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ヤバいドキュメンタリーを見て考えたこと。仕事ってなんだ?

(フルで5562文字あります)

自立した成人にとって仕事への向き合い方は非常に重要な問題だ。
いろんなパターンがあると思う。

たとえば、

「仕事が辛くて収入も少ない!」
「仕事は辛いけど、収入は満足!」
「仕事楽しい。好きでやってるし、収入もいい!」
「仕事は楽しいし、やり甲斐がある。でも、収入が足りない!」

のような感じで人それぞれ仕事への向き合い方が異なるはずだ。
しかし、SNSでよく見かける書き込みには多くの人が「仕事したくない」「仕事行きたくない」や、「仕事やだけど、収入ないと生きていけない」みたいな諦めにも似た心の叫びといった基本的に「仕事」=「嫌だ」「ダルい」「苦痛」と言った意見を多く見かける。

仕事が楽しくて仕方ない人ももちろん存在するし、わざわざ「仕事楽しい!」とかSNSに書く人も稀だとは思うけど、「とにかく仕事したくない!でも収入がないと生きられない」というのがこの世の常だと思う。

俺はずっと非正規や自営業で正社員で働いた事がないし、無職期間が結構あった人間だが、思うのは、無職がヤバいというより、無収入がヤバいのだ。

俺が三年半前に大麻所持で逮捕された後に、1年間は活動を自粛して、夜の街に一切出ることなく、街のマッサージ店で働いていたのだけど、ぶっちゃけ、歩合制でお客が来なきゃ収入なし。日給1200円の日なんかもザラにあって、拘束時間の割に合わないし、収入も少なくて、これじゃ暮らしていけねえー!って状態だった。
いわゆるワーキングプアーだ。

人間は仕事をしないとヤバいというが、本当にヤバいのはプアーの部分である。
世の中にはすげえ楽チンな仕事で高収入を得てる人もいれば、全く働かなくても食うに困らないプアーとは無縁な人生を送っているひともいる。

つまり、この資本主義の世の中で人間としてヤバいのは無職というよりも無収入なのだ。仕事をしてない人間は後ろ指は指されるかも知れないが、収入があれば身を滅ぼす事はなかろう。

ブラック企業が問題になって久しい世の中だが、収入源を握っている強みを振りかざして、従業員をコキ使うパターンが多いって事だろう。
資本家め!

まあ、俺も禁制の嗜好品さえ持ってなけりゃ仕事を失ってワープアにもシール屋にもなってなかったんだけど。

で、禁制の嗜好品と言えば、最近、クソやばいドキュメンタリーを友人に見せてもらったんですよ。

アメリカの密造酒のドキュメンタリー。

そう、法律で禁止されてるお酒の話。
いわゆる許可なしの酒の製造と販売にまつわる色んな人達の暗黒マーケットの人間模様。

密造する側、取り締まる側、運び屋、売り手、それぞれの立場の人々の取材や証言によって成り立っているドキュメントなのだが、たとえば、密造する側にもいろんなタイプがあり、製造だけして運び屋に渡す業態や、店舗で製造して店頭で販売する業態、あとは製造からデリバリーまでやる業態などがある。

これが本当に「ウソだろ!?」と思うシーンの連続で情報量が多くて、整理しきれず三回も見てしまった。時間がある方はこの文章の最後にリンクを貼っておくので是非ご覧になってほしい。

たしかにアメリカでは悪名高い19世紀の「禁酒法」の時代があったのは有名だけど、解禁されてからもアメリカでは酒に対する規制が厳しく、税率も高いみたいなので、安く手に入って効きの強い密造酒が人気があるらしく依然として密造酒の需要がある。

よく向こうのギャングなんかが出てくる映画で、茶色い紙袋にボトルを入れて街中で酒を飲んでる描写があるけど、今でも公然とお酒を飲むことは禁止の州がある。
お酒自体は合法でも飲む場所が限られてたり高かったりで、酒に対する当たりは厳しいようだ。

我が国では酒に対してはめちゃめちゃ寛容である。100円ちょいでアルコールがどこでも手に入る。よく日本でも外国人が街中でストロングゼロのようなチューハイやハイボールを歩きながら飲んでいるところに出会うけど、あれはアメリカではぜったいに考えられないことで、今、ブームになりつつある路上飲酒なんかしたら、大変なペナルティを課されるのだ。

今、若手飲酒シーンですごい勢いのパリッコ君やスズキナオさんなんかもアメリカの厳しい州に生まれたら、犯罪を奨励する悪いやつ扱いかもしれない。
二人が生まれたのが日本で良かった!
逆に俺がアメリカに生まれてたらどうなってたかな?笑笑

それはそうとそして、多分、酒好きのアメリカ人達の間では「Wow! スティーブ!知ってるか?!日本はそこら中で酒がクソ安く売ってて、道で堂々と飲んでても怒られないらしいぜ!外で堂々とクソ酔えるなんてマジ最高じゃねえ?!」なんて話が伝わっているんだろう。

マリファナ好きの日本人が「オランダのアムステルダム(今は世界中で合法化の真っ最中だが)では、コーヒーショップって所で、ふつうにハッパ吸えるらしいぜ!俺も行きてー!行ってキマリまくりてーー!」って興奮しているのとよく似ている。

彼ら酒好きのアメリカ人にとって日本は、白昼堂々と公衆の面前でハードドラッグをキメても全く問題ない国の一つなのだ。


ハードドラッグというのは本当にそうで、アメリカ、アラバマ州では密造酒は違法って事で所持しただけでも、最低禁錮三ヶ月。
摘発する違法アルコール取締管理局も、防弾ベストと銃で武装した軍人みたいな連中。
もう完全にドラッグとして扱われているのである。
超当たり前のことだけど、所変われば…みたいな話で、法律や社会状況が違うとにわかに信じられない事は世界にたくさんあるということだ。

で、密造酒を作ってる連中にもいろいろいて、もちろん究極的な目的は収入なんだけど、アメリカの北東部の山中では、ムーンシャインというそれ自体が「密造酒」という意味の英語にもなっている、有名な密造酒がある。

このドキュメンタリーを見る限り、このムーンシャインで驚くほどの莫大な利益を得ている人物はいないようだ。

ドキュメンタリーに登場するロスコーという男は、密造酒ムーンシャイン作りに文字通り命をかけている。イリーガルなので、もちろん当局にバレてはいけないし、小銃まで携帯しながら、野生動物に襲われる危険を冒してまで山中深くまでカヌーで川を登り、険しい山道を登り、水質の良い水源を探し出し、さらに、そこまで機材一式を運び込み、何日もかけてこだわりまくった上質の密造酒を作っている。

一年の半分は炭鉱で働いているというが、半分は密造酒を作っている。

彼は言う。

「こんな少ない元手でこんなに稼げる仕事が他にあるか?この世界で稼ぐには堂々と違法行為をやってのける度胸が必要なんだ」と破天荒ぶりをアピールする。

しかし、側から見ると、超大きなリスクをかかえてるし、酒造りに対してもハンパなこだわりと苦労ではない。

これがもし、合法の仕事なら彼は超腕の良い酒造り職人として脚光を浴びたかも知れない。

そして、稼いでいる額もこんなに苦労してるなら、まあそんくらい貰ってもいいんじゃね?と思うレベルである。それだけリスクを負って、最高の逸品を作り出すオトコがそれでいいのか?と思ってしまう。
日本の高給取りが一ヶ月で稼ぐ金額よりも少ないくらいだ。

これは日本の大麻シーンでも同じ事が言えて、やはり山中や室内で、丹精込めて育てている人たちの話を聞いた事があって、警察やマトリや裏社会の怖い人などのリスクを負ってやっている割には左団扇で暮らせるほどは稼げないというの話しも耳にした事がある。
そういった人がこの文章を読んでるかどうかは知らないが、このドキュメンタリーはそういう人にも共感を持って見る事ができると思う。

アメリカのド田舎では他に仕事がなく、稼ぐ方法が他にない、というのもある。

取締局の捜査員は言う。
「どんなにいい奴でも、犯罪者は犯罪者だ!情けをかけるな!」と。

取り締まる側も密造酒業者の中には「いい奴」がいることも分かっているが、彼らの職務は人格に関係なく公権力を振りかざして彼らを取り締まることなのだ。仕事とは一体…?その発言には仕事にそれなりのプライドを持ちながらも、「善人」を取り締まることに疑問を感じている事が読み取れる。

しかし、究極的には、誰もが職を失い、無収入になり、自分の生活が脅かされることを恐れている。

とはいえ、密造酒業者の中には金目当ての密造酒業者には劣悪な環境で適当に作った、失明などのおそれのある非常に質の悪いムーンシャインをつくる連中もいて、放置しておくのは危険であることは間違いないのだ。

また夫婦で密造酒を作っている業者は、やはり丹念にこだわりの酒を作り、自分で販売もしている。やはり、それほど莫大に儲けているわけではない。
密造酒夫婦の夫は言った。

「合法的に仕事してやれたらいいと思う。
酒造りが生きがいだからな。
でも、俺には金が無い。
だから無理だ。
それで密造を続けてる。
…中略…
税金を払ってない俺の酒は違法だ。
堂々と作れるものならそうしたい。
今みたいにコソコソ隠れてつくる必要もないからね。」

彼らには彼らのそれをやらなければ生きていけない理由があるのだ。

ちなみにムーンシャインは州の境を越えて、末端に届く頃には、取引額は400倍にもなるという。きっと、どこかに密造酒で大儲けしている組織があるのだろうし、それを求める客もいるということだろう。

それとは別の話で、ニューヨーク若い人達に流行るナットクラッカーという市販の材料で手軽に作れる密造酒の話もあるのだが、その製造と売人をする男はいう。

「わざわざ危険を冒してまで山の中でムーンシャインを作るなんて馬鹿らしい。こんな短時間でこんなに稼げる仕事が他にあるか?」
と、手間のかからないムーンシャインの事をバカにしながらも、「短時間で稼げる効率のよさ」をアピールする。

手間をかけまくってムーンシャインを作っているロスコーと同じようなことを言っているのだ。

この男も実は「楽に稼げる」と言いながら、結構ちゃんと働いていて、SNSを通じて注文を受けわざわざ客元に配達までしている。見た目はヒップホップ風のギャングスタイルだが、はっきり言ってその仕事ぶりは「まじめ」に働いているように見える。
そして、品質にも誇りを持っているのだ。
「俺のナットクラッカーがいちばん美味い」と。そして、リスクを負いながらニューヨークの街で、夜な夜な客の注文を受けて走り回っている。仕事に対してめちゃめちゃまじめなのだ。

「金に困ってる連中は金を稼ぐ手段を求めてる。
少ない元手で金が稼げるナットクラッカーは金儲けに最適だ。」

やはり怖いのは無収入だ。
法律を破るよりも無収入のが怖い。

冒頭のロスコーが番組の最後にまた出てきて、こんなことを言う。

「密造酒製造者として成功したいなら、堂々と法律を破れないとな。
じゃなきゃ、成功できない。

このビジネスを始めて8年だが…楽しいよ…

仕事は厳しいし、口も固くなきゃ行けない。
正体は明かせないからな…

アパラチア山脈の芸術を生み出すことが、俺の酒造りのモチベーションになってる。
誰も欲しがらなくなったらおしまいだが、俺に勝るライバルは…存在しないよ。」

ロスコーの言葉は深い。

楽しい仕事ではあるが、楽な仕事とは言っていない。むしろ厳しいと言っている。

やはり、仕事は楽なら楽であるほど良いと言うもので無く、そこにやはり誇りとモチベーションがあること、そして「楽しくやれること」が大事であり、それで生活が成り立つ程度の収入として納得が行くと言うことが重要なのだろう。

しかし、違法だ。彼は犯罪者なのだ。

このドキュメンタリーは無収入であることの怖さ、仕事への熱心さと誇り、違法と合法、さまざまな事を考えるきっかけになる凄い映像作品だと思う。

俺が組んでいる音楽ユニットの贅沢ホリデイズでボーカルを担当しているレゲエdeejay(歌う人)のCHOPSTICKさんという人がいる。

彼は一年中、国内を飛び回って各地でショーケースを行ったり、飲み師として生計を立てているちょっと普通じゃない仕事をしているおじさんなのだが、先日、東京で行われた朝までのイベントの後、そのまま台風が接近しつつある名古屋へ向うという話をしていた。常にこのような調子でどこかに移動し続けては各地でショーをやっている。

みんなそれを聞いて「大変ですね。キツいですね。」と言うが、当の本人は「いや、別にきつくないよ。キツイかな?分からない。」と答える。

そう、その仕事が大変かどうかは、当事者しか分からないし、楽しんでやっている事であれば、それは本人にとっては苦労にはならない。あとは、それが割に合っているかどうか、という事のいい例だろう。

このドキュメンタリーは俺にもとても深く凄く突き刺さっている。
俺も今更、真っ当な「会社員」として雇ってもらえる年齢じゃ無いし、できれば、違法じゃ無い事でお金を稼ぎたい。

でも、俺のつくる音楽は、ナードコアにしろ、リミックスにしろ著作権で考えたらグレー、というかアウトだし、ほぼ密造酒みたいなものだ。
でも、俺ができることと言えば、音楽を密造したり、こういう愚にもつかない文章を書いたり、DJをする事くらいだ。もちろん20年近くやってる誇りもあるし、楽しくてやっている。だけど、正直、仕事として振られることもあんまり無いから全然金にはならない。

音楽自体は好きなはずなのに、それで稼げない事で嫌いになってしまったら音楽の本質を見失ってしまう。それでは意味がない。

もしかしたら俺は音楽家ではなくて、音楽の密造業者なのかも知れないんじゃないか、なんて思った。

この必見のヤバい密造酒のドキュメンタリーはこちらから!

潜入!暗黒産業『密造酒』
https://www.youtube.com/watch?v=EixyJlztLyE

ありがとうの一言です。本当にありがとう!