[Side Story] 静かな海の攻防②
■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
静かな海の攻防②
シーライオンは太平洋でテスト飛行を行っていました。さのシーライオンを攻撃すべく、海中に潜む、中国潜水艦『潜龍』。そして、それを阻止しようと接近するアメリカ海軍『ブルーキャット』以下4隻の潜水艦部隊。
シーライオンがテスト飛行を行っている舞台裏では、静かな攻防が行われていたのでした。
ブルーキャット艦長は、にやりと笑うと、乗組員に指示しました。
「よし、驚かしてやろう。全艦、ピング、撃て。」
ピング。
アクティブソナーですね。自ら、ある音波を放って、その音波の反射音により、敵艦の位置を把握するのです。一方、逆に、自分の存在を相手に晒すことにもなります。
ただし、今回は、敵艦の発するスクリューの音や、敵艦の動きにより発生する水の音によって、既に、その位置は確実に把握できていました。
従って、ピングを放ったのは、むしろ、積極的に自らの存在を相手に伝えるためです。
要するに、『いつでも攻撃できるぞ』
という警告です。
「な、何だ!」
「本艦、ピングを受けました。」
「前方に潜水艦、4隻。距離、700。微速で接近しています。」
「ア、アメリカ軍か。」
案の定、『潜龍』の艦長と乗組員はアメリカ側の意思を知って、動揺しました。しかし、それに屈してもいられません。
「ターゲット、来ます!」
その知らせに艦長は、我に返りました。
「ターゲットの攻撃を続行する。ミサイル、いいな?」
「はい。いつでもどうぞ。」
冷静な自分を、精一杯の気力で取り戻すと、作戦続行の意思を乗組員に見せます。
「よおし・・・、ミサイル・・・、」
問題は、ミサイル発射のタイミングだけです。
艦長は、左手首の腕時計を見つつ、右手を上に上げて、まさに、発射の指示を出そうとしています。
しかし、米国潜水艦は、さらに上手でした。
「ターゲットまでの距離、600。」
「よし。砲雷長、魚雷発射!」
『潜龍』に向けて魚雷を放ちました。ただし、一発だけ。旗艦ブルーキャットからの攻撃です。
一見、攻撃の意思を疑いそうな、たった一発の魚雷でしたが、『潜龍』には、その何倍もの威力がありました。
「敵艦から、魚雷発射音。」
「な、何?」
思惑通り、『潜龍』艦長は、部下の報告に慌てふためいてしまったのです。
「目標が上空を通過! ミサイル、撃ちますか?」
「し、しまった・・・。」
ミサイル発射のタイミングを、たった一発の魚雷が攪乱したのです。しかも、当然のことながら、魚雷は自らに向かって進んできています。命中すれば、『潜龍』は海の藻屑となるかもしれないのです。
一方、任務に忠実であるのなら、いちかばちかでミサイルを発射するという選択も可能なはずなのです。
『潜龍』の艦長は、この思考のループによって、致命的な時間のロスを犯しました。
「魚雷接近!」
「回避だ、回避しろ!」
結局、選んだのは、自らの身の防衛でした。
しかし。
「ダメです、間に合いません。」
完全に詰みました。いえ、艦長は思考できなくなっていたのです。
「魚雷、距離200・・・100・・・、」
「全員、衝撃に備えろ!」
なんとか、声を絞り出すように乗組員に指示しました。
しかし、その狼狽振りはブルーキャット艦長には見透かされていたのです。
「距離・・・、あ、魚雷が転進! 右に逸れます!」
「ど、どういうことだ?」
果たして、魚雷の調整ミスなのか、故障なのか。
「右舷すれすれを通過。後方に抜けます。」
「・・・、」
「右舷後方で、魚雷が爆発。」
「く、くそっ・・・。」
ひとまず、命が助かったというのに、『潜龍』艦長は強く歯ぎしりしながら、ブリッジの壁を思い切り殴りました。
一方、ブルーキャット。艦長は余裕の表情でキャプテンシートに座って、部下からの報告を聞いていました。
「攻撃完了。」
「敵潜は?」
「動きはありません。ミサイルも撃ちませんでした。」
艦長は鋭く笑みを浮かべました。してやったりです。
「ふん、発射のタイミングを逃したな。それで、上空の物体は?」
「はい。既に通過。サンフランシスコ沖に向かって飛行中。」
今回の作戦、もちろん、軍の正式な命令の下に行われたのですが、実は艦長は、大統領からも直々に、簡単ではありますが、説明を受けていたのです。
『私の言葉だけでは信じられないかもしれない。しかし、いま、この世界に、というか我々の住む地球に危機が迫っているのだ。そして、それをいち早く察知して、行動を起こしている者達がいるのだ。我々は総力を挙げて、その、行動している者達を支援しなければならない。』
艦長は、その大統領からの言葉を、自分の艦の主だった者にも伝えました。みな、一様に、首を傾げていましたが、艦長は付け加えて指示しました。
『確かに、俄には信じがたいが、大統領からの言葉であり、軍からも正式に命令されているのだ。ならば、軍人である我々は、それを信じて、全力を尽くすべきだ。』
こうして、この艦長の部隊は、この時点では、まだ公表されていない、なぞの高速飛行物体を支援するために出撃したのです。
「よし。作戦完了だな。引き上げるぞ。」
艦長は、いつものように部下に命令しました。
「前方の敵潜はどうしますか?」
そうです。今回の任務は、あくまで、高速飛行物体の支援であって、敵艦の撃沈が任務ではなかったのです。結果として、その敵艦『潜龍』は、今も同じ位置にとどまっているのでした。きっと、いつとどめを刺されるのか、あるいは、拿捕されるのかとビクビクしているに違いありません。
艦長は一瞬、目を閉じて考えると部下に命令しました。
「『おつかれさん』、とでも打っておけ。」
「はい、送信します。」
「送信次第、全艦速やかに限界域を離脱。次の作戦海域に向かう。」
こうして、海中での静かな攻防は幕を下ろしたのでした。
(つづく)
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。
『宇宙巡光艦ノースポール』はKindleで電子書籍として販売しています。
最新巻、発売中です。『未来の宇宙船』によってもたらされた未来の技術を使用した宇宙船、シーライオンが、現代の空で試験飛行を行います。
本 Side Storyで描かれた静かな攻防の『表』舞台について書かれています。併せてお読み頂けると、本作品世界をより深く理解して頂けるものと思っています。
■宇宙巡光艦ノースポール
・第2章 宇宙巡光艇シーライオン
・第1節 静かな海、太平洋
さらに、第1章の4冊も発売中です。
ノースポールの世界がどのようにして始まることになったのか。
小杉さんとライラさんはどのようにして、プロジェクトに参加することになったのか。物語の発端のわかる内容となっています。
是非、お読み頂けると幸です。
全巻、Kindle Unlimitedに対応しています。
なお、『宇宙巡光艦ノースポール』シリーズは、隔週木曜日に、最新刊を発売予定です。次巻は2024年5月2日(木)の発売を予定しています。
乞うご期待。
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※ごめんなさい。作者はAndroidユーザーなので、IOSについては苦手なのです。iPhoneにも同様のアプリがあるのだと思います。
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2024/04/24
はとばみなと