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虹龍山嶺 立山連峰をどう捉えたか

 この記事では、2023年に富山大学医学部薬学部ギターマンドリンクラブ様から委嘱されて作曲した「虹龍山嶺(こうりゅうさんれい)」について、その作曲経緯などを書いていきます。


委嘱経緯

 依頼は2023年の4月末に受けました。
 依頼の際は長さや編成以外は曲の内容はお任せということもありますが、今回は具体的なイメージがあるご依頼で、"立山連峰"の情景をモチーフに作ってもらいたいということでした。
 時間によって変化する山の景色のイメージも重要だということで、こちらとしても題材そのものに変化があると曲の展開もさせやすいのでありがたいことでした。

 一方で、私は具体的な曲のイメージなどを聞く前に、委嘱の話があった段階で先行してテーマについて一人で考えていました。

先行して独自のテーマを探る

 まだ「立山連峰」をテーマにするということが決まっていない段階でしたが、とりあえず私は富山大学の杉谷キャンパス(医薬系)の地域周辺を調べていました。

 というのも、委嘱された以上は「その団体から依頼があったからこそこういう曲になった」という必然性が作品には必要だと思っていて、実際に学生の方々が過ごしてらっしゃるその土地に根差した何かをテーマにする、というのはそれを達するための現実的な方法だからです。
(この時点では、先方に具体的なイメージがあるかどうかもまだわかっていなかったのですが、結果として"その土地に根差すテーマ"という点は方向性として偶然一致していました。)

 その調べ物の際に偶然見つけたのがキャンパス近くにある「杉谷の霊水」という湧水です。

富山の水

 「杉谷の霊水」には、諏訪で祀られているタケミナカタ(建御名方神)にまつわる由緒が知られています。
 それによると、タケミナカタはある池の間近に神籬(ひもろぎ)を設けて一族の子孫繁栄を宣(のたま)い、白大蛇と化し池の地底に姿を消し、その後神籬の下の岩が割れ湧水が溢れたそうで、その湧水が今の杉谷の霊水だ、ということです。
 この話の真実性はともかく、水に関連して思い出したのは、私が毎週見ていた番組「ブラタモリ」の富山回です。

 富山湾の海底地形が豊かな漁場を作った、というくだりは印象的でよく覚えていました。
↓こちらの記事が同様の内容に触れています。

 海底に流れ込む水は河川が運びますが、その河川の水はどこから来ているのか、ということも考えたくなります。
 そうして立山連峰やその他の山が、水の出発点として大きく浮かび上がってきて、山・川・扇状地・海という富山全体のイメージ立体的なパノラマとなって、頭に浮かんできました。

 先行して考えていた水のイメージと、依頼された立山連峰のイメージがここでうまく繋がりました。

 険しく高い山々から勢いよく流れ落ちる急流、山から離れてだんだんと勾配が緩やかになるとともに広がる川幅、遠くに見える雄大な連峰、そして海へとたどり着き循環する水。

 かなり具体的にイメージが湧いてきたのでようやく作曲を開始するとともに、実際に立山連峰を見に行かなくてはいけないな、と思いました。

立山連峰を見に行く

 まず、近景については山岳写真集をいくつか購入して確認しました。それらの本の中で「雪渓(せっけい)」という語彙を確認しまして、重要なキーワードとして意識しました。
 続いて遠景、つまり遠くから立山連峰を見るべく探した立地が、雨晴(あまはらし)海岸でした。

 急な計画だったので日帰りで、14時ごろから日没近くまで海岸周辺にとどまり、立山連峰を遠くから観察しました。

 せっかくなのでこの時に撮った写真をいくつか載せておきます。

高岡駅周辺 立山連峰がもう見えている
氷見線雨晴駅
奇岩・女岩(めいわ)と立山連峰
夕方になると色が変化

 この写真だとよくわかりませんが、山肌は青っぽく見えるので空や海の色と同化するような錯覚も覚えました。
 そうすると山の上の雪渓だけが浮かんでいるように見えてきて、宙に浮かぶ横方向に長い龍のイメージが湧き出てきました。
 この印象が、時間によって色を変える龍、虹龍(こうりゅう)というワードに繋がっていきます。
 龍は昔から水神とされてきましたから、山から海に注ぎ込む河川・伏流水の要素も含むことができます。

 ちなみに虹という字は中国ではオスの龍を表しますが、今回はそこまで意味上の重ね合わせは意識していません。(メスの龍は蜺[げい])
 虹龍という単語が元々存在するかはわかりませんが、私は湊谷夢吉の漫画「虹龍異聞」で知っていたので今回使ってみました。漫画の内容と曲には関係がありません。

旅行後は中間部に着手、そして完成へ

 旅行に行く前に、すでにA-B-A'の最初のA(近景)はほぼ作り終えていて、B(遠景)の展開をさあどうするか、という局面でした。
 幅広くゆったりとした部分の曲作りはこの旅行に刺激されて、シンプルですが格調高く、余裕のある作りになったと思います。
 具体的には、三和音を基調とする設計にしたことが功を奏したと思います。複雑な和声で飾るよりも、堂々としたストレートな響きが幅広さの演出には合っています。

 今回は全パートdiv.無しで作ったということも、あまり飾らないストレートなサウンドに影響しています。

終わりに

 実在の土地を明確に題材にしたこと、div.無しである程度の長さ(8〜9分)にすることなど、今回は自分にとっては新規性のある挑戦が散りばめられていた委嘱作曲でした。
 最近は少人数の団体・演奏者にどういうことができるかと考えている毎日なので、今回は少人数合奏に適したオーケストレーションを試すチャンスと思い、これらの挑戦で刺激を受けつつ楽しく作曲しました。
 人数が少なくなるにつれ要求される実力は高まるとはいえ、20人程度であれば十分充実した演奏が可能だと思います。それより少なくなればより高い実力は求められますが、10人程度でもアンサンブルとして形にはなるはずです。とはいえコントラバス以外は、できれば1パート2人以上いると安心です。

 この記事を書いている2023年に行われた合奏コンクールでは、一校あたりの人数の平均値・中央値ともに20人台でした。
 これが全国全体と同じ状況かはわかりませんが、20人くらいのマンドリンオーケストラを想定して曲を書いたほうが、演奏者全体の満足度は上昇すると考えています。
 もちろん、もっと少ない人数に対応できるのであればそれも良いことですが、10人よりも少なくなってくると合奏的発想ではカバーしにくくなりますので、単純にdiv.が無いから、というだけではあまり満足できない曲になると思います。
 そのようなケースに対応するために小編成曲も作っているわけですが、合奏を弾きたいと思ってマンドリンを始めた方にとっては、必ずしも小編成曲は良い選択肢ではありません。合奏と並行して弾くならまだよいですが、人数の都合で合奏ができないから仕方なく小編成…という動機では満ち足りた演奏行為になるとは思えません。

 今後も特定の土地を題材にした委嘱があればぜひ作曲してみたいと思います。(できれば現地に行った上で作りたいので旅費が出ると大変ありがたい…)

 というわけで、作曲経緯やテーマに関する解説を終わります。読んでくださいましてありがとうございました!

参考図書

西田高生(1990).『山渓山岳写真選集-1 剣・立山連峰』.山と渓谷社

相馬恒雄(2021[第二刷]).『富山のジオロジー 増補改訂版』.シー・エー・ピー


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青山涼
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