[Side Story] 久しぶりの帰省⑨
■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
久しぶりの帰省⑨
妹の萌さんに背中を押してもらった舞さん。
そして、その萌さんには、幸運の女神が微笑んでくれていたのです。
「あとね、一応報告なんだけど。」
「ん? 何?」
萌さん、実は、その話をするために舞さんの部屋に来たのです。
「・・・、あたしね、結婚するの。」
舞さん、とっても驚いた表情に変わりました。確かに、長い間、家には帰ってきていませんでしたが、そんな話が進んでいたなんて。
「えっ!? 誰と?」
もしかして、久地さんの息子さんの海人君だったりして。舞さん、勝手な妄想をしてしまいました。
「広島の人なのよ。入谷正さんって言うの。」
「広島、広島県?」
「そう。SNSで知り合ったの。」
今では、出会い系のサイトを利用するのも当たり前の世の中になっているのですが、萌さんは、写真とか動画を投稿するサービス、ほら、あれです。おそらく、みなさんの時代にも提供されているあのサービスを通じて知り合ったようなのです。
「もしかして、M.I.?」
そうです。入谷正、いりやまさし、なので、イニシャルはM.I.ですね。
実は、ちょっと事情があるのです。
「そう、そうなの。別に意識して探したわけじゃないんだけどね。お父さんからも、こだわらなくていいって言われてたし。」
「でも、M.I.か。家訓は守られるわけね。」
「偶然だけどね。」
そうなんです。池上家に代々伝わる家訓があるのです。
『池上家の者は、『ま』の行で始まる、漢字で一文字の名前を持つべきである。』
言い伝えによれば、明治時代の初め頃、ご先祖様が夜眠っている時に、枕元に、金色に輝く仏様が現れて、伝えたのだそうです。
『『ま』の行と、一文字こそ吉である。』
そのご先祖様が自分の名を改名したところ、生業としていたカキの養殖が軌道にのったそうなのです。それが今の池上家の元らしいのです。
それで、現在の池上家ですが、舞さんは、ま行で始まる1文字の名前ですよね。同じように、萌さんも、ま行で1文字。お父さんは、勝さん、お母さんは、命さんなので、やはり、ま行で始まる1文字です。
ちなみに、お母さんは『めい』さんと読みます。もちろん、お母さんは、もともとは、池上家の人間ではありませんでしたが、お父さんと知り合った時に、その家訓を教えられて、運命的なものを感じたので嫁いできたのだそうです。
「でも、結婚て、萌も家を出るの?」
「ううん。」
「てことは、お婿さん?」
「お父さんもお母さんも、その必要ないって言ってくれたんだけどね。入谷さんが婿入りするって言ってくれて。」
おお、なんか、いろいろ気配りしてくれる方なのでしょうか。でも、婿入りとかなると、先方の家の事情とか大丈夫なのでしょうか。
「彼は、次男なんだよ。お兄さんがいて、もう家の仕事を継いでるそうなの。」
「ふーん。そちらの家、仕事は何してるの? 農業なのかな、それとも、お店なのかな。」
「えっとねえ、入谷さんの家、うちと同じで、カキの養殖してるんだよ。」
あっ、なるほど。広島と言えば、カキが名産ですものね。
「えっ、それはまた偶然よね?」
「うん。もう、3回くらいお邪魔してるんだけど、うちと同じくらいの広さの養殖棚を持ってるんだよ。」
なるほど。なんか、萌さんにとっても、池上家にとっても、余りにも幸運な展開ですね。
あれ、なんか、萌さんが、申し訳なさそうな表情です。
「でも、ごめんね。お姉ちゃんよりも先に結婚しちゃって。」
「えー、そんなの気にすることないよ。あたしはあたしでやりたいことをやらしてもらうんだから。萌も、自由にしていいんだよ。」
そうそう、その通りです。折角のご縁なのです。
その幸運が導いてくれるままに進んで良いように思います。
「うん、ありがとう。」
「おめでとう、萌。」
(つづく)
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■宇宙巡光艦ノースポール
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2024/04/21
はとばみなと