見出し画像

「キツネノテブクロの咲く頃に・外伝」 二つの種族と二つの鏡の伝説/アイラと鏡工房のお客さま(1)


あらすじ・第1話→https://note.com/maneki_komaneko/n/n6e4ebdef1b6b

前回→<9>そして、キツネノテブクロの咲く頃に(2)[最終話
**記事の終わりに目次があります。**


当方へのご来店、誠にありがとうございます!
また、『キツネノテブクロの咲く頃に』本編をお読みくださったアナタ様へ、ありがとうございました!

本編をすっかり書き終わってから、ふと脳内に浮上してきた「あれ、イマサラなんだけどさ、鏡ってなんで二種類あるの? 」という疑問への答え、あと二人のその後のことを少し書いてみよう、と思い立ち、こうして外伝というカタチにしてみました。
もしよろしければ、お付き合いくださいませ☆

ではでは。ごゆっくりどうぞ~。

*********


キツネノテブクロの咲く頃に・外伝

<外伝1>創世記・二つの種族と二つの鏡の伝説

(約1900字)

…<幕間2>創世記・祝福の翼 

 むかし、むかし。
 神に祝福の翼を授けられ鳥となった生き物たち、その中で、他の鳥たちとは異なる道を選んだ二つの種族は、互いを隣人とし、祝福された地で穏やかに暮らしていた。

 一つは、神よりもう一対の翼を授かった四枚羽の鳥、『四枚羽の一族』。

 そしてもう一つは、二対の翼の代わりに、腕と手、そして内在する器官を得た、『人間』という種族。

 四枚羽の一族はのちに、人間の姿に変化へんげする力を得て、人間の姿に一対の翼が生えた姿をとるようになり、人間と区別するために『翼ある者』と呼ばれるようになっていた。


 あるとき、翼ある者が嘆いて、言った。

 ――神の栄光に満ちた、この地は美しい。だが、この地に立つ己が存在を、このまなこで見ることは叶わないのだ。

 それを聞いた人間は、水のほとりで己が姿を見たことを思い出し、翼ある者に教えた。しかし翼ある者は、水面にうつるそれに満足することは出来ず、その嘆きがやむことはなかった。

 人間は、岩場で見つけたある石に、己の影を見たことを思い出した。人間は神に与えられた腕と手、世界を祝福するためのそれらでその石を祝福し、翼ある者に贈った。
 翼ある者は贈られた石を『聖なる魔の山』に捧げ、その石に魔を通わせた。するとその石は、この世のすべてをうつす鏡となり、翼ある者は、世に己が姿が在るのを見て、おおいに喜んだ。

 翼ある者は人間と、石を鏡にする技法を分かち合った。この美しい世界に生きる自らの姿をうつす鏡を、それぞれの種族は尊び、多くの鏡を作り出した。

 人間の手、そして『聖なる魔の山』の魔に祝福されたことで、鏡には精霊が宿った。
 二つの種族は鏡の精霊に感謝の祈りを捧げ、鏡の精霊もまた、二つの種族を慈しんだ。


 二つの種族がそれぞれに世代を重ねて、時を経たあるとき、人間が言った。

 ――鏡は、己がまなこには見えないものどもをうつし出す。それは、なんと恐ろしいことだろう。

 長い歳月のうちに人間は、神や精霊の姿を見失っていた。
 だから、鏡がうつし出すそれらをいぶかしみ、恐れたのだ。

 人間のことばを耳にした鏡の精霊は、それでも、人間を慈しんでいた。
 精霊は人間の望みを叶えるため、鏡のことわりを書き換えた。

 しかし、鏡の精霊が驚きと嘆きのあまり、理を書き換えるための手をうっかり震わせてしまったことで、人間の国の鏡には、人間の目に見えない精霊や人ならざる者ばかりでなく、人間の目に見えるはずの、魔を多く宿す生き物たちもうつらなくなってしまった。

 翼ある者は『聖なる魔の山』の地に留まることで、その身に魔を多く宿していた。
 鏡の理が書き換えられたことによって、鏡の中に己の姿を見出すことが出来なくなってしまった翼ある者は、嘆き悲しみ、そして怒りに打ち震えながら、言った。

 ――人間は、なんと恐ろしいことを望んでしまったのか。創世の同胞に、己が存在を否定される日が来ようとは。

 翼ある者は、己が姿が再び鏡にうつるようにと願い、祈りを捧げた。鏡の精霊はその願いを聞き届け、元の理にのっとった石を生んで、翼ある者に与えた。

 このとき、二つめの理を生んだことで、鏡の精霊は二つの存在となった。

 翼ある者は、さらに願った。

 ――人間は、同胞の存在を軽んじ、否定した。それは、同等の報いを受けることであがなわれるべきである。

 鏡の精霊は、その願いを聞き届けた。
 鏡の理は書き換えられ、このときから翼ある者の鏡は、鏡の中の世界に人間の存在を認めず、その姿をうつさなくなった。


 だから。
 この世界には、二つの鏡が存在する。

 一つは、人間の目にうつらないものをうつさず、人間の目にうつるすべてのものをうつし、だが、その身に魔を多く宿す生き物をうつさない鏡。

 一つは、この世のすべてのものをうつし、だが、人間の存在だけをうつさない鏡。

 鏡にはそれぞれ別の鏡の精霊が宿り、それぞれの鏡の精霊は、二つの種族が鏡の先に見る世界を見ている。
 それ故に、二つの精霊はいつしか背中合わせとなり、互いを見ることは永遠に叶わなくなってしまい、しかしだからこそ鏡の精霊は、この世のすべてを見て知る存在となった。


 そして――悠久の時の果てに、一つの種族の滅亡が、その歴史に刻まれた。
 だが、この世界にはいまも、二つの鏡と、二つの鏡の精霊が在る。

 この世のすべてをうつす鏡の精霊は、人間の鏡の精霊が見ない世界を見ている。
 それは、人間が否定した世界を見つめる者がまだ在る、そのあかしでもあった――。



<外伝2>アイラと鏡工房のお客さま(1)

(約5500字)

わしは、空を飛んだことがある」

 祖父がそう語り始めたのは、アイラが祖父に肩を貸しながら、酒場から工房のある自宅へと、祖父を引きずるように歩いていたときのことだったのだが、ただ、そんなときじゃなかったとしても、アイラが祖父のことばに驚くことはなかった。

 祖父はアイラに、もう何度もこの話をしていた。
 幼い頃はともかく、十八歳になった、いまとなっては……いや、もうだいぶ前からだけれど、その話の真偽くらいわかる。というか祖父は、なぜいまだに自分を子供扱いするのかと、ちょっと腹立たしくもなる。確かに昔、祖父からこの話を聞かされて、「じいちゃん、すごいね!」などと、喜んだ記憶もわずかにあって。
 祖父はたぶん、この話をすることで、アイラの機嫌を直したがっているのだ。

 まあ、だから。
 祖父が次になにを言うのかも、アイラには、すっかりわかっていて。
 なんなら、一言一句間違えずに復唱することが出来るので、祖父への嫌味のつもりで、そうしてみせることにする。

「ハァ。『そして、月迎えの滝の全体を、空から見下ろした』、でしょ?」
「おまえ……いいから、儂の話を聞かんか」
「私の話を聞いてくれない親方に、言われたくない」

 鏡工房の親方である祖父に、鏡職人として弟子入りしたのはもう五年も前、そのときからアイラは祖父のことを『親方』と呼ぶようになったのだが、祖父への口調が変わることはなかった。

「自力で帰れないくらい飲むのはだめだって、何度も言ってるのに。そもそも、村がいろいろ落ち着くまで、しばらくは酒場に行かないでって私、今朝も言ったよね?」
「……おまえこそ。そろそろ儂の話を、ちゃんと聞け。工房を継ぐ気があるのならな」
「父さんの代わりに私が継ぐって、何度も言ってるじゃない。ちゃんと聞くわよ」
「儂は……空を、飛んだことがある」
「っ、もう! ちゃんと聞くって、言ってるのに!」
「ハァ。おまえは少々、せっかちが過ぎるぞ。こうなると、工房に来る客への対応が心配だな」
「なによ、それ!」

 六十歳になる祖父の、耄碌もうろく具合のほうが心配だと、アイラは祖父に向かって言ってやりたかった。だが、あとになってわかったことには、アイラのこの心配は杞憂に過ぎなかったし、つまり確かに、アイラのせっかちが少々過ぎていたのだ。 


+++

「はい、手鏡の修理のご依頼ですね。承っております」

 アイラは、にこやかな、と形容されるような表情を意識し、ことば遣いに気をつけながら、訪れた客に返答した。

「よろしければ、ご依頼の鏡を私が拝見しまして、日程と工費のご説明を、」
「ああ、いや。ええと……」

 アイラのことばを遮った割に言い淀む、背の高い男を、アイラは工房の、接客用の作業台越しに見上げた。
 この村の者ではない。外套や背負い袋の、使いこまれた様子からも旅の人間だとわかるその男は、赤毛の長い髪をうしろに無造作に束ねていて、そこからこぼれたらしい前髪が、顔を隠している。口元も赤毛の髭に覆われていて、一見して怪しい風体なのだが、なぜかそのような感覚にはならなかった。
 むしろ、思い出すのは……猫、いや犬か。もふもふと、気持ちよさそうな……。
 アイラはそこで祖父の『客への対応が心配だ』という声を思い出し、客に抱いた失礼な感想を頭から追い出した。

 アイラは、客がなにをためらっているのかを、これまでの経験から導き出して、客に尋ねた。

「もしかしたら、とても高価なお品物なのでしょうか? 親方にしか触れてほしくないような」
「あっ……うん。出来れば、そうしてほしいかな」

 なんとなくまだ歯切れが悪い気がするが、まぁ要するに、親方案件だということだ。

「では、ただいま親方をこちらに呼んで、っ、……きたいところなんですが、」
「はい……?」

 ただいま、親方は……二日酔いで死んだように寝ていて、午前中はどんなことをしても絶対に起きないので……。
 と、口には出さず、頭の中だけでその理由を連ねる自分に、アイラは泣きたくなる。一瞬でも、それを忘れてしまっていただなんて……とにかく、ごまかすしかない。

「ええっと、その、午後には戻る予定なんです。ご足労いただいてるのに、すみません……」
「ああ! いえ、かまいません。ほかにも所用があるので、それを済ませてこようかな。じゃあ、また午後に」

 男はやわらかくアイラに告げ、身をひるがえして扉に向かう。扉を開けてすぐの場所に、男と同じような旅装で外套のフードをかぶった、男よりもひとまわり小柄な誰かがいて、男はその人に声をかけながら出て行った。


+++

 アイラはベッドの上で起きていた祖父に、酔い覚ましになるようなスープを無理矢理飲ませながら、午前中に来た客のことを話した。

「だから午後は絶対、工房にいてよね! あー、恥ずかしかった!」
「おまえ。儂が二日酔いだと客に教えたのか」
「言うわけないでしょ! もう、私ってそんな信用ない、」
「ならいい。だが、依頼を受けられるかどうかは、難しいな」

 祖父は言い、スープを飲み干してから、続けた。

「流行り病が治まらんことには、森にも入れない」
「手鏡だって、言ってたけど。親方なら、いま残ってる材料だけでも、なんとかなるんじゃないの?」
「高価な鏡なんだろう? 万が一など、あってはならんからな。ギリギリの材料で作業するわけにもいかん」

 このところ村では、突然の高熱に倒れる者が続出していた。薬師くすしの薬が効かないという話もどこからか聞こえてくるようになっていて、だからアイラは、祖父の酒場通いを一時的にでもやめてほしかったのだ。
 けれど祖父は、馴染みの店に格好をつけたがって、アイラの言うことを聞いてくれなかった。

 ウチの商売だって、大変なのに……とアイラは思う。せっかく来た依頼を、断らなくてはならないかもしれない。

 鏡の材料はすべて、『月迎えの滝』を囲むように広がる『聖魔の森』にしかない。隣国のその向こうにあるという『聖なる魔の山』ほど広大ではないが、魔の材料を得られる、貴重な森。アイラの村はそのすぐそばにあり、村は森の恵みを得ることで、暮らしを成り立たせていた。

 ただ、聖魔の森には魔妖が棲み、森に入るには森の管理組合の許可を得て、護衛を必ずつけなければならない。工房から材料採取の申請と護衛依頼を出したのは、もう半月も前だ。
 管理組合に登録している、護衛任務を受けることの出来る者が、何人も流行り病に倒れているらしく、護衛任務を受けてもらうのも、順番待ちになってしまっているのだ。

 材料採取の申請のほうは、仮にも先祖代々続いている鏡工房なので、簡単に通っているのだが。

「護衛を、組合とは別口でお願いすればいいんだけど。でも、高いもんなあ」
「だから、無理だ。悪いが、客には断りを入れておいてくれ。儂はもう少し寝る」
「ちょっと! そんなのだめに、……親方?」

 ベッドの上で祖父が、ずるずると崩れ落ちるように横になる。息が荒い。アイラは手を伸ばして、祖父の額に触れてみる。だが予想以上の熱さに驚いて、すぐに手を引いた。

 これは……突然の高熱、なの?
 まさか。
 流行り病に、罹って、しまった……?


+++

「薬は? なにか飲ませた?」

 赤毛の男が、祖父の部屋に入って祖父の顔や首、手に触れながら言う。

「飲ませました。これを……熱冷まし、母さんに買い置きしとけって言われてる、いつもの」

 男はアイラに用意させた、たらいの水で手をゆすぎ、布で水を拭うと、アイラが差し出した小瓶を受け取って中を開け、粉薬の少量を手のひらから舌先に乗せて確かめた。

「やっぱり、この薬か。でもね、これは……もし村のみんなが罹っているのと同じ病なら、あまり効かないんだ」
「……え?」
「安心して。これを分けてあげるから」

 男は言うと、肩掛けにしていたカバンから紙の薬包やくほうを取り出した。男が祖父に声をかけると、祖父はぼんやりと目を覚まし、言われるがままに薬を飲み、また眠りに落ちた。
 額に水を絞った布を置くと、男はアイラを部屋の外へとうながした。

「しばらく、様子を見よう。それと……病がうつってしまったらいけないからね、キミもきれいな水で手を清めて、それからこれ、同じ薬を飲むんだ。話を聞くのは、そのあとだ」

 午後遅くに再び工房に姿を見せた赤毛の男は、アイラから事情を聞くなり『ボクは薬師くすしなんだ。親方を、ボクが診てもいいかい?』と言って、そこからアイラは男の言われるがままだったのだが、それがとても心強かった。

 いま祖父のそばにいるのは、自分だけ。王都で魔導士直属の工房に働く父と、それに付いて行った母を呼び寄せるにも、時間も金もかかる。

 アイラは言われた通りに手を洗い、渡された薬包の中身を口に含んで、水で流し込んだ。それから工房入口の部屋で待つ男と、その連れのために茶の準備をして、それを持って部屋に向かった。


+++

「キミは。親方の、お孫さん?」

 接客用作業台の向こう側に、赤毛の男とその連れを木の丸椅子に座らせて、茶を出したところで。
 赤毛の男にそう尋ねられたアイラは、黙ったままコクリ、とうなずいた。

「お母さん、は?」
「父さんと一緒に、王都にいます。だから……」
「そっか、うん。でもね、大丈夫だよ。さっきの薬はよく効くからね。キミもこのあとは、ゆっくり休むんだ。この病を治すには、高熱をやり過ごす体力が必要だからね。今日の夜と明日の朝用に薬を置いていくから、親方に飲ませてあげて? キミは様子を見て、明日の朝、体にだるさを感じるようなら、飲めばいいから」

 アイラは「はい」と素直に返事をし、受け取った薬をぼんやりと眺めた。

 親方……大丈夫だよね?
 言われたとおり、もらった薬を、夜と朝に飲ませて……。
 ……もらった、薬……あっ。

 アイラは事態に気付き、焦って男に尋ねた。

「あの、お代! 薬のお代を、どうしたら、」
「ああ、それはべつにいいよ……ってわけにも、いかないか。でもそれは、親方が元気になってから考えようか。鏡の修理をお願いするんだし、ボクたちも、急ぐ旅じゃないから」
「でもっ! 修理にはたぶん、かなりお時間をいただくと思います。材料を取りに聖魔の森に入らないといけなくて、森へ入るための申請は通ってるんですけど、でも護衛の手配がつかなくって、」

 アイラの話の途中で、男の様子が変わった。

「森へ入るための、申請? 勝手に森に入るのは……いまは、まずいことなの?」
「え? はい、森に棲む魔妖に襲われる危険があるので。いつ誰と入るのかも、管理組合に知らせないといけないんです。申請して許可証をもらわないと、森の入口で止められます」
「管理組合……なるほどね。申請は、すぐ通るのかな?」
「どうでしょう、旅の方だと……」
「まぁ、そうだよね……困ったな」

 男は隣に座る、男よりひとまわりほど小柄な、連れのほうを見た。ずっと外套のフードをかぶったままの連れも、そのタイミングで男を見上げていた。

「親方とキミにあげた薬の材料になる植物を採取しに、森に入ろうと思ってたんだ。村の薬師にこの薬のことを教えてあげたいんだけど、手持ちの材料がなくて。うーん……緊急事態だし、見つからないように入ればいいか? あ、ごめん、キミの前でこんなこと言って。悪いんだけど、内緒にしてくれるかな?」

 男はアイラのほうに向き直って言い、それを聞いたアイラはポカン、と口を開けて男をたっぷり見つめたあと、ようやく思考に上がってきた疑問を、男に尋ねた。

「でも魔妖がいて、だから、護衛は? 管理組合の護衛は順番待ちだし、組合経由じゃない護衛は高くて、そっちもすぐには手配がつかないから、」
「あ、それは大丈夫なんだ。護衛はいるからね、ここに」

 男が言い、また隣を見て。
 すると、フードの中から女の声がした。

「許可なく入るのでも、わたしはべつにかまわないけれど。それより、」

 連れのフードの頭が、アイラのほうを向いた。

「孫娘。飲ませた薬の対価に、その聖魔の森に入るための許可証とやらを、譲ってはもらえないかしら?」
「えっ。ちょっと待って、でもそれは、」
「っ、かまいません! お譲りします!」

 フードをかぶった女の提案に、驚いた男がなにかを言いかけ、だがアイラはそれを最後まで聞かずに、立ち上がって即答した。アイラの座っていた椅子がガタン、と音を立てて倒れ、作業台越しに二人が、アイラを見上げる。

「……だって。村のみんなのため、なんですよね?」

 女の名案に、それだ! とばかりに即答したアイラは、どうやら勢いがよすぎてしまったらしい自分に気付いて顔を赤らめ、ぼそぼそと言い訳のように、ことばを付け足した。が、二人は黙ったまま、自分を見上げているばかりで。

 どうしよう。
 なにか、間違えてしまった?

 少しの間があって。赤毛の男が、ふう、と息をつき、前髪をかき上げた。
 中から現れた新緑のような色の瞳が、アイラの視線とぶつかった途端、ほころんで……男が、ふわりと微笑んだ。
 
 男はゆっくりと立ち上がって、アイラに片手を差し出しながら、言った。

「うん。じゃあ……ありがとう、助かるよ。……ああ、そういえば、名乗ってなかったね。ボクの名前は、ニコラ。彼女は、ディア」
「アイラです! よろしくお願いします!」

 ニコラのやわらかい笑みに、つられるように笑顔を返したアイラは、ニコラから差し出された手を取る。かたわらのディアは座ったままなにも言わず、だがそのフードの向きから、握手を交わす二人を見上げているようだった。



つづく

次話→アイラと鏡工房のお客さま(2)


キツネノテブクロの咲く頃に・外伝
<外伝1>創世記・二つの種族と二つの鏡の伝説
<外伝2>アイラと鏡工房のお客さま(1)
【2024.07.30.】up.
【2024.08.01.】加筆修正


【キツネノテブクロの咲く頃に・目次とリンク】

※カッコ内の4ケタは、おおよその文字数です。
<1>ボクは鏡にうつらない(1)(5300)
<2>ボクは鏡にうつらない(2)(6200)
<3>ボクは鏡にうつらない(3)(7400)
<4>夜に溶けて飛ぶ鳥(6200)
<幕間1>王国の滅亡と魔の一族の伝説(1600)
<5>月のない夜の姫君(1)(6000)
<6>月のない夜の姫君(2)(4800)
<7>月のない夜の姫君(3)(4100)
<幕間2>創世記・祝福の翼(1500)
<幕間3>夜色の翼は高くに(1800)
<8>そして、キツネノテブクロの咲く頃に(1)(7700)
<9>そして、キツネノテブクロの咲く頃に(2)(6500)

+++++

<外伝1>創世記・二つの種族と二つの鏡の伝説(1900)
<外伝2>
 アイラと鏡工房のお客さま(1)
(5500)
 
アイラと鏡工房のお客さま(2)(6900)
 
アイラと鏡工房のお客さま(3)(7000)
 アイラと鏡工房のお客さま(4)(2600)


#キツネノテブクロの咲く頃に
#小説 #長編小説 #ファンタジー小説
#駒井かや

#締め切りにはやっぱり間に合わなかった笑

#魔道具師ダリヤはうつむかない今期アニメ化これから追うぞ
#ついでにタイトル鏡職人アイラはホニャララないにしちゃうか
#へこたれないくじけない負けない投げ出さない逃げ出さない信じ抜くコトってチガウチガウ
#結局思いつかないのでボツにしましたとさ


いいなと思ったら応援しよう!

駒井かや【物書き修行中&鳩には道を譲りたい】
最後までお読みいただきありがとうございます! 物語の読み手になってくださったアナタさまに心からの感謝を! そしてアナタさまにキラッキラの小さな幸せがたくさんたくさん降り注ぎますように!