東京ゼイリブ2018
電車の車内で並ぶ広告、何気なく見ていると気づかないけれども我々は色んな心理操作を受けているということに気付いてしまうこともある。
山手線に乗っている時に、ぼんやり視線斜め上に並ぶ車内広告を見ていた時にこんな広告の並びがあった。4つの広告がワンブロックに掲示されているのだが、一番右側に「結婚相談」二番目に「薄毛は医者に相談を」、さらにもう一つ「育毛剤」一番左側に「ダイエット」。
よくよく考えると、これは人のコンプレックスを利用したとてもいやらしい並びである。
まず、一番右の「結婚相談」。結婚をしたくても、相手がいないという人間に対しての広告である。結婚をしたくても出来ないのには、理由があるはずである。それは、本人が引っ込み思案だったり、出会いの機会が無かったり、たまたま過去に付き合って来た人達と縁が無かったり…、さまざまな理由があるだろう。しかし、その中でも改善が可能なのは、外見的にモテない要素があるという事であろう。
例えば、ハゲ。
というわけで、測ったかのように、お次は「薄毛はドクターに相談を」の広告である。
「結婚という目標を目指す前にお前は薄毛を直せよ!」という血も涙もない展開である。
昨今の「薄毛は病気」「治療で治る」という「ハゲは病人扱い」ビジネスだ。
ハゲを気にする男達に対して、「世間ではハゲは絶対モテないのだ!お前は病気だ!病気は治せ!だから医者に相談しろ!」という脅迫めいた展開。
「おとなりの広告の結婚相談会社に行く前に、モテないハゲはまずうちの病院へどうぞ!」と勧めている。
ハゲ相手の圧力はさらに左へ続く。
今度は「育毛剤」の広告だ。
知り合いにかつらメーカーに過去務めていた人間がいて、その人曰く、とにかく相談者のコンプレックスを刺激して高額なカツラや増毛を進めるのだそうで、かなりエグいし、人はコンプレックスを解消するためには多額のお金を出すものなのである。
だから車内に広告も打てるんだな。
「じゃ、となりの広告の病院に行かなくても、薬は買えるでしょ?ウチの毛生え薬はどうですか?ダンナ?」というわけである。
これも安価なものではない。
ハゲを悩みにするのは、まあ男性が多いだろうし、逆にハゲてない人にとっては中2つの広告はスルーされてしまうだろうが、さらに広告会社は次の結婚への阻害となるコンプレックスを突いてくる。
今度は男女関係なくコンプレックスとなりやすい肥満体型。つまりデブへのメッセージである。「ハゲてねえことに安心してんじゃねーよ!となりのとなりのとなりの結婚相談所にデブが相談に行くなんざ100年早ぇんだよ!痩せて出直してこいや!」と言わんばかりに「ダイエット実践講座」の広告である。
「結婚というお前らの理想を目指すなら、ハゲとデブという二大病気を治療するのが当然です」と言わんばかりの並びで、ハゲでもデブでもあり、結婚していない俺は敏感にもそこに気づいてしまったのである。
結婚できないという悩みから類推される外見のコンプレックスという人の持つ弱みを非常に狡猾に突いた広告の並びである。
この並びに気づいた時に、昔テレビで見た80年代のSF映画「ゼイリブ」を思い出してしまった。
ある男がひょんな事からサングラスを拾った。
彼は何気なくそのサングラスをかけて街をブラブラと歩き始めた。すると街の景色が何やらいつもと違って見える。宣伝の平凡な写真の看板やカリブ海旅行の看板をメガネを通して見ると、「命令に従え」「結婚して、出産せよ」と書いてある。サングラスを通して見ると、雑誌にも新聞にもテレビ放送でも「消費しろ」「考えるな」「眠っていろ」「権力に従え」などの不気味な命令文に満ち満ちているのが見える。しかも街中の裕福そうな人々の大半は骸骨のような恐ろしい顔をしたエイリアンだった。エイリアンが人間のふりをしていたのだ。このサングラスはエイリアンの本当の姿およびエイリアンらが作り出している洗脳信号を見抜くことができるサングラスだったのだ。
1980年代の社会に蔓延した物質主義的思考に対する批判や、特権階級の者らがメディアを悪用し人々を洗脳し社会を専制的に支配していることに対する批判や警告が織り込まれている作品なのだが、まさにこの並びに気付いた時にこのゼイリブの主人公のような気持ちになってしまった。
もっと注意して世の中を見てみると、世の中、80年代よりも露骨に「ゼイリブ」の世界に拍車がかかっているのかもしれない。