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06 チョコレートと寒いマフラー

 皆さんご存知のように、ぼくはヘビーなドランカーでありますから、味覚の嗜好は超辛党。
 辛党っていうのは辛いものが好きという意味ではなく、しょっぱいものが好きな人のこと。しょっぱい、つまり酒のアテになるようなもの、ということね。
 その反対に、甘いものはあまり好きではないので、滅多に食べることはない。餡子(あんこ)なんて、年に100グラムも食べないんじゃないか。
 そんなぼくではありますが、チョコレートは案外食う。チョコは別腹。チョコ専用の胃袋があるといってもいい。
 お酒と甘いものと言ったときに、多くの人が真っ先に思い浮かべるのはウイスキーとキスチョコ、ウイスキーとポッキー・オン・ザ・ロックだと思うのだけど、ぼくはそれをやらない。そもそも滅多にウイスキーを飲まないから、チョコレートをつまみにするという発想がない。
 でも、おやつとしてのチョコだけは食うのです。
 週に一、二度、無性にチョコレートを食べたくなる瞬間がやってきて、コンビニに走る。そんなときによく買うのが、ロッテの「アーモンドチョコ」とか、森永の「チョコボール」といった豆入りのチョコ。バーサン曰く「種が入ってる」やつ。
 最近のマイブームは、セブンイレブンで売ってるPBの「ピーナッツと深煎りアーモンド入りダブルナッツチョコ」だ。これは豆入りチョコの中でも格段にレベルが上で、ピーナッツの歯応えとアーモンドの香ばしさが強く、いくらでも食える。パッケージの裏を見ると、製造者が株式会社でん六となっていて、なるほど、さすが豆菓子の老舗メーカーが作っているだけはある。
 結局、ぼくはチョコを食べているというよりも、豆を食べているのかもしれない。

 中学のとき。クラスで仲のいい女子から「C組のKさんが富澤くんのこと気になるって言ってたよ」と聞かされたことがある。ぼくはKさんのことをよく知らなかったのだけど、モテたことのない人間なので、そんなこと言われたらいてもたってもいられない。速攻で隣のクラスまでKさんの顔を見に行った。すると、清楚な感じのすごく可愛い子だったんですね。これはヤベえ!
 なんで彼女がぼくのことなんか気にしてるのか、その理由を仲のいい女子に聞いてみた。すると、「彼女のノートに『レット・イット・ビー』の歌詞が落書きしてあった。彼女は富澤くんが書いたと思い込んでいて、それで意識してるみたいよ」と。
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 中学時代のぼくはKISSから入門してディープ・パープル、レッド・ツェッペリンといったハードロックに夢中で、ビートルズの音楽はどうにもぬるく感じられたから聴くわけがない。『ヘルター・スケルター』はちょっといいなと思ったけれど、『レット・イット・ビー』みたいなピアノの弾き語りは好きじゃないのだからその歌詞を知るはずもなく、ましてやそれを女の子のノートに書くあんてあり得ない。
 でもね。そのKさんマジで可愛かったんだよ。だからこの誤解を利用すれば、おれあの娘と付き合えちゃうんじゃね? とも思ったんだ。
 で、まあ当時のぼくはまだ奥手だったから、自分からクドくわけでもなく、彼女から告白されるわけでもなく、結局のところ彼女と付き合うことはなかったのだけど、翌年のバレンタインデーに彼女から手作りのチョコレートと手編みのマフラーをプレゼントされた。その前に、人づてに彼女から聞かれたんだ。「富澤くんが好きな色は何?」と。その質問の意図をよく理解していなかったぼくは、当時なんとなく好きだった「水色」と答えた。すると後日、白と水色のボーダーのマフラーが届いた。とても寒々しい配色のマフラーが。
 そのマフラーを巻いて外出した覚えはない。長い間タンスの奥にしまわれたまま。チョコレートはすぐ食べた。これもナッツが入っていて美味しかったな。

 あれはたしか2007年あたりだろうか。『ポケモン』のハートゴールド&ソウルシルバーを作り始めた頃だ。やや思うところあって、2年半ほど断酒した。その間は一滴もアルコールを口にしなかった。
 酒をやめて何が変わったかというと、食の嗜好性だ。それまで辛党だったぼくが、テキメンに甘いものが好きになったのだ。
 朝、会社へ行く前にミスタードーナツに寄ってドーナツ2個とコーヒーを買って出社する。デスクについてメールのチェックなどしながらバクバクとドーナツを食う。昼も昼食を終えたら、コンビニで買ってきた芋けんぴとかアイスクリームとかを食う。もちろん、業務時間中もチョコボールは欠かせない。
 いきなり甘党になったからと言って、根っからの少食なので食べる量が増えたわけではない。だから急激に太ることはなかった。
 でも、吹き出物ができ始めた。小さいニキビのような吹き出物が、背中と両腕にポツポツと目立つようになった。ナッツのせいなのか、チョコレートに含まれる脂肪分のせいなのか、原因はわからないけれど、吹き出物の原因がチョコレートにあることは疑いようがなかった。
 そしてまた思うところあって、2年半後にぼくは断酒するのをやめて、ふたたび酒を飲むようになった。酒を飲むということは、イコール甘いものを食べなくなるということだ。そしてぼくの吹き出物はピタリと止まった。
 いまは、吹き出物に悩まされることもなく、程よく(嘘つけ)お酒とも付き合っている。

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とみさわ昭仁
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