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40 親に見捨てられたカレー味

 カールが大好きでした。とくにカレー味が。売ってなければチーズ味で我慢もしたけれど、カールのことを思い浮かべた瞬間、口の中はカレー味の記憶でいっぱいになり、カレー味を食べなければその渇望は収まりません。カールといったらカレー味。ぼくの世界ではそういうふうに決まっていました。

 カールって、基本の食感はカリカリしてるんだけど、10個に1個くらいの割合でサクサクのやつがあるでしょう? この感じ、カールを食べ続けてきた人ならきっとわかってもらえると思うんだけど、製造ラインの違うやつが混ざってしまうのか、あるいは原材料の品質のばらつきなのか、理由はわからないけど、確実にカリカリとサクサクの違いがあった。
 で、ぼくはそのサクサクが好きでね。食べていてサクサクに当たると「ラッキー!」って思った。その日一日気分がよかった。いつかそのサクサクだけをひと袋分集めて、一気に頬張ってサクサクまみれになりたいと思っていたけれど、カリカリかサクサクかは齧ってみないとわからないので、集めることはできない。
 いや、それ以前に、もっと悲しいことが起こってしまった。
 カールを製造販売している明治が、関東からカールの販売を引き上げてしまったのだ。
 なんていうこと!

 今回カールのことを書くにあたって、ちゃんとその歴史を知っておくべきだと思い、明治の公式サイトを見に行ってみた。
 カールの歴史は1968年に始まる。子供向けおやつとして発売された「チーズ」味と、大人向けおつまみとしての「チキンスープ」味の2種類が同時発売されている。当時ぼくは7歳だけど、新発売のカールを食べた記憶はない。駄菓子屋で買える麩菓子やソースせんべいを有難がっていて、カールにまで気が回らなかったのだろう。
 その翌年の1969年に満を辞して「カレーがけ」が登場する。カレー「味」ではなく、カレー「がけ」という呼称が、なんともいえず味わい深い。
 その後、チーズ味とカレー味はカールの定番フレーバーになるのかといえば、そう簡単な話でもなく、このふたつは年度によって発売されたりされなかったりし、かわりに1971年には「うすあじ」、1976年には「バターミルクあじ」、1978年に「いそあじ」、1979年に「ピザあじ」、1982年に「かーるいしおあじ」というように、珍奇な味の商品が次から次へとリリースされていく。
 以下、おもしろそうだからサイトから書き写してみよう。

 1987年「バターしょうゆあじ」
 1989年「お好み焼きあじ」
 1990年「和風ビーフあじ」
 1991年「コーンポタージュ味」
 1992年「ビーフカレーあじ」
 1993年「チョコカール」「チョコレートあじ」「ナッツキャラメルあじ」「チリビーフあじ」
 1994年「オタフクソースあじ」「元祖カレーあじ」
 1995年「のりしお」「コーンクリーム」「ガーリックビーフ」
 1986年「カルボナーラ」「グリルドソーセージ」「サワークリーム&マスタード」
 1997年「屋台風お好み焼き」「南国カレー」
 1998年「うめあじ」
 1999年「えびバター醤油味」
 2000年「かーるいサラダ味」「オニオングラタン味」「夜店の焼きもろこし味」
 2001年「ウカールチーズ」「ウカールカレー」「ビストロ仕立てのビーフカレー」「スパイシーチーズ味」「ナチョスあじ」「イタリア風ピザあじ」「インド風カレーあじ」「復刻版カレーがけ」

 ……と、キリがないので途中でやめた。てっきりカールは定番の味が磐石の歴史を築いてきたのだと思ったら、超・迷走してるんですね。
 2008年なんか「じゅわ~とカール豚のしょうが焼きあじ」「わさび茶漬け味」「謹製カールうに味」「謹製カールほたて味」「でかチョコ!カール」「ポッカコラボじっくりコトコト煮込んだスープ風コーンポタージュ」「ポッカコラボじっくりコトコト煮込んだスープ風クラムチャウダー」「ウカールカツソース味」といったラインナップで、ほとんどカール大喜利で出た案を全部商品化したような趣である。
 ちなみに最後の「ウカール」というのは、受験生応援企画の商品だそう。ウカール=受かーる、ってことね。

 どれほど迷走しても、定番の味をちゃんと発売し続けてくれるのなら何も不満はない。ところが、明治はいつからかカレー味の販売をやめてしまった。曰く「チーズ味に比べてカレー味は売れない」からだそうだが、本当だろうか? 販売数を正確に把握しているはずのメーカーがそう言うのだから本当なのだと思うが、ぼくの記憶にある状況とはずいぶん印象が違っている。
 まだ普通にカレー味のカールが売られていたときから、露骨にカールのカレー味が消え始めたのだ。カレー味が食べたくてコンビニに行っても、棚に並んでいるのはチーズ味ばかりで、カレー味は買いたくても買えなかった。東鳩のとんがりコーンも、ぼくはプレーンな「塩味」が食べたいのに、コンビニでは「焼きとうもろこし味」しか並んでいないことがよくある。それと同じことがカールにも起こっていた。
 そしてカレー味の販売をやめただけでなく、挙げ句の果てには「関東ではカール自体が売れない」などと言い始めて、全部関西へ引き上げてしまった。ネットでは「関西みやげにカールを買って帰る」などと呑気なことを言ってる人が散見されるが、冗談じゃない。カレー味以外はカールじゃない!(暴論)

 カレー味を見捨てた明治のことは、もうぼくは見限った。いまはファミリーマートが販売しているジェネリックカールを食べる日々を送っている。

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とみさわ昭仁
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