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35 杓子定規な酌ルール

きみは「とっとっとっ……」か? あるいは「こっこっこっ……」か? はたまた「とくとくとく……」か?

真夏にビールを飲むときの快感の第一歩は、瓶の口からビールを注ぐ音に始まる。この音が聴きたいがために、我々はビールの栓を抜く。

……あれ? ということは「とっとっとっと」の前に、栓を抜く「シュポン!」が快感を誘うのか。訂正、訂正。我々はビール瓶の栓を抜く音が聴きたいがために、ビールを欲する。

いや、まてよ。栓を抜く音は「シュポン」じゃなくて「プシュッ」か? それとも「キュポ」か……。どっちでもいーよ!

とにかく、ビールを飲むなら瓶ビールに限る。生ビールがうまいのもわかるけれど、瓶に比べてちょっと割高(同じ金額を払うなら一滴でも多く飲みたいのが酔っぱらいというもの)だし、店によってはビールサーバの清掃が行き届いておらず、泡がカビ臭い店なんかもある。そういうのを何度か体験して以来、ぼくは瓶ビール派になった。

で、友人・知人・同僚・上司・他人らと瓶ビールを飲んでいると、ひとつの問題が浮かび上がる。それが「お酌をする/される」問題だ。

「まあ、まあ、まあ、先輩まずは一杯」とか「今日は無礼講だ、さあ、どんどん飲みなさい」とか「ほら、ユミちゃん、お客樣方にお酌してして」とか、会社の宴席や何がしかの親睦会などでよく見かける光景。これが、ぼくは昔から苦手でたまらない。

仕事の付き合いや儀礼として必要な場合もあるだろう。けれど、それをそのままプライベートな飲み会にまで持ち込まれるのは、本当に困る。少なくともプライベートな飲み会の場では、酒は自分が飲みたいように、自分のペースで飲みたい。

瓶ビールは、小さめのグラスに注いで、一気に飲み干す。そうしたら、また注いで飲む。注ぐタイミングは自分で決めたい。だって飲むのは自分なんだもの。グラスの半分まで飲んでテーブルに置いたときに、他人がそこへ勝手に継ぎ足したりすると「あーっ!」ってなる。温度が変わるじゃん!

飲みかけは、少しぬるくなってきてるんだから、そのまま飲み干せばいい。その後、あらためて瓶の中の冷たいのを注いで、また冷たさを味わうわけ。それを勝手に継ぎ足されたりしたら、ぬるいのに冷たいのが混ざって「ぬる冷たく」なっちゃう。温度計画が台無しだ。

とはいえ、そんなこと言ってるぼくも、お酌をしたりされたりする方が楽しいと思っている人に、自分のルールを押しつけているわけだから、話はややこしい。

結果、ぼくはお酌のことで悩まなくて済むような、酒温度が同じ仲間とだけ集まって飲むことになる。さらに言えば、誰にも気兼ねせずにマイペースで飲める「独り酒」がやっぱり最高、ってことになるのだった。

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