14 灼熱の調理器具 TEPPAN
鉄板料理が好きだ。熱々に熱せられた鉄板の上でジュウジュウと音を立てる食材。許されるなら鉄板をダイレクトに舐めたいくらいだが、舌の細胞がそれを許してはくれない。だから、ぼくは仕方なく鉄板の上の料理だけを食べる。
東京の下町育ちなので、鉄板といえば真っ先にもんじゃ焼きが浮かぶ。お好み焼きより、もんじゃ焼きが先に出てくるところは、お小遣いの少ない子供時代を過ごした人間の刷り込みだ。当時、豚玉のお好み焼きが200円くらいだったと思うが、もんじゃなら50円で食えた。この差は大きい。しかも、お好み焼きのように食事としてパクパク食べるものと違って、もんじゃはタラタラといつまでも鉄板の上でこねくり回して、長いこと楽しめる。そういう点でもありがたい。
ぼくが生まれ育ったのは両国だから、そう遠くないところにもんじゃの聖地である月島があるわけだが、当時は誰もそんなことを言ってなかったし、お金がないのにわざわざ都電に乗って月島まで行く理由がない。
両国中学は両国地区の中でも北部にあって、さらにその北は石原町、そして本所だ。石原町から通っているクラスメイトが数人いたせいで、中学時代は石原のもんじゃ屋に入り浸ることが多かった。そこで食べたもんじゃ焼きやクロンボの話は、前シリーズ「ゆりかごから酒場まで」に「04 鉄板の隅の水飴作り」として書いた。
いまは千葉県の松戸に居をかまえているので、両国にはなかなか行けないし、月島も大差ない。でも大丈夫、うちの近所にはお好み焼きチェーンの「道とん堀」がある。この道とん堀、名前はいかにも大阪由来っぽいけど実は福生が発祥の地で、ぼくがその存在を知ったのも妻の実家がある昭島に住んでいたときのことだ。まあ、小麦粉コネて、焼いて、ソース塗ったら、お好み焼きなんてどこで食ってもそう変わりゃしない。ましてやもんじゃ焼き。そこになんのこだわりがあろうものか。それが鉄板料理のいいところでもある。
子供の頃、よく2歳上の姉貴と一緒に作って食べていた料理がある。姉が買っていた「りぼん」か「マーガレット」か「なかよし」かは覚えていないが、とにかく当時の少女漫画雑誌の読み物記事で紹介されていた「ポッポ焼き」である。
小麦粉を水で解き、フライパンに薄く伸ばして焼き、ソースを塗って食う。ようするに具なしのお好み焼きだ。「キャベツがあったら少し刻んで入れよう」くらいのことは書いてあったかもしれない。若き乙女たちに、台所へ立つことの喜びを教えようという目的意識があったのだろう。とにかく、ぼくと姉は母が留守にしているとき、よくこいつを作って食べていた。
新潟県新発田市にも、小麦粉と黒砂糖を混ぜて焼いた「ポッポ焼き」という同名の料理(菓子)があるが、それとは別物だ。でも、小麦粉料理、小麦粉の焼き菓子は日本全国に様々な形で存在するので、何らかの関係はあるのかもしれないね。
お好み焼き屋のような鉄板もいいけれど、ステーキハウスなどで個別の料理が乗せられてくる鉄皿も、ある種の鉄板と言っていい。いつまでも冷めにくいという点で、あれもまた熱いもの好きの強い味方だ。
個人的に好きなのは、牛が寝そべったようなデザインの鉄皿。静岡の人気ハンバーグ店「さわやか」のあれを連想してもらうといいだろう。通常の楕円形の鉄皿に比べて、牛の頭部やケツ部分が肉厚なので、それだけ保熱効果が高い。
と、客の立場では熱さを無邪気に喜んでしまうのだが、あれを運んでくる店員さんのことはちょっと心配な気持ちになる。うっかり焼けた鉄皿を腕に当ててしまったら大火傷だ。それがよりにもよって牛の顔部分だったりしたら、腕に牛顔の焼き印を入れてしまうことになる。労災扱いになるのかな。
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