もちろんただの幻でしたよ
妙な夢をみた。
私は電車に乗ろうと、死に物狂いで走っていた。
時計に目をやると出発時間まであと2分。
「やばい…!!」
その駅は階段を上がると改札があるつくりだった。
私はついに駅の階段まで辿り着き、ゼェハァと息を切らしながら一段目に片足をかけた。
ガタンゴトン…
電車がすぐそこに近づいてきているのが分かり、切迫する。
電車の到着まであと30秒を切ったところだろうか、階段を登りきる時間が残されているかすら危うい。
………ん…………?
ふと、階段の少し手前にホットスナックの自販機があったことが脳裏によぎった。
(ホットスナック食べたい…どうしても、食べたい…唐揚げが…)
悩む間もなくその片足は階段から下ろされ、
チャリンチャリン…ピッ……ガッシャン
気づいた時には既に唐揚げを購入していた。
ガッ…タン…プシュー……ガッタンゴットンガッタン…
言うまでもなく、その間に電車は到着し出発。
私は我にかえり、自分の起こした取り返しのつかない行為を悔いた。
手元からほかほかと湯気がたちあがり、香ばしい醤油の香りを立ち上げながら自販機の前で立ち尽くす女。
もう次の便に乗るしかない。近くの公園で唐揚げ食べよう…トボトボと駅を後にしようとしたその時、
「まだ間に合いますよ!!!!」
大きな声のする方に目をやると、
そこには赤い車に乗ったライス関町さんがいた。
(…唐揚げとライスって最高の組み合わせじゃねーか!!!)
喉元まで出かけたツッコミは飲み込んだ。
関町さんは「車に乗せて次の駅まで送りますよ!次の駅まで距離あるんで車飛ばせば乗りすごした電車に間に合います」と言った。
見ず知らずのひとに、なんて優しい方なんだ……
私は申し訳なく思いつつもお言葉に甘えることにした。
車の中に立ち込める唐揚げの香り。
「美味しそうなにおいっすね」と関町さんは言う。
私は「すみません…!換気させてください」と窓を開けさせてもらった。
車は線路のすぐ近くの道路を走っていた。
私は電車に間に合うか不安に襲われながら窓から顔を出し、線路の方を見た。
前方に走る電車、赤い車はそれを追う。
すると、何者かに追われているかのような焦燥した顔をして、線路の上を逆走して走ってくるスーツ姿のいかつい5人組が目に入った。
「betcover!!だ!!!」
関町さんと私は思わず大きな声を出した。関町さんも私と同じくbetcover!!のファンだったようだ。
関町さんと私は目を合わせ、うなずく。
電車を追っていた赤くこぶりな車体はくるりと方向転換し、スーツ姿の5人組を追い始める。
冷め切った唐揚げは時の流れを感じさせ、開けっ放しの窓からは森林の香り。
森の中だろうか。
5人の男達と赤い車は奥深くへ消えていった。