月と六文銭・第十四章(74)
工作員・田口静香は厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には生保営業社員の高島都に扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。
田口は再び高島都としてターゲットであるウェインスタインと会った。罠を仕掛けるつもりでいたのに、彼の部屋に入った途端、彼の「力」に捕らわれ、女性の部分を中心に拷問を受けるハメに…。
~ファラデーの揺り籠~(74)
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高島は自身に反撃する力が今は無いと自覚していた。体が動かせるようになることと体力を回復しないことには、反撃は無理だ。
<ウェインスタインに悟られずに時間を稼がねば>
「ネイサン、アタシをどうしたいの?
レイプするなら、もう覚悟はできているわ。
アナタのファック・ドールにしたいのなら、そうして。
でも、アタシはアナタが思っているような人間じゃないわ。
アバンチュールを楽しんでいる平凡な女よ」
「まだそのカバーに拘るのか?
じゃあ、これはなんだ?」
ウェインスタインが高島のハンドバッグから取り出したのは電磁波計測器だった。
「君のベッドの下にもあったし、僕たちがメイクラブした時、僕のベッドの下に入れたでしょ、これを一台?」
何のことか分からないという顔をしている高島に対し、ウェインスタインは覆いかぶさるように顔を覗き込みながら話を続けた。
「これは高度な電磁波測定器で計測範囲が狭い代わりに方向性と強さをかなり敏感に拾うことができる。
こんなものを複数台用意できるのは、ある程度大きい規模のファーマ会社か、諜報機関だ。
君がファーマ会社の社員じゃないことは分かっているので、もう一つの可能性について確認しないといけなくなるわけだ、当然。
そして、ファーマ社員ではない君の部屋を監視する理由はそこに出入りする人の記録を録るためだ。
違うか?」
高島の顔は涙と鼻水でぐしょぐしょだった。
「当然、これが発する信号がどこに行くのかを追跡したよ。
君の仲間が持っていたラップトップに接続されていた受信機が同時に10台くらい信号をキャッチし、個別に記録を整理するようになっていたようだ」
そこまで分かっているなら、否定しても意味がないかもしれないが、自分との関係は最後まで否定する。
<自分が監視対象になったのはウェインスタインと関係を持っているからホテルの部屋で関係を持つと思って仕掛けたのだろうと言えばウェインスタインは納得するかもしれない…>
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「アタシとの関係でネイサンを強請るつもりだったんじゃないの?
少なくともアタシはファーマ会社の社員じゃないから、脅しても仕方がないはずよ。
夫にその記録を送られたら離婚になること間違いなしだけどね、日本では」
「合理的な考えでは、そうなる。
しかし、それでは戦場じゃあ勝てない」
「ん、どういうこと?」
「君は鍛えられている。
夫という人物も組織の人間なら、尻尾を掴まれないようシナリオに合わせた演技をするだろう。
ところがシナリオにないことが起こった場合、夫と名乗る男性はどういう行動を取るかな?」
「え?
何をするつもり?」
「君は夫に隠れてアバンチュールを楽しむ倦怠期の主婦というカバーだよね?」
高島は、ウェインスタインが何を言っているのか分からない、という顔をした。
「恥ずかしい姿をした妻の写真が送られてきたら、彼はどう反応するかな?」
「やめて!
夫に送ったら離婚されちゃうわ。
内緒にして、夫には!」
「ミヤコ、君の両手両足には感覚があるか?」
「え?
今、痺れていて感覚がないわ」
「そうだろう」
ウェインスタインが高島の脚の方に回り、何かゴソゴソし始めた。直接ウェインスタインの行動が見えない高島にしてみたら、何をされるの分からない恐怖が心の中でムクムクと育っていった。
「もう手足だけじゃなく、下腹部も感覚がないはずだ。
君には痛み止めではなく、調合された麻酔剤をリア(肛門)から入れた。
注射の方が効き目が早いが、直接直腸に入れると、局地的に効き目が広がる。
君はもう何をされても痛く感じないのではなく、感じること自体出来ないのだ」
「何を言っているの?」
「こういうことだ」
ウェインスタインが高島の足首を掴み、体をベッドの縁まで引っ張り、足を高く掲げた後、120度くらいの角度に脚を広げた。
高島には脚の感覚がなかった。掴まれている感覚もなければ、広げられている感覚もない。しかし、視覚的には両脚を大きく広げられ、恥ずかしいところをこの男性の眼前に晒しているのは分かる…。
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「もう感覚がないから、何をしても君は痛がらない。
さて、この時の写真やビデオを夫に送ろう。
君が先に受け取ったら処分するチャンスがあるが、そうでなければ明らかに男性と恥ずかしいことをしているのが夫に知られてしまうわけだ。
どうだ、競走してみるか、配達サービスと?」
高島は首を横に振った。
「やめて、お願い。
夫にだけは知られたくないの。
上手くいっているのよ、夫とは」
「存在しない夫とうまくやるも、やらないもないと思うが…」
ウェインスタインは今度、高島の両足首を揃えて、左手で持っていた。右手で何かしていたのだが、高島からは見えない。
<今、何か入れたよね?何か入れたよね、私のア…>
今度は靴ベラの柄よりも太いものが挿入されたが、高島には見えず、感覚もなく、視界の端ではウェインスタインの腕が高島の脚の間で前後に動いていることしか分からなかった。
「しっかりと何が起こっているか記録を録っているから安心しろ」
「え、何をしているの?
何か入れているんでしょ、今?
また靴ベラ?
もっと太いもの?」
「安心しろ、君の夫が見るもので、君が気にする必要はない」
「いや、やめて!
ね、ネイサン、どうしたら信じてもらえるの?」
高島は必死に目で訴えた。涙が顔の横を流れたが、ウェインスタインからは見えないのかも知れなかった。
ウェインスタインは高島の脚を下ろしたが、女陰に入れた「モノ」は動き続けていた。デジカメを持って、何枚から写真を撮っていた。角度的には股間と顔が同じフレームに入るように、つまり「この股間は高島都ので間違いない」ようにして撮影していた。
高島は何かが入っているのは理解していたが、何かは分からないでいた。しかし、背中の下のベッドを伝ってくる振動から、大人の玩具の類を入れられていて、写真を撮られているのだろうと思っていた。
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「君は複雑で効果がある薬剤を好むようだね。
しかし、手に入りやすいものが最も効果がある点を見落としがちだね。
いや、君だけじゃない、諜報関係者全般が万能な自白剤が存在するものと考えているらしいからな」
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