【ふたつめの人生】自分次第でいくつもの人生を生きられる時代(VR編)
VR編
VRの未来
複数の人生をどこで生きるか
現在、VR・AR・MRなど「xR」と呼ばれる技術が進化し、ゲームだけでなく様々な領域で実用化され始めています。
例えば、選手目線のスポーツ観戦、家の内見や家具のバーチャル配置、避難訓練体験や危険な場所での作業シミュレーション、その他にも医療や教育の現場での活用などがあります。
日本では2016年頃からVRヘッドセットが普及し始め、VR動画配信が始まったり、VR体験施設が建てられたりしています。
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下では、自宅で過ごす時間が増えた事もあり、VRヘッドセットが一時品薄になりました。
私自身も、先日やっとヘッドセットを手に入れ、夢のようなゲーム世界から紛争地帯のドキュメンタリーまで様々な作品を見ています。
作品に没頭するあまり、ふと自分が今どこにいるかわからない瞬間があります。
ところで、Virtual Realityの訳語として定着している「仮想現実」ですが、実は専門家の間では昔からVirtual=仮想という訳が適切ではないという指摘があるのは知っていますか。
バーチャル(Virtual)とは”みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること”
The American Heritage Dictionary / 日本バーチャルリアリティ協会 より
「原物そのものではないがほぼ現実」というのが元々のVRの意味でしたが、日本語の「仮」という言葉が「一時的な・偽物の」というニュアンスを感じさせるため、VRとその関連技術で作り出す世界は所詮作り物で現実ではないような気がしてしまいます。
しかし、果たしてそうなのでしょうか。
先に挙げたVR活用事例には様々な「体験」コンテンツがあります。
災害現場にしろ、職業訓練の場にしろ、作り物であるのは間違いないのですが、もしそのVR空間で人間同士がコミュニケーションして喜んだり傷付いたりするのならば、体験した人にとってはその事実を現実ではないと言い切れないのではないかと思うのです。
VR空間であっても、感じた気持ちそのものは嘘でも仮でもなく、本物だからです。
作中のユーゴさんは、バーチャル世界で自由に動き回るレイカさんと出会いました。
心を通わせ恋をしますが、レイカさんは4年間眠り続けているという「現実」を突きつけられます。
そしてユーゴさんは、自らの意志でバーチャル世界を「本当の人生(現実)」と決めました。
複数の人生を生きるとはどういうことかをテーマに置いてきたこの「ふたつ目の人生」シリーズにおいて大変意義深い瞬間です。
人生には悲しみも喜びもあり、それ自体を自分自身がどのように捉えるかが重要と言われています。
自分次第で”擬似的に”複数の人生を生きることができる時代に、幸せとは何かを考える。
それはいわば、自分が幸せに生きれる場所を探す事に他なりません。
ユーゴさんの場合はレイカさんと生きるVR空間がその場所でした。
さて最後に、VR心理学に関する興味深い実験の話をもう一つ。
スタンフォード大学ジェレミー・ベイレンソン教授が行った実験で、VRでヒーロー体験した人たちはそうでない人たちと比べて積極的に人助けをする傾向にあったそうで、VRで体験した事が現実世界での心と行動に影響を及ぼすと結論づけています。
スタントマンとしての訓練を受けたユーゴさんはどうだったのでしょうか。
(参考文献:静岡産業大学 通信41『最近のVR技術の浸透とVR体験が心に及ぼす作用について』)
原案・解説文章:未来予報株式会社(@miraiyoho)
シナリオ:茶谷葉(@tyatani_you)
漫画:永田 狐子(@n_kitsuneko)
編集:伊勢村幸樹 井田峻平(@ida_pei)