マンガ「忍者と極道」の良さを紹介すべく、noteにわざわざ新規登録し卒論執筆の時間と健全な睡眠を投げ打って書いた怪文書
1 はじめに
突然だが、皆さんはこんな光景を見た事があるだろうか。
どこか異国情緒を感じさせるハンサムな顔の外科医が、メスも鉗子も助手の手も借りずにウルトラマンに近い不思議なポーズで、且つ目にも止まらぬスピードで、体に触れている素振りすら見せずに患者を施術している。周りの医師連中は、両手でガッツポーズをしながら大歓声を上げており、女性医師に至っては両手を頬に当てて感じ入っている。そして誰のかは分からないが、「神の無刀が患者(クランケ)を裂くッッ!!!」というセリフが手術室全体に響き渡っている。
以上の状況に一切ツッコミがない。
もう一度確認するが、皆さんはこんな光景を見た事があるか。
私はある。Twitterで見た。平和そのものだったタイムラインに、真っ当な指摘と共にこれをスクショした画像が突如流れて来て、あまりにもあんまりなそのスペクタクルに、ついうっかりリツイートしてしまった。
これが私・暮灘と、近藤信輔先生によるマンガ「忍者と極道」との馴れ初めである。
そこからどうやってマンガのタイトルに辿り着き、どうやってハマり込んでいったかに関しては、実はあまりよく覚えていない。確か、例のツイートのリプライ欄に書かれていたのがきっかけだったような気がするが、今となっては定かではない。
とにかく、気が付いたらふらふらと「コミックDays」の公式サイトに立ち寄り、気が付いたら全話読んでいた。無料分を読み尽くし、当然ながら冷めやらず、あまりに先が気になりすぎて有料分にも手を出した。普段はFGOのガチャですら、福袋(もしくはマーリンピックアップ)以外には一切課金しない私である。ネット上において、あそこまでじゃかじゃか金を落としたのは冗談抜きで生まれて初めてであった。
端的に言う。ものごっつ面白い。
これを投稿した2020年9月13日現在、pixiv様主催の「Webマンガ総選挙2020」で本作がノミネート、且つランキング上位に食い込んでいるので、興味を持って下さった方には是非、一日一回の投票に参加して頂きたい。
いやマジでオススメしたいのだ。打算とか何もなく、ただただ読んで欲しい。絵柄のクセが強そうだとかんな事はどうでもいい。そんなモン2話まで読めば普通に慣れる。 せっかくここまで読んでくれたのである。是非とも聞いて行って頂きたい。下手糞なプレゼンかもしれないが、全力で魅力をお伝えしたい。
2 本論
まず、「忍者と極道」の良さを論じるに当たり、以下の点にあらかじめ絞っておきたい。それでもなるべく詳しく紹介するつもりだ。
① ストーリー
② キャラクター
③ 台詞回し
④ 番外編・外伝
2-1 ストーリー
本作を知らない初心者の方々の為に、本作のストーリーについてざっとお話ししよう。
裏社会で数々の悪事を働く「極道」と、彼らを法の目を掻い潜り討伐してきた「忍者」。両者の因縁は一進一退の攻防を重ねながら、300年もの長きに渡って続いて来た。 そして時は2020年、舞台は東京。主人公は、過去のトラウマにより笑う事が出来なくなってしまった若き忍者「多仲忍者(たなかしのは)」と、表向きはエリート会社員をやっている極道「輝村極道(きむらきわみ)」の二人。彼らはとあるきっかけから偶然に出会い、良き友人となる。
互いの素性を知らぬまま、「忍者」と「極道」はのっぴきならない抗争に堕ちて行く。キャッチコピーは「決めようか……忍者と極道、どちらが生存(いき)るか死滅(くたば)るか!!」
詰まる所この物語は、絶対的悪に対して、アウトローな正義が秘密裏に立ち向かう仁義なき抗争の物語である。そしてそれを大筋に、忍びとヤクザ、双方の重厚な人間ドラマが展開されていく。
何と言っても、本作における驚くべきはこのストーリーにある。第一に、独特。オリジナリティが凄まじい。アクション、忍者、任侠もの、こう言ったテーマを扱う作品は数あれど、「忍者とヤクザが300年前に社会の裏で衝突し、現在進行形で戦い続けてる物語」という発想は一体どこから生まれたのだろうか。少なくとも私は、過去に似たような作品を見た事がないので、あるという方はこっそり教えて欲しい。DMとかで。
また、そのテンポの良さも素晴らしい。冒頭の掴み部分、忍者と極道両名の最初の邂逅シーン、その後の忍者の戦闘に至るまで、無駄な説明も冗長なモノローグも一切なく、シーン全てがDDR熟達者の足捌きのようにバシバシと決まっていく。台詞回しの軽妙さも相俟って、第1話の時点で既に数えるのを諦めるくらい人が死んでいるにも関わらず、読後感が非常にさっぱりしている。忍者の技で吹っ飛んだ極道の首が48文字も喋っているにも関わらずである(3点リーダーは1文字分と数えた)。
更に本作の大きな特徴として、「展開の速さ」も重要だろう。
さて、本作未読の皆さん。ここで一つクイズです。
Q,身寄りのない主人公を5歳の頃から愛情を持って育て、また戦い方を教えてくれた人生の師匠であり、且つ組織内ではリーダーに次いで強いと言われる特殊能力持ちのお爺さんキャラがいます。彼が作中で最強のボスと真正面から対峙し、決死の戦いを挑むのは何話でしょう?
A,4話です。
本作の展開の速さとは、このレベルの「速さ」である。しかも全体を通してこれが法定速度(デフォルト)だ。
サラマンダーもびっくりのこのスピード。漫画を読んだ経験が多ければ多い程面食らってしまうかもしれない。
─────だが、ついていける。信じられないかもしれないが、これでも必要な情報はしっかり伝わる。話への理解と納得がちゃんと出来てしまうのだ。
これも偏に、ストーリー全体の情報がしっかり整理され、伝えるべき事がしっかり伝わっているからであり、近藤先生の高い技術力の表れだと言えよう。気になった方は、後で是非本編を読んで頂きたい。
2-2 キャラクター
次に、「忍者と極道」のキャラクターについて。勿論こちらも、絶対に欠かせない魅力の一つである。
まず、ここまで読んでくれた方なら既にお分かりかと思うが、本作は忍者という「善」のサイドと、極道という「悪」のサイドに人物群が二分しており、この構図が物語全体に絶対的なルールとして敷かれている。
一見すると、ただの分かり易いキャラクター構造とも言えるが、本作の巧みな点は、キャラクターの重厚な深堀りを実現しながらも、そのルールからは絶妙に逸脱しない事にある。これは特にヒールである極道サイドに顕著に表れている。
例えば、本作には組長の一人として「夢澤恒星(ゆざわこうせい)」という極道が登場するが、彼の異名である「仁義の大侠(おおおとこ)」からも分かる通り、彼は周囲から「理性的な人間」として信頼されている。
実際、作中でも、
・行き場を失い捨て鉢になった若者に「前を向いて生きろ」と諭し、その後面倒を見ている
・忍者と戦う際に経験の浅い若者達を逃がし、敵にも時間をくれた事に感謝を述べている
・部下である舎弟達にも決して悪い態度を取らず、リーダーを全うしている
というような描写があり、その後の忍者との死闘も、泥臭いながら華々しかった。更に「一般人(カタギ)には無暗に手出ししない」なんて台詞まで言われた日には、「極道にも話の分かりそうなのがいるじゃないか」と思う人もいるだろう。
……だが、そこは近藤先生の手腕、否、極道技巧(ごくどうスキル)。
こんな夢澤ですら、明確な「悪」なのだ。命がけで自身を助けてくれた前組長との思い出を語るシーンでの「国会議員かなんかの一家拉致ってブッ殺していたあの倉庫でよォ…」と言うセリフが、彼の倫理観も「極道」そのものであるという事実を物語っている。
更にこのセリフ、国会議員を家族ごと殺害している時点で「一般人には手出ししない」という意思と思い切り矛盾している。何じゃこれは。カタギの定義すらそもそも恣意的じゃないか。というか、これより前の場面で、忍者を誘き寄せるために「極道さんに反抗的な奴らの首を100個竹下通りに並べる」という所業を嬉々としてやろうとしているので、そもそも悪党である事に何の言い訳も出来ない。
本作は、どんなにイイ人に見えようが、家族を愛していようが外面が良かろうが、一般人は絶対に近付いてはならず、忍者であっても油断は許されない連中であるという事を、とても巧妙に伝えてくる。一周まわって、ある意味道徳的な作品とも言えなくもなくなくもないだろう。
そしてもう一つの良い所は、本作のキャラクターには、忍者側・極道側共にオタクの人口がやたら多い、という事である。
まず主人公の多仲忍者は、女の子向けヒーローアニメ「プリンセス」シリーズのファンであり、特に11年前の作品「フラッシュ☆プリンセス」(以下「Fプリ」)を激推ししている。そして極道サイドの主人公にしてラスボス・輝村極道もまた「プリンセス」のオタクなのだ。実は二人が最初の出会いから仲良くなったのもこの趣味の一致がきっかけで、一緒に食事をしながらプリ語りしたり、店に並びながらプリ語りしたりと「オタ友」の一体感ある関係性が細やかに描かれている。まるで作者自身がそうであるかのように。
他にも、艶やかな女性忍者の一人が「ヒポマイ」オタク、極道見習いの若手三人が新参「プリンセス」オタク、危険度抜群の少年殺し屋「ガムテ」ですら「Fプリ」のOPを着信にしているなど枚挙に暇がない。更には、戦いの中に「互いに共通の趣味のオタクだった」事が感動を誘うシーンまで存在する上、「Fプリ」の作者とそのシナリオに、本作に関する重大な秘密まで示唆されている。
世にも珍しい「オタ友から始まり、サブカルが運命を繋ぐ死闘の物語」。これは人物設定作りにおける、一つの新しい潮流と言えるだろう。
2-3 台詞回し
そして何と言っても無視できないのが、「忍者と極道」のオリジナリティ溢れる台詞回しだ。
これまでの文章でもチョイチョイ出てきたから気付いていた方もいるかもしれないが、どんなものかは一度見てもらった方が早いので、まずはこちらの台詞を読んでみて欲しい。
極道界の真実の御伽噺
「裏社会で悪事かますと忍者が来襲る」
流石にちょっと簡単だったかな?と思う。そうそう皆さんご明察だ。
正解は「ごくどうかいのマジのおとぎばなし ウラでわるさかますとにんじゃがくる」。
…………このように本作では、ルビと単語の組み合わせで独自の読ませ方をするワードの数々、所謂「ルビ芸」が猛威を振るっているのだ。例えば「オ願(ナ)シャス」や「心底有難(マジアザ)ッス」「麻薬(ヤク)」などは作品柄割と頻繁に見かける。また「パネェ」の表記も特徴的だ。程度が半端じゃない、と言う意味の俗語だが、本作はニュアンスによって「偉大(パネ)ェ」や「畏怖(パネ)ェ」など、バリエーション豊かに使い分け、読者に感情の動きを伝えてくる。
中には「征(イ)ってきやす」「殺人未経験(ドーテー)」「児童の臓器(ガキモツ)」「二重唱(二ケツ)」「絶頂(タマンネ)」「暴走族神(ゾクガミ)」「虚無(シャバ)い」「虚像(ウッソ)だろ」「非実在(アリエネ)ェ」「極道居合(しんでもらいます)」などなど、狂乱無双な無法地帯ルビもバカスカ連ねられる。
一体何を食べてどんなルートをランニングしたらこんな発想が生まれるのだろうか。忍極初心者は今の時点で脳をひっかき回される思いかもしれないが、何、10話もキメれば慣れる。既出のストーリーを全て読み切り、最新話を追いかけ始める頃には「近藤のアニキ、今度はどんな偉大(パネ)ェルビ芸かまして来っかなァ!」などと期待する余裕も生まれるに違いない。そして普段のツイッターでの言動にも深刻なミーム汚染が生じる事だろう。
ちなみに、「忍者と極道」本編はこの密度でまだ33話しか出ていないので、最新話まで追いつくのもそれほど苦ではない。
さあ、後で一緒にキメようぜ!URLは最後に貼っておくから!
2-4 番外編・外伝
本論の最後にご紹介するのは、「忍者と極道」の幕間に挟まれる3話の番外編と、本編から75年前の過去篇を描いた外伝「獅子の華」である。
番外や外伝と聞くと、「別に必読じゃないけど、その作品の玄人が読むと楽しめるもの」という印象が強いかもしれない。
確かに本編から逸れる以上、本作の番外・外伝も例外ではないのだが、本作のそれらは、上記の様な印象とは少し違ってくる。
「忍者と極道」の世界を楽しむ為には、ある意味「必読」なのである。
まずは番外編だが、基本は、本編に登場したキャラクター達の意外な一面を知るいい機会である。だが、ストーリーの中ではやり切れなかった彼ら一人一人の掘り下げが(短編でありながら)いつもと違う舞台や時間軸で、これでもかと行われている点は特筆しておきたい。
「作中ではさらりと伝えられていた内容には、実はこんなバックグラウンドがあるのだ」「彼らの思考や人間関係はこういった環境で構築されてきたのだ」……
物語上のこういった緻密な作り込みが、本編同様の巧みな描写によって熱く語られる。あらかじめ読んでおけば、本編が10倍も20倍も奥行きを持ち、明確なリアリティとして立ち現れる。これが「忍者と極道」の番外なのである。
そしてもう一つの見所である、外伝「獅子の華」。「忍者と極道」の内容に密接に関わっていた番外編とは違い、こちらは本編から完全に切り離されたサブストーリーだ。多仲忍者を始め、忍者達の多くを育て上げた先述のお爺ちゃん師匠・璃刃壊左(あきばかいざ)が主人公となり、彼の若かりし頃─────戦後、一度追い詰められてしまった忍者達の再起を描いた物語である。互いの正体を知らないまま、良き友人となっている忍者と極道の関係性を、若き壊左と彼の友にして極道の祖父・輝村獅門(きむらしもん)がそのままなぞってゆく。
こちらを「必読」として推す理由は主に2つ。
1つは、「獅子の華」が掛け値なしに完成度の高い作品である事だ。前述したストーリーの発想力もさることながら、その過程に散りばめられた要素の一つ一つが、バトンタッチをするように後々の展開に生きてくる。張られた全ての伏線は、一つたりとも無駄にならない。
運命的な巡り合わせ、偶然が生んだ奇跡、殺し屋同士でありながら純粋に互いを思う気持ち、絡む謀略、策略、そして決定的な関係の破綻……。全5話通して全て鉛筆描きのラフ画でありながら明確な景色と色、そして感情の揺れ動きをを読者にまざまざと感じさせる。真に迫ったその描写力は、直接目にしなければ伝わらない事だろう。
そしてもう1つは、これ程の力作でありながら、本作は期間限定公開だという事である。しかも一度の公開につき一週間のみ。これまで2回公開されてはいるものの、どちらも不定期な上、間が二か月近く空いた。
つまりボケッとしたまま読み逃すと、次いつ読めるか分からない。しかも今回(2020年9月10日~)の公開が2度目なので、期間終了=掲載終了の可能性すらある。現時点であと4日しかないのだ。
不思議な美味しさを湛えるたった一杯のコーヒーに詰まった重厚な物語。見逃したら心底(マジ)で大損失(モッタイネェ)ぞ。
3 終わりに
あのキャラクター、この小ネタ、設定……。まだまだ語りたい事は山程あるが、冗長になってはいけないので、とりあえずはここでおしまいとする。
まずは、ここまで時間を割き、読んで下さった皆様に厚く御礼を述べたい。やっぱり7000字は長かったと思う。本当にすみませんでした。
大学4年生になってから、マンガ「忍者と極道」に惹かれ、全話読み、ファンアートを描き、新たなコミュニティまで開拓した私であったが、フォロワーさんや、同士の方々の熱意に気圧され、「ジャンル発展の為にあまりしっかり行動が出来ていないのではないか」と思い立ち、本記事を書き殴るに至った。
拙い文章で読み辛かったとは思うが、最後に改めて、これだけはお伝えして、筆を置く事とする。
「忍者と極道」
Webマンガ総選挙にノミネートされてます!!!
面白いから読んで!!!そして投票して!!!
今からでも全然遅くないから!!!
あと4日あるから!!!!!!
読んで~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!
本作が読めるサイトのURLは以下の通り。電子版コミックスも買えるので、是非お手軽にキメて頂きたい。
【閲覧可能サイト】
https://comic-days.com/episode/10834108156722664318
https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13933686331608489327
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