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月と六文銭・第二章(4)
千堂綾乃は、自動車ディーラー・酒井忠と精肉卸売業者・肉のセイノの倉庫が背中合わせになっているのを発見し、中古自動車を利用した武器の密輸方法の仮説を立てた…
~仮説~
1
綾乃が立てた仮説はこうだ。北朝鮮に持ち帰られる車両が整備のために酒井の店に持ち込まれ、この倉庫に運び込まれる。隣接する肉のセイノの冷凍倉庫に届いた武器を裏からこの部品倉庫に移して、車の燃料タンクに組み込む。本来は40リッター程度入るべきタンクに15リッターくらいしか入れられなくなるが、市内のガソリンスタンドから港まで運転しても、たいして減らないことは確かだった。
2
自衛隊で銃の廃棄が起こるのは、使用開始から5~6年程度、部品によっては2~3年程度だったが、日本人はきちんと整備し、丁寧に扱うため、廃棄に至る銃の量は少なかった。ただし、フレーム等基幹部品に影響がない限り、高性能狙撃銃は部品を交換しながら長期間にわたり運用されるケースもあったので、“銃の廃棄”の定義は難しく、“戦車に踏まれてオシャカになった”ケース以外で銃がそのまま廃棄されることは考えにくかった。各部品が少しずつ流出して最終的には組み立てられたと考えられていた。
ところが、米国製M27IARのコピーが、実戦配備から4年を経ずして、中国及び北朝鮮で確認されていた。
米国は韓国から北朝鮮に流れた可能性に加え、日本の自衛隊からの流出の可能性も調査することにした。最終的には内閣情報調査室経由で鈴木に調査依頼が持ち込まれ、志賀直人と綾乃が調査(潜入捜査)を行うことになった。防衛省及び自衛隊だけだったら志賀と綾乃が共同して本部および特定の部隊内、この場合流出ルートと想定された海上自衛隊新潟分屯基地を調査すれば十分だっただろう。
3
しかし、1年前から新潟に“転勤”して調査していた志賀は基地内の装備課の課長と自動車ディーラーの酒井のつながりを見つけるまでに9か月かかった上、その先がなかなか見つけられずにいた。
外の誰かが絡んでいるとして、基地内に加え、今回は外部・民間人の関与も疑われたことから、志賀は隊内、綾乃は経理、装備、そして民間人を対象に捜査することになった。
隊内で綾乃は3か月前から装備課に勤務して銃器の在庫や廃棄処分の状況をつぶさに追っていた。外では、昼は大学生、夜はスナックのアルバイトホステスとして酒井と接して、情報収集を進めた。
綾乃が志賀のマンションに頻繁に出入りしているところを目撃されないよう、志賀が週1回程度スナックに飲みに来て密かに綾乃と情報交換するようにしていた。
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