月と六文銭・第十七章(18)
18.真打ち登場
The Master Performer
呉は再び祭と暗号電話で連絡を取っていた。
祭:聞いたか?侵入していた白虎班のメンバーが全滅だと。
祭は困ったなぁ、という感じで呉と話していた。
呉:ああ、聞いた。
白虎の精鋭が料理屋で事故に遭うとは、不運としか言いようがない。
日本にいる呉が若干解説をした。
呉:あの地域は古くて、何年かに一回、ガス爆発とかガス漏れ事故で大騒ぎが起こっているらしい。
祭:どうしてそんな地区に彼らは出入りしていたんだ?
呉:故郷の料理が食べたかったようだ。
祭:そんなことで…。
呉はちょっと反発を感じ、祭にこう言った。
祭:本国を離れたことがないお前には分からないかもしれないが、彼らは四川から北京へ、北京から香港・深圳へと配置換えをされ、故郷に10年以上戻ってないんだ。
今回の日本派遣だって真面目な軍人だから命令に従って海を渡ってきたのだ。
故郷の料理を食べることくらい…。
祭:分かった、お前の言いたいことは分かった。
お前も玄武の一員として大使館勤務は本望ではないのだろう?
呉はどれくらい祭が理解してくれたか分からなかったが、彼も単なる本部付きエリートではないことは確かだからこうして話しているのだ。
祭は当然の結論を述べた。
祭:しかし、これで鉄矢に任せるしかなくなったな。
呉:本部に大佐名で申請を出す。
しかし、明華が仕留める可能性があるから、その結果を見てから鉄矢を投入しても遅くはないと思うが?
呉は本当に最後の手段として鉄矢を温存したかったのだ。いや、上司である秦大佐の考えだった。
祭:そうだな。明華とて悲願なのだから、納得するまでやらせたいな。
呉:ああ、少なくとも一度は狙わせて、月女神の反応を見たい。
呉は狙撃手・月女神の腕前を認めるしかなかった。車載ビデオの画像で見る限り、正確さだけでなく、灯りの反射や写り込み、逆光になるタイミングなどを活用した狙撃は芸術的でさえあった。
しかし、格闘戦や暗殺術に対抗できるとは思っていなかったので、明華の暗殺術に倒れる可能性が高いと思っていた。
そう思っていたところ、祭が今回の件を通じて、二人とも疑問に思っていたことを口にした。
祭:ところで、本当に今回のガス爆発は事故だったとお前は思っているのか?
呉:美国が手を下したと?
祭:分からんが、すべてを疑わないとな。
呉:いちアセットを守るために店を爆破し、隊員以外の一般市民も巻き添えにしたというのか?
祭:秦大佐を狙ったのが単独犯・一匹狼であるはずがない。
組織の支援があったはずだ。
大佐の動きが完全に読まれていたのだろう?
呉:大佐の愛人は監視されていたが、彼女には何もさせていなかったから監視しても無駄だったし、逆に我々は習慣を崩さず、彼らが監視しやすいように行動した。
祭:そして、そこを狙われた?
呉:ああ、そこを狙われた。
愛人は無関係だった。
彼女は大佐との関係だけが重要で国や主義などには無関心だ。
しかもこれまで何も行動を起こした形跡がないのに、在日米軍機密第3分類の照合データを入手したとたんにあの事件だ。
呉は秦が米国艦隊の動きを読み取れる衛星間暗号、機密第3分類、通称「3分」を入手したことが原因と考えていることを強調した。
祭:それは確かに気になる。
偶然で片付けるにはおかしいな。
呉:我々の仕事に偶然があってはならない。
その後の愛人の動きを見たが、全く関係がない。
本当に大佐のことを心配しているだけだった。
それに問題があれば、大佐は愛人を始末しても良いと考えている。
祭:お前がそう言うなら間違いないだろう。
それよりも問題は本当に単なるガス爆発だったのかどうかだ。
呉:警察と消防の報告を手に入れて確認する。
祭:ああ、そうしてくれ。
呉:また話そう。