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[Side Story] 久しぶりの帰省⑦
■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
久しぶりの帰省⑦
翌朝。
「おばあちゃん、おはよう。」
お母さんが、おばあちゃんの部屋のふすまを開けました。
「おばあちゃん?」
おばあちゃん、まだ眠っているのでしょうか。お母さんはベッドの横まで行くと顔を覗き込みました。
「・・・」
おばあちゃんは、目を閉じて静かに眠っているようです。おだやかな顔をしています。
でも、
お母さん、何かに気付きました。
いえ、直感的に分かったのです。素早く立ち上がって、走って部屋を出るとリビングも抜けて、3階に上がる階段の下で叫びました。
「あなた、勝さん!」
お父さんもまだ目が覚めたばかりで、パジャマ姿のままです。
「早く、早く来て!」
しかし、その尋常でない声を聞いて、お父さんもすぐに2階に降りました。
そして、お父さんも、見たのです。
おばあちゃんが、静かに、穏やかな表情で眠っているのを。
しばしの沈黙の後、お母さんに頼みました。
「先生に連絡するんだ。」
お母さん、急いでリビングに戻るとテーブルの上に置いてあったケータイを手にしました。
「・・・、あっ、池上です。朝早くすみませんが、急患をお願いします。」
2階が騒がしいのに気付いた、舞さんと萌さんも起きてきました。
萌さん、眠そうな目で立っていましたが、おばあちゃんの様子を知ると、思わず、隣に立っていた舞さんの右肩に抱きつきました。舞さんが、その萌さんを強く抱きしめました。萌さん、舞さんの腕の中で泣き始めました。
「おばあちゃん・・・。」
舞さん、涙こそ見せていませんでしたが、口元を強く締めて、悲しみをこらえているようです。
まもなく、掛かりつけのお医者さんが来ました。おばあちゃんのベッドの横に来ると、素早く診察しました。しかし、すぐに、握っていたおばあちゃんの左手を静かに布団の中に戻すと耳に当てていた聴診器も外してカバンの中にしまいました。
そして、お父さんとお母さんに向かって聞きました。
「確か、先日97歳になられたとお聞きしましたが。」
「はい。先月、5月です。」
お父さんが答えました。
「そうですか。それでは、大往生ですね。穏やかな顔をされてます。1人でいる時に旅立たれたようですが、同じ家にみなさんいらっしゃったのですから、きっと、安心して行かれたのでしょう。」
舞さん、瞳に溜まっていた暖かいものが一気に溢れ出ました。頬を伝って流れ出しました。萌さんを抱き抱えたまま、その場にしゃがみこみました。
「・・・、昨日は、あんなにいっぱい話したのに・・・。」
しばらくして、お医者さんが帰りました。それを見送って戻ってきたお父さん。
両手で顔を覆うようにして座っているお母さん、舞さんに抱かれて、その腕の中で泣いている萌さん。
お父さんも、しばらくの間、おばあちゃんを見つめていましたが、低い声で話し始めました。
「申し訳ないが、みんな、手伝ってもらえないか。いろいろ、やらないと。」
そのことばに、お母さんと舞さん、萌さんも顔を上げました。
それからしばらくの間、慌ただしい日々が続きました。家には大勢のお客さんが訪れました。お寺にも行きました。
そして。
『チーン。』
お父さんが、仏壇の鐘を鳴らしました。澄んだ音色が家の中に響きました。リビングの隣の部屋です。ここに立派な仏壇があるのです。おばあちゃんも、大勢のご先祖様のいる、この、池上家の仏壇の中に入られたのです。
仏壇の正面に座るお父さん。その後ろに、お母さんと舞さん、萌さんが並んで座っています。部屋にはお線香の厳粛な香りも漂っていました。
お父さんとお母さん、舞さんと、萌さんも、手を合わせると目を閉じて祈りました。
おばあちゃんが静かに眠ることが出来ますように。
(つづく)
■宇宙巡光艦ノースポール
・第2章 宇宙巡光艇シーライオン
・第1節 静かな海、太平洋
本日、2024年4月18日、無事、発売開始しました!
まだ、池上舞さんは登場していませんが、いよいよ動き出すノースポールの世界を楽しんで頂けるかと思います。
ぜひ、ご購入していただいて、お読み頂けるとさいわいです。
さらに、第1章の4冊も発売中です。
ノースポールの世界がどのようにして始まることになったのか。
小杉さんとライラさんはどのようにして、プロジェクトに参加することになったのか。物語の発端のわかる内容となっています。
是非、お読み頂けると幸です。
全巻、Kindle Unlimitedに対応しています。
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※ごめんなさい。作者はAndroidユーザーなので、IOSについては苦手なのです。iPhoneにも同様のアプリがあるのだと思います。
以上、よろしくお願いいたします。m(_._)m
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2024/04/18
はとばみなと