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月と六文銭・第十六章(6)

 武田は台湾人留学生リュウショウハンがスポンサー探しで苦労している話を聞いた。健気で真面目な学生なだけに、サポートしてあげたいと思ったのは嘘偽りのない気持ちだった。
 リュウは、'大人の関係'でのサポートを持ち掛けたが、武田がおおむね了承したので、安堵していた。気になるのはその大人の関係に伴う付随条件だった。

~充満激情~

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 リュウは確かめたいことを順に聞いていくつもりなのだろう、武田を見つめ、ゆっくり切り出した。

「武田さんは、お尻に興味ありますか?」

 アナルセックスのことを言っているのは分かる。是非したいとか、必須と言ったらリュウはどんな顔をするだろうと武田は想像したが、困っている女性に意地悪をする必要はないので、言わなかった。

「特にこだわりはないので、気にしないでいいですよ」
「良かったです。
 一度、前のボーイフレンドが入れようとして、痛くて泣きました。
 あ、私、よく泣きますが、泣き虫じゃないです。
 私の嫌がることをしようとしたことが悲しかった。
 ボーイフレンドは気持ちいいからやってみようと言ってきましたが、私は嫌なので、それで怒っちゃったみたいで、数日、話してくれませんでした。
 私、とっても辛かったです」

 確かに無理やりアナルに入れようとするのはどうかと思ったが、武田自身興味がないわけではなかった。日本では普通の行為ではないからだろう、今までそうした相手がいなかっただけか。

 武田が恋人の三枝さえぐさのぞみに「アナルセックスをしてみたい」と言えば、変態扱いされるだろう。しばらくは嫌がったり、その話を避けるだろう。最終的に応じるかもしれないが、武田がしたいからであって、決して自ら望む行為ではなく、我慢して受け入れることになるだろう。
 無しだな。

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 同僚の田口たぐち静香しずかにアナルセックスをしてみたいと言ったら、「いいですよ!」と許すフリをして、自分がペニスバンドを着けて武田のアナルにそれを入れてこようとするだろう。
 基本的にはシニカルで、なんだかんだ言って状況を把握してコントロール下に置こうとするのが彼女の性格だ。なんなら武田をバックの体勢にして、アナルにペニスバンドを入れながら、後ろから首を絞めるとか、正面からだったら、ついでに武田のペニスを手でしごいてイかせるなんて荒技も披露しそうで、とても言い出せるものではなかった。
 こちらも無しだな。

 レースクィーンのシータマはどうだろう。かなり鍛えられた体だが、ガチガチの筋肉質ではなく、しなやかなボディをしていた。好奇心旺盛な女性で今年アラサーになっていたが、しばらくは結婚はしないと宣言していたし、ステディな男性は今いないはずだ。怒って「専門店に行け!」と言われる可能性はあった。
 そうか、専門店という手があったか!クラブに所属している訓練を受けた女性なら問題はないだろう。どうして思いつかなかったのだろう?
 そんな想像をしている武田はリュウの声で現実に引き戻された。

「武田さんは私の嫌なこと、しないと思っています。
 そんなことする人ではないと思って声を掛けました。
 大丈夫ですよね?」
「分かりました。
 普通の行為でいいですね?」
「はい、私、頑張りますので」

 リュウは頑張りますを強調した。異国から来て、生活をしなくちゃいけないが、そのために何でもするというわけにはいかないことも確かなので、女性としてはギリギリの選択だろう。
 親や親類にこのことを話すことは決してないだろう。もちろん、姉妹がいたら、自分がこういうことをして学費を得て大学を出たなどと説明できないし、彼女らにそんなことをしてほしいとも思わないだろう。あくまでも、特殊な環境での特殊な行為で、一時的なことと割り切って、墓まで持っていくだろう。

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 再び射抜くような鋭い視線でリュウは武田を見つめた。

「あの、エッチする時のことですけど、聞いていいですか?」

 武田はリュウがバックは嫌いと言い出すのか、チラッと思ったが聞いてみないと分からないので、取敢えず頷いてリュウに話を続けるよう促した。

「普通に前からと後ろからと私が上になることは大丈夫です。
 難しいことは体が痛くならない程度ならチャレンジします。
 外とか、他の人から見えるところはダメです、ホテルの窓辺でするとか」
「分かりました。
 無理なことはしなくていいですよ」
「ありがとうございます」
「逆に、私から聞いてもいいですか?」
「はい、何でも聞いてください」

 リュウは自分の禁止事項が武田に伝わって安心していたので、前向きに答える気になっている感じだった。

「リュウさんの学業の邪魔になってはいけないので、いつが都合いいか、教えてください。
 何曜日、とか、何時から何時とか、知り合いの少ない駅とかの場所も」
「分かりました。
 友達は静かなキレイなホテルに行っているらしいです。
 私も出来ればきれいなお部屋をお願いしたいです。
 よろしいですか?」
「そうですね。
 シティホテルなどがいいですよね」

 武田は六本木や銀座にある幾つかのホテルを頭の中でリストアップした。

「はい、お願いします」

 リュウは頭を下げ、自分の伝えたいことが伝わり、相手である武田がほぼ要求通りに応じてくれることが確実になったので、安心したようだった。

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「因みにリュウさんは旅行とか遠出とかには興味はありますか?」
「授業がない時なら、大丈夫ですが、遠くに泊りに行くのは難しいと思います」
「日帰りで箱根温泉とか一泊で熱海くらいだったら、大丈夫でしょうか?」
「泊りは化粧品や着替えなど準備がいろいろあるので、ちょっと考えさせてください。
 すぐに行くわけではないですよね?」
「秋の少し涼しくなった頃に露天風呂などは気持ちいいと思っています」

 武田はレースクィーンの板垣いたがき陽子ようこを連れて行った隠れ家的温泉旅館がいいかなと思ったし、車を走らせるにはちょうど良い距離なのも確かだった。

「箱根にはベネチアン・ガラスのミュージアムがあると聞きました。
 そこに行きたいです。
 彫刻の森も」

 武田は非日常を楽しみたかったので、箱根・彫刻の森もベネチアン・ガラス館もいいアイディアだと感じて、頷いた。

「良かった。まだ行ったことがないし、箱根までは電車で行けると思いますが、駅から美術館までは車ないと難しいと聞きました。
 武田さんは車の運転をされますか?」

 武田はここでふと思った。リュウがいきなり自分の車について知っていたら警戒度を引き上げる必要があるし、最悪の場合、この女性を始末するか、田口に処置を依頼しないといけない可能性があった。
 しかし、今の話しぶりでは、自分の車については知らないようだった。知らない振りをしているだけという可能性は捨てられないが…。
 思い返したら、羽田空港のファミレスでテーブルの上に車の鍵をポンとおいていたけど、リュウは隣のテーブルから動くことはなかったので、それを見ていない可能性が高いし、前回は地下鉄でここまで来たので、車そのものも鍵も確認できていないはずだ。

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