに年下の香港人パイロットからメッセージが来た。
苗字?なんで?と思い、
“Hi, I’m good thanks Why?”
と返した。
すると、今度のフライトでオレたち一緒に飛ぶんじゃないか⁉️と、返信が返ってきた。
…ん?まさか。
私はキャプテンとFO(First officer...副操縦士のこと)の名前はチェックするが、その下のジュニアの副操縦士はあんまり名前も見ないことが多い。😅
パイロットと客室乗務員はブリーフィングも別に行うし、フライト中はサービスで忙しいから全く関わりがないことの方が多数だった。
言われてみて、よくよく来月のロスター(Roster...勤務表のこと)を見ると、たしかに彼の名前がロスターされていた。
よくまあ、客室乗務員一人一人の名前までチェックしてんなぁと感心すると共に、偶然のミラクルに驚く。
前にも書いた通り、一度飛んだクルーと再びフライトが一緒になるなんて滅多にない。
しかも、このフライトには、他に仲の良い客室乗務員の先輩もたまたま一緒なのだ。
なんという偶然…重なる時は重なる。
同時に、ちょっと面倒くさかった。
今はコロナの影響で、ホテルから外に出ることは禁止されていた。彼は、どうせ外に出られないから、部屋で一緒にUber eatsでデリバリーして食べようと言ってきた。
彼とは、1年前のフライトで一緒に飛んだことがあって、まあちょっとその時一緒に出かけて、いい感じになったのである。
というか、そういう関係になった。笑。
「初めてのクルーミールだ」
彼は言った。
これに味をしめて、彼の癖にならないといいな。心の中で、私は思った。
機内食が味が濃いのはなぜ?
機内食とは、飛行機の中で出される食事のことである。
面白いのは、ファーストクラスのものすごいお金持ちとか、よく飛行機に乗るお客さんは、ほとんど機内食を食べない。何も要求して来ない人も多い。
我々のサービスは月ごとに変わるので、よく乗るお客さんは飽きてしまうのかもしれない😅
また、クルーでもお弁当を持ってくる人もいる。
一つの理由は、お客さんと同じで何度も飛んでると味に飽きてしまうこと。
もう一つも味に関係あるのだが、実は機内食は、少し地上の食事より味が濃く作られている。
もちろん、それにはちゃんと理由がある。
機体が高度30,000ft (約9000メートル)の上空まで上がっていくにつれて、味覚と嗅覚に変化が起こるからだ。
気圧が保たれた機内において塩味と甘味の知覚能力が落ちてしまう。
つまり、上空にいる時は、地上にいる時と同じ味付けでは味が非常に薄いと感じる。自覚症状はないが、味や嗅覚を感じにくくなってしまうのだ。
だから、機内食は地上の食事に比べて、塩分や砂糖を強めに使ってある。
また、機内食の数についてお客さんが知らないこと。
機内食は、地上にいる時点で数を全部数えてあり、ほぼ余りはない。あっても少数。
お客さんがあまり食べなくて、大量に余ることもたまにはあるが、それは例外だ。
人気のメニューになると、けっこうすぐに売り切れてしまう。とくに、特別食などは、ほぼ代わりはない。
インド人はベジタリアンの人が多く、特別食を食べる人が多いのでインド線は特別食が多くなる。
しかし、お国柄なのか、中には事前に頼まなくてはいけない特別食を、頼んでもないのに「私は頼んだ!!」と、駄々をこねる人も多くて困る。
だから、客室乗務員が、
「今日はお魚のムニエルがオススメですよ」
などと勧めてきたら、そのメニューが嫌いでなければ、できれば是非それを注文して欲しい。
なぜなら、彼女(彼)があなたに本当に伝えたいことは、
「他のメニューは人気があって残りが少ない(もしくは、すでにない)ので、出来れば魚メニューを注文して欲しい!」
ということなのだ。
昨今の航空業界のコスト削減を察して欲しい。
だから、ミール担当のクルーは地上では数えるのに忙しい。飛行機が飛んでからでは、もう後の祭りで何もできないからだ。
後から機内食がありません…などと言うことは絶対にできない!!だから、ミールの数を数えるのは重要な仕事なのだ。
「クルーミール」の隠語
実は、乗務員の食べるものとお客さんの食べるものは分けられている。
乗務員の食べる機内食のことを、クルーミール(crew meal)という。
特に、パイロットは食中毒対策として、機長であるキャプテンと副操縦士は、違う種類の機内食を食べなくてはいけない。
が、客室乗務員は、特に決まりはない。
その日のメニュー(といっても選択肢は2〜3くらいしかない)から食べたいものを選ぶか、事前に自分で申し込んでおき、ベジタリアン、インディアン、イスラム…など、特別食を食べることもできる。
クォリティとしては、エコノミークラスと同程度の内容だと私は思う。
そして、このクルーミールなのだが、別の意味が存在する。
年下の香港人パイロットが、
「初めてのクルーミールだ」
と言ったのは、こっちの意味である。
ここで言う”クルーミール”と言うのは、エアライン業界の隠語で、「乗務員のミールを食べる」…つまり、やっちゃうことを意味する🙊
私は日本の航空会社では働いたことがないので、日本はどうなのかわからない。
また、誤解がないようにいうが、もちろん全員がそういうことがあるわけではない。
だから、業界全体でそういうことをしてると、誤解しないでほしい。
たまに、エアラインのクルーは遊びまくっていると思ってる人がいるが、そんなことは全くない。
出会いがなくて困ってる人も多数いるのだ。笑。
また、コロナが始まる前から、海外に行ってもホテルの部屋から一歩も出ないというクルーも相当な数で存在する。
Wifiやインターネットが発達してから、クルーは個人で行動し、誰かと一緒に出かけたりすることは減ったと思う。
出かけても、少人数なことが多い。大人数で出かける時は、一人で行動するのが危険な国に限られる。
未だに大人数でパーティーしまくってる航空会社といえば、某ヨーロッパの一部の航空会社が思いつくが、そんなバブリーな時代は、とうに終わったのだ。
ただ同時に、そういうチャンスがあるというのも、事実ではある。
そういう関係にはならなくても、アウトポート(現地渡航先)で仲良くなり、ご飯を食べに行ったりすることはたまにある。
香港人の彼とはそのフライトの後、数回デートして終わった。
それはいいのだが、彼はその後が面倒くさい男だった。
彼は、たびたび私にメッセージを送ってきては、
「ねえ、Manikoは僕のどこが良かったの?」
と、彼の長所や良かったところを褒めて欲しがった。
最初は私も、
「あなたは頭も良いし、優しいし、良いところいっぱいあるよ」
などと励ましていたのだが、
「でも、5人の女の子にアタックしたのに、誰も僕に振り向いてくれなかったんだよー!」
と、女の子に振られるたびに、私に自信を求めて泣き言をメッセージしてくるのだった。
えーいっ!面倒くさいわっっ!!
私はお前の自信を高めるための道具じゃないぞ!
…というわけで、フライト一緒になってもなぁ…と思っていたが、
「なんか、また一緒に飛べるなんてすごい確率だよね!すごくハッピー!こんなに興奮してるの僕だけかな⁉️」
とメッセージしてくるところは、ちょっと可愛いと思うのだった。
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