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月と六文銭・第二章(8)
千堂綾乃達は、米軍の最新鋭狙撃銃が新潟に配備されることから、清野や酒井、高端に何らかの動きがあるだろうと予想して…
~ターゲットは最新高性能狙撃銃~
1
綾乃は、次の1か月、総務課での事実確認、スナックでのデュエットとお触り、部屋での自分の装備のメンテナンスをしながら過ごした。
本部から綾乃の後任の事務官の名前と高性能狙撃銃の輸送日程が伝えられ、北朝鮮の荷客船・万国華号の入港予定も分かった。
SS556Mー1B、米海軍と米海兵隊が4年もかけて熟成してきた超長距離狙撃銃が日本の自衛隊にも配備されることになって、新潟でのテスト日程が通知された。
この銃が綾乃たちのアンテナに引っかかったのは、当初陸上自衛隊・群馬駐屯地でテストする予定が、防衛装備庁の指示で急遽海上自衛隊・新潟分屯基地に変更になったためだった。
この変更を指示したのが誰なのか、急遽庁内にもメスを入れることとなった。それは東京で江口優作と高田準一が調査することとなった。
それにしても、こんな目立つものを“紛失”とか“故障”として処理してもきっちりフォローされて、最後のネジ一本まで把握されそうだが、どうやって盗み出して、かつ運び出すつもりなのだろう。
綾乃はヨガをしながら考えた。マットの上でゆっくりとのけ反り、手をついてブリッジを作り、片脚を上げて、ぐっと逆立ちとなり、両脚を前方で降ろして、腕立て伏せの形になった。脚をぐっと広げ、そのままマットの上に座り、体の前で踵を合わせ、上半身は横に捻った。
超長距離狙撃銃は二人で運用する。片方だけが盗み出そうとしても、もう一方が抑止力になるはずだ。つまり、一人で運び出すのは難しい。ケースも大きいから持ち歩いていたら目立つ。
通常のライフルなどであれば、ゴルフクラブのケースに入れて運ぶ方法もあるが、それを担いで乗船するのだろうか。もっと何か独創的な方法でないとすぐ見つかるだろう。輸送途中の強奪はどうだろう。捜査自体は公になるが、必ずしも銃が見つかるとは限らない…。
2
SS556M-1B狙撃銃8丁が横須賀を出発し、基地を出たのが午前8:30、横浜経由第3京浜に乗ったのが9:12、世田谷で環八に乗ったのは9:37、関越練馬通過が10:32。14時前後に新潟西ICを通過し、そこから40分ほどで新潟分屯基地に着くはずだった。
ジープ2台とトラック1台の3台体制で運搬されていたが、関越道に入って30分ほどした時、先頭のジープがぐらッと蛇行し、ひっくり返った。搬送トラックは横滑りしながら、ひっくり返ったジープの横で停止した。
後ろのジープはトラックの隣で停車し、強奪等の不測の事態に備えて、隊員が降車して応戦体制を取った。2分ほど周囲を窺ったが、特に襲撃してくる者がいないことを確認した。
日本国内での武装襲撃は原則考えにくいので、トラックの隊員一人とジープの隊員を事故処理に残して、搬送トラックとジープ1台は関越道を急いだ。
有事ではないので、国内での自衛隊員の発砲は基本的には許可されていない。最悪の場合に備えて拳銃の携行は許されていたが、極力発砲は避けるように指示されていた。
関越道の出口で分屯基地から“出迎え”に来ていたジープが合流し、再び3台体制で基地に向かった。
分屯基地到着後、積荷は全て武器・弾薬庫に入れられた。トラックが急ブレーキをかけたため、荷室内で箱が大きく動き、木箱の角が鉄枠に当たり、蓋が開いていたものがあった。銃本体が箱の枠にぶつかっていた痕跡があったため、中身を点検した。上の段の手前の銃1丁が登録を抹消されて、点検のため、メーカーに送り返されることとなった。
絶妙なバランスを基に調整された精密兵器で幾ら戦場で使うとはいえ、慎重に持ち運びされるものだから、交通事故でぶつけられたのなら使わない方がよく、メーカーでチェックした方がいいと判断された。
3
その処理対象が問題だ。1丁でも流出すればコピーは作成可能だということは、周知の事実だった。
1丁だけだと追跡は比較的楽で、紛失していたらすぐに分かりそうだが、やはり実物が無くなったらアウトだろう。
新潟分屯基地ではメーカー送りの装備をまとめて一旦東京に送られることになり、トラック1台分の銃等が集められ、簡単な送付受領書のリストと照合され、運搬用トラックに積まれた。
トラックの荷室に乗り込んだ志賀直人は前の晩に自分が箱に付けた△印を探した。他の高性能狙撃銃と一緒にまとめられた箱に倉庫内で△印をつけておいたのだったが、このトラックには△印を付けた箱がなかった。
志賀は冷静に再確認し、外幌の留め縄をバツの形にして固定した。2本がまっすぐホックにかかっているなら問題なし、バツになるよう2本が交差しているなら問題ありのシグナルだった。倉庫前に見送りのために整列している隊員の一人である綾乃へのメッセージだった。
綾乃は縄がクロスしている状態を見て、静かに列を離れ、ほぼ同時に廃棄物を搬出するトラックを探して、基地の反対側を目指して走り出した。
「全門閉鎖、全車両、発出差止め!」
綾乃は基地内無線に向かって叫んだ。
基地副司令がそれを追認し、すぐに内門及び外門が閉鎖された。30秒ほど前に通過した1台を除き、すべてのトラックは動きを止められ、積荷をチェックされることとなった。
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