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ミイラ女の『新規巻き直し』【短編小説・1200字】#秋ピリカ応募

「ハロウィンの仮装……まぁ、状況は理解した」

 リビングの床にペタリと座る小学2年生、和樹に対して。俺は努めて冷静な口調で、説明を試みる。

「第一に。ミイラ男のあれは本来、紙ではなく布の包帯だ。第二に、それを包帯の代わりにするとしても、それは水に溶けやすい。だから仮装には使えない」
「……わかった」

 ミイラ和樹が、その白いぐるぐる巻きの隙間から、小さく返事をする。俺は和樹の頭をポンポンと撫でながら「仮装は後で一緒に考えてやる」と言い、散乱するトイレットペーパーの中に芯を見つけ、和樹に手渡した。

「ほどいたら捨てずに、全部巻き直せ」
「うん」

 そして俺は、和樹が見つけてきた数枚の写真、その中の一枚を手に取る。
 写っているのは、トイレットペーパー製のミイラ女。
 ミイラ女は、和樹の母親だ。

 十二年前の、サークルの飲み会。
 一部の奴が店の備品にまで手を出し騒ぎすぎたせいで、通報寸前の店側に即時退店を要求され。その混乱の中、幹事の一人だった俺が任されたのは、元凶のミイラ女をコートで覆い、タクシーに乗せ運び出すことだった。

「わー。史人んち、きれいだねー」
「そう思うならその、トイレ由来の不衛生な物を、っおい、引き千切るな。全部巻き直して、責任持って使い切れ。あと酔ったフリすんの、もうやめろ」
「バレてたー」

 ニヤリとした顔の脇に紙の端を見つけた俺は、それをミイラ女、葉子に教えてやる。程なくして葉子は、全身からトイレットペーパーを外すことが出来た。

「ねー、酒飲みたいー」
「水濡れ厳禁、諦めろ」

 葉子は「ぶー」と言い、だが素直に、床に座って紙を巻き出す。
 俺は息を吐き、葉子を見下ろしたまま言った。

「それで? あの二人の当て馬役には満足か?」
「お見通しー、ハハッ。ミイラなアタシの襲い方がエロ良すぎたよねー、由姫も智紀も素直になっちゃって、まさかの公開告白! うーん、めでたい!」
「お前。それでいいのか?」
「んー? なんでー?」

 智紀を好きだったはずの葉子が、とぼけた返事をする。

 葉子がなにを考えているのか、俺にはいまもわからない。
 十二年後、「シングルマザーになっちゃったー」と言いながら俺の所に転がり込んできた、その魂胆も。

「ただいまー。って和樹、どうした……あー! なっつかしー!」

 葉子が、俺の手から写真を奪う。が、俺はすぐにそれを奪い返した。

「連帯責任、いや全部お前のせいだ。とっとと和樹を手伝え」
「アタシのせいかー」

 葉子は芯を見つけて和樹の横に並び、トイレットペーパーを巻き付け始めた。

「ねーこれって。新規巻き直し、ってヤツー?」
「それは誤用だ。夕飯までに終わらせろよ」
「らじゃー」


 キッチンで夕飯の仕度をしながら、気付いた。
 俺は。あのミイラ女の『新規蒔き直し』……『巻き直し』に、巻き込まれている?

「……考えても、無駄か」

 俺は独り言ち、火を止め。
 鍋に、甘口のルーを放り込んだ。



※※ 線上まで・1198字※※

ミイラ女の『新規巻き直し』
【2024.10.05.】up.
【2024.10.06.】修正

#秋ピリカ応募

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# 店の備品で遊ぶんじゃねぇ元居酒屋店員より
# トレペで骨折ネタ&パンツ脱いで出禁になった兄ちゃんたち元気かな

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駒井かや【物書き修行中&鳩には道を譲りたい】
最後までお読みいただきありがとうございます! 物語の読み手になってくださったアナタさまに心からの感謝を! そしてアナタさまにキラッキラの小さな幸せがたくさんたくさん降り注ぎますように!