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17 松屋で迎える朝は定食

 牛丼食うなら吉野家で、と決めているぼくも、たまには松屋に行く。その理由は「朝定食」だ。

 松屋では、朝5時から11時までがモーニングの時間帯で、通常の定食とは別に朝定食を出している。基本はドンブリのごはんと味噌汁。そこに何らかのおかずが付く。
 おかずのバリエーションには「牛小鉢」「ソーセージエッグ」「焼鮭」といったものがあって、それぞれ料金が違うのだが、だいたい500円前後といったところだろうか。いまの日本の物価状況の中では、一食500円というのは安い方だと言える。
 しかし、極端に少食なぼくとしては、朝からそんなにガッツリ食べたくないので、質素に「納豆定食」を選択する。値段にすれば360円。独身時代、松屋の納豆定食がどれだけぼくの経済を救う天使となってくれたことか。エンゲル係数のエンゼルだ。

 今回、松屋の納豆定食の話を書こうと思って公式サイトで詳細を再確認したが、以前はあったはずの「納豆定食」がなくなっていた。納豆そのものがなくなったわけではない。各定食に一品付いてくる「選べる小鉢」のラインナップに納豆はある。でも、ぼくは焼鮭とかソーセージエッグのついでに納豆が食べたいんじゃなくて、納豆めしだけが食べたい人間なのだ。
 現在のモーニングメニューの中で、もっとも「納豆定食」に近いものは「Wで選べる玉子かけごはん」だろう。これの選べる小鉢を納豆にすればいい。
 メニュー名に「Wで選べる」とあるのはどういう意味かというと、通常の小鉢の他に玉子も「生玉子」か「半熟玉子」かを選択できるのだった。まあ、ぼくが半熟玉子を選ぶことなどあり得ないのだが。
 ちなみに、ぼくは食品としての鶏卵のことを「卵」とは書かず、できるだけ「玉子」と書くようにしている。いまこのエッセイを書くために松屋のサイトのメニュー表を見たら、やはりすべて「玉子」と表記されていて、勝手ながら好感を抱いた。

 さて、以前の「納豆定食」と現在の「Wで選べる玉子かけごはん」の構成要素を比較してみよう。

 「納/360円」:ごはん、味噌汁、納豆、生玉子、焼き海苔、お新香
 「W/290円」:ごはん、味噌汁、納豆、生玉子

 焼き海苔とお新香が消えたことがわかる。その分、値段も安くなっている。とてもありがたいことだ。そもそも、ぼくは納豆でごはんを食べたいだけなので、焼き海苔もお新香も無用。だから消えても問題ない。なんなら生玉子だっていらないのだ。
 しかし、生玉子は残った。そりゃ「Wで選べる玉子かけごはん」なんだから、玉子が含まれるのは当然だ。でも、こっちは玉子かけごはんが食べたいんじゃない。もっとも安値で納豆定食的なものを食べられるのが「Wで選べる玉子かけごはん」しかないから、仕方なしに頼んでいるのだ。願わくば、ごはんと納豆と味噌汁だけのシン・納豆定食を250円くらいで売ってくれよ!(わがまま)。

 ともかく「Wで選べる玉子かけごはん」がやってきた。望まないけどやってきた。ごはんと味噌汁と納豆は目的通りだからそれでいい。問題は「生玉子」だ。これをどう処理するか? さすがに手をつけず残していくのは忍びない。なら、納豆に生玉子も混ぜてごはんにかけるか? それはしない。納豆と玉子が混ざると粘り気が強くなる気がして、ぼくは好きじゃないのだ。
 大食いの人だったら、ごはんを大盛りにしておいて半分を納豆めしで食べ、残り半分を玉子かけごはんにする手がある。でも、少食マンにそれは無理。
 それでどうするかと言うと、ぼくは次のような食べ方をする。

「Wで選べる玉子かけごはん」がやってきた。トレーに乗ったそれぞれのアイテムと対峙する。
 まずは味噌汁腕の蓋を開け、ひと口啜って熱さを確かめる。松屋の味噌汁に灼熱などハナから望んでいないので、熱くてもぬるくても気にしない。でも、食事中に汁が冷めていくのは耐え難いので、ひと口啜るごとに毎回蓋は閉じて、最低限の保温は気にかける。
 続いて納豆の番。発泡スチロールの容器に入った納豆を小鉢に開け、刻みネギを乗せ、箸で撹拌する。付属のタレとカラシも入れる。以前はこれに醤油も垂らしていたが、高血圧で塩分控えめを心がけるようになってからは、追加の醤油は入れないようにしている。できた納豆は一度に全部ごはんの上にかけてしまう。
 そうしたのちに納豆ごはんをわしわしと貪り、合間合間に味噌汁を啜って、一気に食事を終える。
 あれ、生玉子は?
 メインディッシュをたいらげた後、おもむろに生玉子を割って醤油を少しだけ垂らして撹拌。それをロッキー・バルボアのごとくゴックンと飲み干して、最初から無かったことにするのである。

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とみさわ昭仁
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