
月と六文銭・第二十一章(28)
アムネシアの記憶
記憶とは過去の経験や取り入れた情報を一度脳内の貯蔵庫に保管し、のちにそれを思い出す機能のこと。
武田は複雑かつ高度な計算を頭の中だけで計算できた。スーパーコンピューター並みの計算力ではあったが、それを実現するには記憶領域をある程度犠牲にしていた。
<前回までのあらすじ>
武田は新しいアサインメント「冷蔵庫作戦」に取り組むため、青森県に本拠を置く地方銀行・津軽銀行本店を訪問していた。津軽銀行がミーティングを快く受けてくれたおかげで武田は自分の隠されたミッションができそうだった。
津軽銀行との打合せを終えた武田は、夜のミッションを遂行するため、劉少藩=刘には大人しく寝ていてもらわないと困るので、彼女の気持ちの高まりを利用することにした。
28
刘は性的な興奮に中にいるのに、頭の中のどこかで非常に冷静に自分を客観視していた。
<武田に感謝している。こんな状況は望んでも得られないことは分かっている。しかし、どこかで最終的には彼の存在を認めたくない、或いは親しい人たちにこのことが話せないのは、寂しくもあり、悲しくもある。両親に話したら、「そんな関係、すぐにやめろ」というに決まっている。父ならひっぱたかれるだろう。髪を掴まれ、頭を冷やせとばかりに風呂桶の水に顔を押し付けられるかもしれない。それで学費や生活費の援助が増えるならやめても良いが、両親にはもうこれ以上頼れないし、妹にはこういうことをして姉が大学を出た事実を知られたくない。そもそも人に言えない男女関係が良くないのは分かっている>
「はっ、はっ、はっ、はっ
はぁーん、気持ちいいよ~」
<それなら、冴えないけど、普通に結婚できる李博雅と交際していた方が良かったことになってしまう。それはいや。あの人はもういや。あんなのは生活じゃない。彼は私を大切にしてくれなかった。今の武田は私を本当に大切にしてくれている。私が苦労しないよう先にいろいろ考えてやってくれている。元々はそういう人が欲しかったのだが、若い人には無理なのが分かった。日本では武田くらいの年齢と地位、収入でないとこんな形で支援を受けることは難しい。だからこんな歪な関係、一般社会では受け入れられない関係、になってしまっているのだ>
「テツヤァ、イかせて、アタシをイかせて、たくさんイかせてぇ~」
武田は器用なのか、静かに微笑みながら刘を安心させたが、その間、激しく腰を振り、確実に彼女を絶頂まで押し上げていた。
「はっ、はっ、はっ、はっ、イくよ、イくよ、アタシ、イっく、イっく、イっく、イクゥ~」
それでも武田は腰を振るのをやめず、さらに刘を攻め立てた。
「はっ、はっ、はっ、はっ
イクゥ、イクゥ、イク、イク、
あぁ、テツヤァ、さぃ、さい、さいこ~よ!
突いて、突いて、もっと突いて、ションの%&$
#&%$%#&#&%%%&%&!」
(突いて、突いて、もっと突いて、ションのアソコ、
壊れてもいいから、ガンガン突いてぇ!)
<いやだわ、武田にも知られたくない卑猥な言葉を発してしまったわ。子供の頃に冗談でも言わなかった下品な言葉を並べているの、今の私。今までの私なら「ションのマ〇コ」なんて絶対言わないはずなのに…。絶頂を迎えようとしているとはいえ、とても年頃の女の子が大っぴらに発する言葉ではないことは分かっているけど、どう表現したらいいの?あぁ、私、このままイくわ>
「ション、イくぞ」
再び「大好きホールド」で武田にしがみついている刘だった。
「キてぇ~!
グゥ~、アァ、イック、イック、イク、イクわ、イックゥ~」
刘の体がブルッブルッブルッと大きく震えた後、全身が細かく痙攣し続けた。膣は収縮をやめず、腕も脚も絡みついたままだった。顔をベッドのヘッドボードの方を向け、喉を見せていた。
武田が刘の顔を覗き込むと、舌がだらしなく口の横から少し出ていて、涎を垂らしていた。白目をむいて、完全にイっていた。膣は最後の一滴まで搾り取ろうと本体(=刘)が意識をなくしていても、収縮を繰り返していた。
<うぉ~、これは気持ちいい!最後の一滴まで絞り出すとはこのことだな。静香の蠕動運動に近い感じがするが、何か違う。やはり中国人は何らかの房中術を持っているということか>
俵締めを呼ばれる締め方だろうとよく分からない満足感に包まれた武田は、手を刘の唇の前にかざして、息をしているのを確認した。寝息という感じだった。肩から彼女の手を放し、ゆっくりと胴を絞めている両脚を外し、腕は両脇に揃えた。脚は不恰好だが、カニのような状態のまま、ゆっくりと降ろして、ベッドサイドテーブルにある小物入れからウェットティッシュを取り出した。呼吸しているかのようにパクパクする女陰に指を入れて中身を掻き出し、女陰とその周辺を丁寧に拭いた。ジャングルのような陰毛に僅かに付いた精液もきちんと拭き、脚を閉じさせて布団を掛けた。
<ションちゃん、少し休んでていてくれ>
武田は素早く着替えて、出掛ける準備をした。戻って刘に聞かれたら、コンビニに行っていたことにする、と初めから決めていた。実際、帰り道にコンビニに寄ってアイスクリームやヨーグルトを買ってくるつもりだったし、このホテルにはコンビニがなく、歩いて別のビルに行く必要があったのは都合が良かった。
刘にはベッドサイドのテーブルにメモを書いて残した。
『コンビニでアイスやヨーグルトを買ってくる』
息が整い、すやすや寝ている刘のおでこにキスをし、空調用のカードキーを挿したまま、もう一枚をデスクから取って、部屋を出た。客用エレベーターよりも従業員用エレベーターの方が近かったので、それで1階まで降りた。従業員口から裏手に出て、携帯電話にコード打ち込んだ。
音はなかったが、赤と黄色の表示が交互に画面に映った。
~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~
ALERT ALERT ALERT
Operation Fridge has been Activated
(『冷蔵庫作戦』は始動した)
~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~+~
携帯電話の画面にアラートが表示され、筋向いの路肩に停車中のSUVが2回ハイビームを送った後、武田の方に移動してきた。助手席の窓が降りて、英国訛りの中年男性から声を掛けられた。
「Good evening, Sir.
Care for a midnight spin?」
「The roads are already slippery.
How about a tour of the city?」
後ろのドアが開いた。
「ほぼ時間通りですね」
「いやぁ、思ったよりも会議が長引いて…。
今は休会中だが、すぐに戻らないと再開しちゃうかもしれん」
「はあ」
部屋の中を監視していた補助工作員は、アルテミスのパートナー(「夜の相手」とは呼ばないところが紳士的だった)が白目をむいてノックアウトされたのを確認していた。武田が言うように、「会議」は今「休会中」になっている。
しかし、パートナーが目覚めて「会議」が再開することが予想できただけに、早急にアサインメントが完了して、アルテミスがパートナーの元に戻れるようにしたかった。彼はアジアにおける唯一無二の存在だった。誰にも知られず狙撃が必要なら、米国からスナイパーを送り込むよりも早く確実だったし、完璧なペルソナを持っていたので、疑われることがほとんどなかったのだ。
ドライバーが振り向き、武田がシートベルトを締めたのを確認したら、発車した。
「では、作戦地点までお送りします。
今回はご希望に合わせ、こちらを用意しました」
大き目のアタッシュケースに入っていたのは米国製の精密射撃用ライフルだった。
武田が口を開こうとしたら、工作員がテキパキと説明した。
「はい、335メートルに照準を合わせてあります。
あと、細かな調整は事前にOTTOが完了させています」
「ありがとう」
「完了した後、そのまま我々はこちらを回収します」
「もちろん」
「セコンドはどうする?」
「必要ないとの本部の判断で、アルテミス一人で完遂可能との指示を受けています」
「分かった。
なら、直接『工事現場』に連れて行ってくれ」
「向かっており、間もなく到着します」
SUVは工事中のビルの資材搬入口に近づき、養生シートがぱっと開き、SUVが通った後はさっと元通りになった。
「我々の測定では工事中の西側の8階部分の先からがもっと有力で、スキマティックスで指示していただいたとおりにセットアップしてあります。
昨日からこの地方は天気が変わりやすくなっておりまして、風向きの変更が頻繁です」
「了解」
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