いきなりそれはやってきて

春の小雨の朝だった。
夫はもう出かけていて私にはもう少し時間がある、もうすぐ桜が咲きそうなだけど肌寒い季節であった。

「しななくちゃ」無意識の眠りの中から放り出されて思ったのはそれだった。
橋の上から飛び降りなくちゃ。
すぐ行かなくちゃ。
携帯だけは持ってこう。

スウェットのまま、スニーカーを突っかけてマンションの階段を駆け下りて雨の中を走った
悲しくも苦しくもない。ただただ、「トイレ行かなくちゃ」くらいの気持ちで「すぐ飛び降りなくちゃ」という焦りが足と頭を動かしていた。

しばらく小走りで小雨の中をはしって信号待ちをしている時に「あれ?」となった
「この辺で飛び降りられるくらい大きい橋と川…ないなあ、そもそもなぜしななくちゃなの?」

はしって10分くらいだったのでそのまま帰るのも何だか落ち着かなくて息も切れて
ゆびさきがつめたかった。

コンビニに行くと入口の左横からコーヒーのにおいと「いらっしゃいませー」の明るい声がしてますます現実に引き戻された。

携帯が幸いあったので、電子決済でレギュラーサイズのカフェオレホットをひとつ買った。
店の中ではアレなので軒下で雨宿りさせてもらいながら「さっきのは何だったんだ?」と考えた。
派遣の仕事もまずまず、家事もそれなりに保ててちょっと前薬が切れてパニックになったけどいまはきちんと服用している。

でも「しななくちゃ 」に駆り立てられた。
顔も洗わないで走った。
不思議には思ったけど怖くはなかった
「たぶん、鬱病患者はこういう感じで不意にいなくなるのだな」ということが理解出来た瞬間だ。

それからネットで色々調べて首吊りようのロープを買った。
丈夫で長くて、キャンプ用じゃないやつだ。

しばらくしてロープは届いた。白くて長くて…固い。こんなものでみんな首吊りできるの?!と言うくらい硬い。結び方を習ったとおりに作ろうとしたが上手くいかないくらい硬い。

夏がすぎて秋がきた。今もロープは袋に入ったまま部屋の隅にある
辛い時見ると「固くてめんどくさいからそれなら寝よう」と思う。
これはこれで、私のいのちのお守りだ。変なお守りだが、あると安心するし、触ると死にたいが減少するご利益付だ。

ロープ、今日もありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?