【景表法関連】買取サービスへの景表法の規制適用について
2024年6月27日
弁護士 永木 琢也
1 はじめに
令和6年4月18日、「景品類等の指定の告示の運用基準について」(景品類等の指定の告示の運用基準について(caa.go.jp))が改訂、施行されました(以下「本改訂」といいます。)。本改訂は、買取りサービスに係る消費者トラブル事例が複数報告されていることを受けてなされたものであり、巷では本改訂により、買取サービスが景表法の規制の対象に含まれるようになったと言われています。
以下では、本改訂の内容を解説のうえ、本改訂の契機となった検討会での議論を踏まえ、本改訂が及ぼす影響を解説いたします。
なお、本改訂は、景品類に関する運用基準が対象となっていますが、「自己の供給する商品又は役務の取引」に該当するのかという、景品表示法の「景品類」「表示」に共通する要件に関するものとなりますので、本改訂の影響は、景品規制のみならず、表示規制にも及ぶものとなります。
2 本準改訂の内容
本改訂の内容としては、運用基準3⑷の記載が、以下のとおり修正されたものとなります。
このように、本改訂以前の旧運用基準では、古本の買い入れ等、自己が商品等の供給を受ける取引は景品表示法上の「自己の供給する役務の取引」には該当せず、景品表示法の適用対象外と考えられていました。
そもそも、これまで買取が景品表示法の適用対象外とされてきたことの背景は、景品表示法の条文上の適用対象は、「自己の供給する役務」であり、自己が供給を受ける取引はこの適用対象とはならいないのではないかというものでした。
本改訂による新運用基準では、「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務を提供していると認められる場合」には、「自己が一般消費者から物品等を買い取る取引」も「自己の供給する役務」に該当するとされています。
なお、新運用基準が、「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務を提供していると認められる場合」という留保をつけていますが、これは、景品表示法の条文上の「自己の供給する役務」との文言との整合性をつけるために、買取側にも何らかの役務を提供することを要求したものと整理できます(下記3参照。)。
3 本改訂の契機
本改訂に先立ち、景品表示法検討会により、10回にわたる議論の結果、令和5年1月13日付「報告書」(230222版_検討会報告書 (caa.go.jp)、以下「本報告書」といいます。)24頁から26頁において下記のような提言がなされています。
本報告書では、買取りサービスについて、「近年、一般消費者を対象とした買取りサービスが普及してきており、本検討会における有識者ヒアリングにおいて、事業者が広告において表示した金額と実際買取金額に乖離がある広告についての消費者トラブルなど、買取りサービスに係る消費者トラブル事例が複数報告されている。」、「買取りサービスに係る景品表示法の適用について考え方を整理する必要がある」と指摘されています。
そして、上記の買取サービスの問題点に対する、考えられる対応として、「景品表示法において、規制対象となるのは、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引」について表示をする行為であるところ(第2条第4項、第5条)、買取りサービスについて、単なる仕入れではなく、「消費者が保有する物品を鑑定等して、それを現金に変える」という「役務」を「供給」していると認められる場合には、「自己の供給する(商品又は)役務の取引」に含まれると考えられる。この場合、現に一般消費者に誤認を与える不当顧客誘引行為が行われるときには、現行の景品表示法によって規制可能である。」、「このように、買取りサービスが「自己の供給する(商品又は)役務の取引」として規制可能であることを明確化するため、運用基準の記載を見直す必要がある。」との指摘がなされております。
本改訂は、本報告書における上記の指摘を受けてなされたものと思われます。
4 検討会での議論
本報告書では、「消費者が保有する物品を鑑定等して、それを現金に変える」という「役務」を「供給」していると認められる場合には、景品表示法の規制対象となり得ると指摘されています。もっとも、通常、中古品の買取を行う場合、必然的に当該中古品の「鑑定」は行われます。そのため、鑑定が行われた場合、必ず「役務」を「供給」していると認められてしまうのであれば、中古品の買取事業を行っている事業者はすべて「役務」を「提供」していると判断されることとなり得ます。しかし、これでは、結局、自己が供給を受ける取引に景品表示法の規制を適用していることと同義であり、景品表示法の文言からは外れてしまうのではないかとの疑問が生じてしまいます。
そこで、本報告書の記載の背景・趣旨を知るために、報告書のもととなった、景品表示法検討会での議論を見てみましょう。買取サービスの景品表示法上の取り扱いについては、第9回検討会(令和4年11月30日 第9回 景品表示法検討会(2022年11月30日) | 消費者庁 (caa.go.jp))において、議論が固まったものと思われますので、第9回における議論を見ていきます。
前提として、第9回の議論では、補足資料として提示された次の5つのケースをもとに議論がなされています(いずれも、資料2 補足資料 (caa.go.jp)より抜粋。)。
以上の5つのケースについて、検討会において、以下のような検討がなされています。
以上のように、委員によって意見のばらつきはあるものの、単に査定を行い、中古品を買い入れる行為のみについては、役務の提供には該当せず、査定・鑑定のみならず何らかのサービス提供が必要であると考えているように思われます。その問題意識が、本報告書の「単なる仕入れではなく」との文言に反映されたものと思われます。
5 検討会での議論及び本報告書と運用基準の内容の比較
上記のとおり、本報告書においては、単なる仕入れではなく、消費者が保有する物品を鑑定等して、それを現金に変えるという「役務」を「供給」していると認められる場合には買取サービスを景品表示法の適用対象とできるとの指摘がされております。また、検討会での議論においては、単なる仕入れに対して役務の提供として景品表示法の適用を行うことは、現行法では難しいのではないかとの指摘や、査定行為は、古物の買取にあたって通常行われる物であり、査定行為のみで役務の提供に該当するとすることは中古品が絡むとすべてサービス提供になりかねないとの指摘もなされているところであり、査定のみで役務の提供に該当するとまでは考えていないように思われます。
一方で、本改訂の内容を見ると、「単なる仕入れ」という文言が削除されており、「当該物品等を査定する等して当該物品等を金銭と引き換えるという役務を提供していると認められる場合」には景品表示法の適用対象となる旨記載されています。
このように、本報告書の内容と本改訂の内容では「単なる仕入れ」という文言が用いられているかという点において相違があります。
6 消費者庁の見解
では、消費者庁としては、上記の本報告と本改訂との間の相違点について、どのように考えているのでしょうか。この点について、先日、消費者庁の担当官に電話にて本改訂と本報告書の記載内容の違いについて聞き取りを行いました。その結果、以下のような内容の回答が得られました。
この回答から推測する限りでは、消費者庁としても、検討会での議論の内容を無視するものではなく、査定行為があれば、すなわち、無条件に買取サービスとして役務提供がある(=景品表示法の規制の適用対象となる。)と考えているわけではないと思われます。
もっとも、どのような行為が行われると役務の提供があると判断されるかについては、いまだ不明確性が残ってしまっている状態です。
7 おわりに
上記の消費者庁の見解は、何らかの文書によって示されたものではなく、あくまで筆者が電話にて聞き取りを行った結果の回答に過ぎません。そのため、実際の法執行の場面において、消費者庁がどのような判断を行うかについては、今後の事例を待たざるを得ないところです。また、検討会でも指摘されているとおり、消費者被害が生じうる態様で事業を行っている買取事業者も存在することから、今後、景品表示法の改正がなされることも考えられます。
そのため、買取サービスに関する執行事例や法改正の動向について、引き続き注視していきたいと思います。
弁護士 永木 琢也(松田綜合法律事務所)
2019年12月 弁護士登録
法律事務所での勤務を経て、2020年12月から2023年5月まで株式会社カカクコムにて組織内弁護士として勤務。
広告規制関連法務、医療ヘルスケア関連法務、個人情報プライバシー関連法務等に注力している。
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