[Side Story] 久しぶりの帰省⑥
■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
久しぶりの帰省⑥
舞さんが育ったこの家には、実は、もう1人、ご家族がいらっしゃいます。
おかあさんがリビングの東側のふすまを開けて廊下に出ると、その向かい側のふすまを開けました。舞さんもついて行きます。
「おばあちゃん、」
窓からは明かりも差し込んで、また、景色も素晴らしいです。何しろ、道路から3mほどかさ上げした上に立つ家の3階です。街並みが少し続いた向こうには海が広がっています。昼間は目立ちませんが、夜は対岸の岬に立つ穴水灯台の光がきれいだそうです。
部屋の南側の窓の手前にベッドがありました。だいぶ高齢と思われる女性が、上半身だけ起こしたベッドの上からお母さんの方を向きました。
舞さんのおばあちゃん、毬さんです。『毬』は『まり』、つまり、日本に古くから伝わる『ボール』の意味があります。
「もうお昼かしら? まだ少し早いようだけど。」
お母さんは部屋に入ると、舞さんも中に招き入れました。
「おばあちゃん、舞が来てくれたわよ。」
おばあちゃんの表情が、パッと明るくなりました。
「ま、舞なのかい?」
舞さん、ベッドの横にある椅子を引き寄せて、おばあちゃんのそばに座りました。
「おばあちゃん、ただいま。ごめんね、だいぶ長い間帰ってこなくて。」
「あらあら、ほんとに舞なのかい? きれいになって。見間違えそうだねえ。」
舞さん、おばあちゃんの手の上に自分の手を重ねまた。
「おばあちゃん、体の具合はどう?」
「うんうん、最近少しだけ楽になったの。」
でも、おばあちゃんのその声はとてもか細くて、とても弱々しかったのです。先ほど聞いた話では、おばあちゃんは病気もなくて一応健康なのですが、体の衰えが激しくて、最近は食事もほんの少ししか食べることが出来ないのだそうです。
そういえば、舞さんが以前会った時には、おばあちゃんは、昼間はリビングに来てコタツに入ることも出来ていました。かなり弱々しい足取りでしたが。でも、最近は、一日中ベッドの上で過ごしていて、眠っている時も多いのだそうです。
「東京はどう? ちゃんと暮らしているのかしら?」
「うん。大丈夫だよ。」
舞さん、笑顔で頷きました。
「そうかいそうかい。あたしがもう少し元気だったらねえ。一度くらいは舞に会いに東京に行けたかもしれないのにねえ。」
「大丈夫だよ。きっともう少ししたら元気になって東京にも来れるよ。」
「あら、ほんとかしら?」
おばあちゃん、笑みを浮かべてます。
「うん。そしたら、私が浅草に連れてってあげるから。春が良いんじゃない? 隅田川の桜がとってもきれいなの。」
「あら、楽しみねえ。浅草寺にお参りしたかったのよね。」
「じゃ、おばあちゃん、頑張らないと。」
「そうねえ。」
舞さん、おばあちゃんの手に自分の手を重ねたまま、しばらく、おばあちゃんを見つめていました。
そして。
「おばあちゃん、あのね、」
「どうしたんだい?」
舞さん、ちょっとだけ、失敗したかもしれないと後悔しました。つい今しがた、もう少しして、おばあちゃんが元気になったら、浅草に連れて行ってあげると約束したばかりなのでした。でも、本当は、しばらくの間、おばあちゃんに会えなくなってしまうのです。
「あのね、もうすぐ、仕事で遠くに行くことになったの。」
「どこに行くのかしら、アメリカかい?」
「ううん、もっと遠いところなの。」
そうなんです。アメリカよりももっと遠いところ。
「あたしね、宇宙に行くの。」
おばあちゃん、目がまんまるになりました。
「おやおや、世の中もだいぶ変わってしまったのね。今は月旅行も当たり前なのかしら?」
舞さん、さすがに説明に困ってます。でも、ほんとのことを伝えるしかないのです。
「えっとね、月も行くかもしれないし、もっと遠くにも行くかもしれないの。」
「それはすごいこと。織り姫様と彦星様にも会えるのかしら。」
一気に太陽系を飛び出しました。織り姫と彦星とは七夕の伝説で有名な星ですね。地球からは、天の川を挟んで、お互いに対岸に向かい合うように輝いています。
織り姫は、こと座のベガという星です。地球からの距離は25光年。太陽の2.6倍ほどの大きさの恒星です。
一方の彦星は、わし座のアルタイルという星です。地球からの距離は17光年。大きさは太陽の1.9倍ほどの恒星です。
最終的にはまだわかりませんが、シーライオンのテスト飛行で、VMリアクタやドライブパネルが予定通りに稼働することが確認できれば、2つの星、ベガにもアルタイルにも、おそらく簡単に行くことが出来るはずです。
・・・、舞さんのおばあちゃんも連れて行ってあげられると良いんですけれど。
(つづく)
■宇宙巡光艦ノースポール
明日、2024年4月18日に、最新刊が発売となります。
未来の技術を使用した宇宙船として、ノースポールの飛行を成功に導く天使として、『宇宙巡光艇シーライオン』がテスト飛行に飛び立ちます。地球の大気圏でのテスト飛行ですが、シーライオンは、青く、静かで、平和な海、太平洋の上空を滑るように飛行します。
また、ここに至る、物語の発端を描いた、第1章の4冊も、引き続き発売中です。現在の地球に突然飛来した火球。その正体である『未来の宇宙船』は、どこから来たのか。『未来の宇宙船』のいた未来で、何が起こったのか。その疑問に答える内容となっています。
お読み頂けるとさいわいです。
全巻、Kindle Unlimitedに対応しています。
なお、Kindleの電子書籍は、スマホにアプリをインストールすると読むことが出来ます。
※アプリ自身は無料です。
※電子書籍は、それぞれ設定されている料金でご購入が必要となります。
※ごめんなさい。作者はAndroidユーザーなので、IOSについては苦手なのです。iPhoneにも同様のアプリがあるのだと思います。
以上、よろしくお願いいたします。m(_._)m
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2024/04/17
はとばみなと