27 マグマ舌の憂鬱
マグマ舌な人生を歩んでいるぼくだが、しかしマグマ舌を満足させてくれるような灼熱の食べ物と出会うのは、非常に困難である。
それはどういうことか?
この世に辛い料理を好む人は多いし、激辛ブームが起こったこともある。椎名誠さんの著書に『からいはうまい』というのがあるくらいなもんで、料理にとって「辛さ」は肯定的にとらえられる。つまり、辛い食べ物というのは市民権を得ているのだ。したがって、ネットで「激辛+料理名」で検索すれば、いくらでも辛さ自慢の料理を出す店がピックアップされる。辛い物好きは、未知の激辛料理と出会いやすいという現実がある。
ところが「熱さ」はそうはいかない。
「激熱+料理名」とか「灼熱+料理名」とかで検索しても、出てくるのは「いまこれが熱い!(=流行している)」的なニュアンスで「熱い」という言葉が使われていたり、あるいは辛い料理のことを「熱い」と表現しているだけったりするのだ。実際、英語では辛い料理をHOTと呼ぶ。
マグマ舌人間が満足のできる灼熱料理と出会うためには、ネットはあまり頼りにならない。とにかく手当たり次第に熱いものを出しそうな店に行って、自分の舌で確かめるしかない。よく「足を使って情報を集める」と言うが、マグマ舌は「舌を使って情報を集める」ことでしか、新たな出会いは期待できないのだ。
口コミで、と言う人もいるけれど、他人の舌はアテにならない。「あそこの店のラーメンは熱いですよ」と情報をもらっていそいそ食べに行き、そのぬるさに何度失望したことか。60度くらいで熱いとか言ってるんじゃない! こちとら70度だってぬるく感じるんじゃー!
以前、仕事で名古屋に行ったとき名物の味噌煮込みうどんが熱いよと言われて、某有名店のを食べたらたいして熱くなくてガッカリしたことがある。温度を測ったら78.6度だよ。お前の温度はそんなものか!
マグマ舌の話ばっかりしてると、ときたまテレビから取材の申し込みが来る。
ある番組では、ドンブリいっぱいの熱いラーメンをいかに早く食べられるかをやってほしい、という依頼だった。どうも何か勘違いをなさっているようだ。ぼくは熱いものが好きなだけであって、早食いが得意なわけじゃないし、大食いなわけでもない。だからそんな企画に出たところで、何も見せ場は作れない。
また、別のある番組では、ロケをする街のあちこちに様々な特殊嗜好のマニアが潜んでいて、メインのタレントさんが仕掛ける難問を鮮やかにクリアしていくという企画だった。ということは、マグマ舌を標榜しているぼくの役割は明白だ。異常に熱いラーメンを出す店にでも連れて行かれて、それをヒーヒー言いながら食べる姿を撮影したいのだろう。
多少おかしな企画であっても、文化人枠で扱ってくれて、なんなら著書のひとつも紹介してくれるなら出演するのもやぶさかではない。でも、それを要求するとほぼ必ず連絡は途絶える。テレビというやつは、テレビに出たがる便利な奇人を常に探している。ぼくはリアクション芸人じゃないんだから、見せ物にされるのはごめんだ。
まあテレビに関しては、依頼を断ればいいだけなので実害はない。問題は、最初にも書いたように「マグマ舌を満足させてくれるような食べ物は出会うのがとても困難だ」ということである。
ぼくが愛してやまない永福町「大勝軒」のラーメンは、ずいぶん昔、誰だったかに教えてもらってその存在を知った。「もちもちの木」は西新宿で中古レコ屋巡りをしていて偶然見つけた。三軒茶屋の「らーめん茂木」も会社の昼休みに散歩していて見つけた。
このように、ほとんど偶然に頼るしかない。過去最高に熱かった「石焼ラーメン火山」のように、「石焼」「石鍋」といったキーワードで引っかかってくることもあるが、そんな例は稀だ。
あるとき、いいことを思いついた。ぼくがひたすら熱いものを食べにいくというグルメレポートの連載をすればいいのだ。手始めに自分の知ってる熱い店から連載を始めておいて、毎回記事の最後に読者への挑戦状を投げかけておく。「キミの地元にある熱い店を教えてくれ、マグマ舌のとみさわが挑戦しにいくぞ!」と。そうやって読者の好奇心を刺激しておけば、まだ見ぬ熱い店の情報が続々と集まるかもしれない。取材の経費でラーメンが食えるかもしれない。ついでに火傷する頻度も上がるかもしれない……。
それで、とあるグルメサイトで「灼熱!! グルメ道場」と題する連載を始めたのだが、第1回の記事が掲載されたっきり、先方の事情で連載は終了となってしまった。どこか他に同企画を連載させてくれる媒体はないものか。それとも、やはりマグマ舌なんていう嗜好は世間的には受け入れ難いものなのだろうか──?
※ヘッダー画像は新中野「焼肉食道かぶり」の灼熱メニュー「舞具魔ごはん」である。見ての通りほぼマグマ。
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