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42 ニッポン麺紀行

 好きなものがあるとすぐにエクセルを開いてリストを作ってしまう癖がある。
 その大半はコレクションしているもののチェックリストだが、なかには気になっている分野のリスト(たとえばキャマ、ギープ、レオポン、ライガーといった「キメラ生物」のリストや、浅倉久志、江戸川乱歩、呉田軽穂、谷啓といった「もじり芸名」のリストなど)がある。
 それらのファイルは「データベース」というフォルダに格納してあるのだが、それとは別に「麺リスト」というフォルダもあって、こちらには、今後食べに行きたい麺類の店を、ジャンルごとにまとめたリストが格納してある。これをひとつずつ紹介するのはやめておくが、その中からひとつだけ明らかにしよう。
 それが今回のテーマ「ニッポン麺紀行」である。

 ニッポン麺紀行とは、簡単に言えば「日本全国のご当地麺料理のリスト」だ。個人的に熱い汁が好きなのでどうしてもラーメンが多くなるが、それだけに限ったものではなく、ご当地名物であれば黒石つゆ焼きそば(青森)や、じゃじゃ麺(岩手)、イタリアン(新潟)、祖谷そば(徳島)なども含んでいる。
 これらを全部調べ上げ、食べログから各店の「県名」「チェック欄(実食したかどうか)」「メニュー名」「店名」「住所」「特徴」「定休日」「営業時間」といった情報を抜き出し、リスト化してある。食べログには間違いも多いので、可能であればなるべく店の公式サイトも探して、より正確な情報に書き換えることは定期的に行なっている。
 で、仕事で地方への出張が決まったら、すかさずこのリストを見て、訪問できそうな店がないか確認する。そして現地で実食したら、チェック欄に印をつけて満足する、というわけだ。

 しかし、ここで問題となるのが「ご当地麺」の定義である。
 何をもってご当地麺と定義するのか?

 たとえば北海道には有名な「3大ラーメン」というものがある。これはラヲタじゃなくても知ってる人は多いだろう。味噌ラーメン(札幌)、醤油ラーメン(旭川)、塩ラーメン(函館)。味噌・醤油・塩はラーメン界の3大フレーバーでもある。それぞれを代表する発祥の店、もしくは人気店が北海道にはまとめて存在する。
 ところが、北海道ラーメンを調べていくと、室蘭のカレーラーメン(味の大王)を入れて「「4大ラーメン」とする、という説にぶち当たる。なるほど、なるほど、カレーラーメンうまいよね。では、北海道には味噌・醤油・塩・カレーの4大ラーメンがあるとしましょう……。そう納得しかけたところに「北見の塩焼きそばを入れずして北海道の麺類は語れない!」「芦別のガーダータン(ガタタン)はどうなのか?」などといったハードコアなご意見が届くのである。もうキリがないよ!

 ご当地麺の定義について論文でも書こうというのなら、もう少し慎重になるべきだと思う。しかし、これはあくまでも「ぼく」というひとりの人間の食の楽しみで始めたことである。ぼくが「これはご当地麺だ」と思えばそれはご当地麺だし、ぼくが「そうでない」と感じればそれはご当地面ではない。じつに恣意的なものなのだ。
 それでもまだ、地方の場合はわかりやすい方だろう。ご当地グルメは町おこしと密接な関係にあるので、その地域の自治体、もしくは飲食組合が積極的にご当地麺としてプッシュしており、ぼくのアンテナにも引っかかりやすい。検索すればすぐに出てくる。
 問題は、それ以外のご当地麺である。

 たとえば三重県の「伊勢うどん」。極太ながら歯ごたえはフワフワで、甘じょっぱい醤油タレで食う三重地方のうどんは、まごうことなきご当地麺といえる。
 では、愛知県の台湾ラーメンはどうか?
 いまや名古屋名物の台湾ラーメンとして全国区でも知られる名物にはなったけれど、それを食わせるのは発祥の店である「味仙(みせん)」だけで、同種のラーメンを出す他の店は、はっきり言って全部ニセ物だ。つまり、台湾ラーメンは名古屋の台湾料理屋「味仙」のオリジナルメニューなだけであって、名古屋という地域のご当地麺ではないのだ。
 同じことを、東京の「ラーメン二郎」についても考えてみればいいだろう。
 二郎はうまい。極太麺に濃厚豚骨スープ、背脂、茹でモヤシとキャベツ。三田本店だけでなく、どの支店も人気があって、連日どこも大行列。だけど、アレを「東京都のご当地麺」と言っていいのだろうか?
 いや、二郎を否定するわけではない。ただ、東京の「ご当地麺」という言い方をした場合、そこには味の良し悪しや、人気、行列などといったものとは別のベクトルがあるように思うのだ。

 まあ、そんな面倒くさいことを言ってるけれども、所詮は、ひとりのおじさんが自分の味の好みをゲームにして、人生を楽しんでいるだけのことだ。みんな、自分の好きなものを自分の人生の中で、好きなように楽しめばよいのだ。


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とみさわ昭仁
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