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61 ロメスパの名店ジャポネを食べ尽くす

 初めてその存在を知ったのはいつだったか。SNSで友人の誰かが「ジャポネの大盛り、うまかったー!」とかなんとか、そんな感じのことをつぶやいていたのだと思う。そのときテキストと一緒に上がっていた写真には、安っぽい樹脂製の皿に盛られたスパゲッティが写っていた。なんだ、ラーメンじゃないのか。

 具材は豚肉と椎茸と青菜(のちに小松菜と判明)と玉ねぎが確認でき、醤油で味付けされているので全体的に茶色い。そのため、見た目的にはスパゲッティというより焼きそばに近く、洋麺屋五右衛門にさえわずかに残されていた高級感を綺麗に排除したようなビジュアルだった。
 でも、その見た目に反して「これ、絶対うまいやつ!」と、すぐにピンときた。料理が自分の味覚に合うかどうかは、口コミは関係ない。なんぼ食べログで「うまい」と書かれていても、その見た目が自分の好みでなければ、実食しても美味しいと感じることは99%ない。逆にジャポネは、99%自分の味覚に合うであろう予感がした。
 いろいろ調べてみると「ジャポネ」は有楽町ガード下のアーケード内にあり、ロメスパ(路面にあるスパゲティ屋の略)の名店と呼ばれていることがわかった。有楽町は、ぼくにとって子供の頃からの遊び場だ。なのにジャポネのことはまったく知らないでいた。これは行かねばなるまい。

 そして初めて食べに行ったのが、2017年の3月4日。並盛りでも500円(当時)という実にリーズナブルなお値段に感謝しつつ、初めて口にした「ジャポネ」は予想通りの美味しさだった。本格パスタ屋がウリにするアルデンテとは無縁の「柔めに茹でてんで」状態な茹で置き麺が、庶民的な味付けにとてもマッチしている。これは行列店になるのもわかる。
 さらに、店で並んでいる間、店内にあるメニュー表を見ていろいろなことがわかってきた。
 メニューは大きく「和風」「中華風」「洋風」の3種に分かれていること。分量はレギュラー(並)、ジャンボ(大盛)、横綱(超大盛)の3段階あること。メニューには書かれていないが、横綱の上には理事長(超々大盛?)があること。
 それと、来るお客さんの大半が「ジャリコ」というメニューを注文しているので、この店の一番人気は店名を冠したジャポネではなく、ジャリコのほうであることなど……。
 で、翌日からジャポネのメニューを順番に全部食べてみるチャレンジが始まった。

 最初にジャポネを食べたのなら、次はジャリコを食べねばならない。さっそく4日後にまた訪問した(3月8日)。ジャリコはジャポネと同じく和風カテゴリーに含まれているので、味付けは醤油だ。具材の基本構成も同じだけれど、ジャリコには紫蘇(大葉)とトマトが入っている。正直、トマトはあんまり好きではないが、量が多いわけでもないので味のアクセントとしては悪くない。なるほどこれに人気が集まるのもわかる。
 その次は、唯一の中華カテゴリーである「チャイナ」をいってみた(3月14日)。チャイナのキーパーソンはザーサイだ。他は椎茸、玉ねぎ、小松菜といういつものメンバー。ザーサイにだけチャイナ感を背負わせているところに罪深さを感じるが、味はいつもの間違いないうまさ。
 その後、カレーがけの「インディアン」(3月16日)、定番の「ナポリタン」(3月21日)、海老と紫蘇の組み合わせが嬉しい「バジリコ」(3月24日)、梅肉と紫蘇と海苔がよく合う「梅のり」(3月31日)と食べ進み、3月中のぼくの身体はほとんどジャポネの茹で置き麺で占められた。
 月が変わって「明太子」(4月5日)を食べ、その1週間後に「ヘルシー」と運命的な出会いを果たす(4月12日)。

 ヘルシーは、玉ねぎ、椎茸、小松菜という基本の具の他に、野沢菜とかいわれが色を添える。どこがヘルシーかといえば、おそらく「かいわれ」だろう。ザーサイのみにチャイナ感を全振りしたこの店のことだから、それくらいは朝めし前だ。
 そしてヘルシーには、他のメニューにはない要素がひとつある。「唐辛子」の存在である。そう、ヘルシーには赤黒くなるまで熱を加えた唐辛子(それも刻んだものではなく1本丸ごと、つまり鷹の爪状態のもの)が入っている、ジャポネでは珍しい辛口メニューなのだ。
 そのうえ、インディアンのカレーですら辛さは選べないというのに、ヘルシーの辛さには「普通・辛口・激辛」の3段階あって、一緒に炒められる唐辛子の本数が増えていく。正確な本数はわからないが、実食した印象では普通が2本、辛口には4本くらい入っていた。激辛は頼んだことがないのでわからない。
 はっ、いま書いていて気づいたが、唐辛子が入っていることもこのメニューを「ヘルシー」たらしめている要因のひとつかもしれない。唐辛子のカプサイシンによる発汗作用が代謝を促し、消化にもいい。そのせいか、食べ終えたあとの爽快感も他のメニューとは段違いだ。
 外食には「美味しい時間を過ごすこと」だけが重要であって、「栄養価やヘルシーさ」などは求めていないぼくではあるが、ジャポネのヘルシーには完全に参ってしまった。ひとつ気に入ったメニューがあるとその店ではそれしか食べなくなる癖があるぼくは、ジャポネでもこの日以来、ヘルシーしか食べていない。
 しかし、メニューにはあとひとつ「キムチスパ」というのもあって、これはこれで美味しそうではあるのだが、もうぼくの眼中にはヘルシーしか映っていない。ジャポネの全メニューを食べ尽くす日は、おそらく永遠に訪れないだろう。

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とみさわ昭仁
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