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31 ほろ酔いのメロディー

酒場には様々な音楽が流れている。

民芸調の居酒屋ではにぎやかな民謡が故郷を思い出させ、若者向けのチェーン居酒屋には有線放送から流れるJ-POPがよく似合う。裏通りの薄暗いショットバーならジャズかブルースか。音楽は、それぞれの店の雰囲気を盛り上げる役割りを担っている。

だけど、と、ぼくはいつも思う。実際のところ酒場に音楽なんて必要だろうか?

いや、酒場に限らず飲食店全般に言えることで、そういう店に音楽のBGMって本当に必要なのか、ずっと疑問に思っていたのだ。これは、ぼくが「ひとり静かに飲みたい派」だからかもしれないが、飲み食いするときに音楽って邪魔なんだよ。

音楽が嫌いなわけじゃない。むしろ人一倍好きな方だと思う。レコードもCDもたくさん持っているし、好きなミュージシャンのコンサートにも度々出掛けている。でも、それは音楽を聴きたいときに、音楽をかけたり、聴きに行ったりしているだけだ。

酒場には酒を飲みに来ているのであって、音楽を聴きに来たわけじゃないんだよ。

だから、たとえぼくが大好きなミュージシャンの曲でも、酒場で流れてくると邪魔に感じてしまうことが多い。ましてや、それが苦手なミュージシャンだったりした日にはアナタ、酒が不味いのなんのって……。

ときどき本格的な蕎麦屋でモダンジャズを流している店がある。なぜ蕎麦屋でジャズ? と疑問を感じるが、それには理由があるという。蕎麦粉十割の田舎蕎麦だからって民謡ではダサイし、無音にしたのでは厨房の雑音が気になって逆に落ち着かない。そこで、静かにモダンジャズを流す。すると、これがいちばん耳障りにならず、無音よりも静かなような錯覚を起こさせるというのだ。

ホントかなー。いかにもジャズの好きな人が言いそうな蘊蓄だなー。

ぼくは基本、店内が煙草のヤニと炭火の煙で燻されたもつ焼き屋ぐらいしか行かないので、そこにジャズは困る。歌謡曲も、J-POPも困る。ハードコアパンクはもっと困る(好きだけど)。

ラジオから流れてくる毒蝮三太夫の声とか、大沢悠里の声とか、そういうものがいい。競馬、野球、相撲の三大中継もいいな。試合の行方とか勝ち負けは別にどうでもいいんだ。ただなんとなくノイズ混じりの歓声がきこえてくる。それを肴に酒を飲む。

以前、浅草のとある立ち飲み屋で飲んでいたら、店内にはラジオがないのに、急に相撲中継の音声が聞こえてきたことがあった。なんだろうと見回したら、ちょうど入ってきたオヤジが腰からトランジスタラジオをぶら下げていたよ。おじさん、それいい!

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とみさわ昭仁
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