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スフレパンケーキ

僕らは淡く膨らんだスフレパンケーキを食べたくてしょうがなかった

パン・デ・ミックス前なら予約なしでは食べることができなかった

パン・デ・ミックスの頃なら行列をなすことができず食べることができない

いくつもの犠牲を払い僕らはスフレパンケーキのために高飛びした

飛行機の窓からはバベルの塔を作る人々の夢がメレンゲとなって積み重なり雲となる


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僕らは彼の国の飛行場につきスパイスが染み付いた風にさらされガルーダの住む渓谷の中を進み目的地のカフェへ向かった

4階建立ての4階のバルコニーテラスの4番テーブルに僕らは座る 

地上から4階まで原始の時代から生きてきたかのような野生の緑を放って蔦の葉が伸びている 

東側と西側の蔦からそれぞれ1中隊程度の蟻の行列がはるばる登ってきた

僕らの隣の丸太の手すりを伝ってきた

やがて二つの行列はすれ違う すれ違う際は一匹ずつが触覚や手足を使い相手の体を触れあって 確認しあってすれ違う

彼らもバベルの塔を登ってきたのだ 私達の甘い世界の隣で決して交わることのない世界が存在し動いていた 彼らは彼らの方法で一秒も満たない短さでコミュニティを確認しあってすれ違う

しかし 彼らの一秒は僕らの幾許の体験か

スフレパンケーキができるまでは随分と時が流れた たかがスフレパンケーキの罪悪感 恋に焦がれる香りがかき消してくれる

やがて目の前に聳え立つスフレパンケーキは幸福の街を形成

バベルの塔にナイフを入れる僕らは神かとおごり高ぶる人類 

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今日だけは神様に見えないように隠していた高揚感 リズムを刻み身体の外へと漏れ出てしまう たとえ母国語が神から奪われようとも僕らは幸福について語り合えたに違いない

口の中に広がる甘くせり上がる羊雲 冷たさと暖かさが混じり合う柔らかな場所 僕たちはなんとか守られ包まれていた感覚を取り戻してゆくのだ

いつの間にか ふわふわとパンケーキの中に引き込まれるメープルの香り

柔らかい所をさらに探して優しく抱きしめて 口の中で溶ける甘い時間をかみしめないように最後まで見届け この体に染み込ませてゆくのだ 

僕らはルアクコーヒーの苦味も含めスフレパンケーキの文脈でこれまでの歴史とこれからの世界について確かめあう 味覚による交流が神の怒りに触れぬことを信じながら・・・ 

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