ぼうけん番外編 あんがい知らない社外取締役の毎日
8月決算の企業の株主総会があらかた終わった12月、私も一段落。
上場会社の社外取締役を4社、これに加えて大学の理事をしていて、最近よく尋ねられるのが
「社外取締役って、何してるんですか」
「社外取締役って、1ヶ月に一度取締役会に出ればいいんですか」
的なこと。
そうだろうなあ、と思います。私も民間企業の社員だった時、取締役会の存在は自分の中で相当希薄で誰が取締役なのかも知らなかったし、社外取締役に至っては意識さえしていませんでしたもん。
当然やりたいと思ったことも一度もなく(存在をしらないのでそうなりますよね)、嫌味な言い方になってしまいますが、本当に行きがかり上毎年のように社外取締役の数が増えていって、かなり多忙な状況になっている今でも、「あるべき姿の社外取締役」がどんなものなのかは全くわかりません。
なので、今回のnote では、「私が(勝手に)考えている社外取締役ってこんな役割で、私が実際にしている社外取締役としての日常」についてお話ししたいと思います。なので、これは企業を代表する意見でも、社外取締役を代表する意見でもないです。私個人、しかも「今考えているワタシ」という限定的なものです。
今やっている社外取締役
今私は自分の会社を経営しつつ、次の全く異なる4社の社外取締役をしています。
金融系 プライム市場
小売系 プライム市場
建設系 スタンダード市場
スタートアップ・IT系 グロース市場
よくもまあこれだけ違うな、と思いますが、私の場合よく知っている人から紹介されたり、社長さんと直接お話していたことがきっかけになったり、その就任に至る経緯はそれぞれ違います。
一番長いところで7年、一番短いところで2年くらいやっています。
社外取締役はどの市場であっても今求められていて、非上場でも社外取締役を登用している企業が多数あるのが実態です。
社内取締役と同様、任期は1年です。株主総会で賛成してもらって初めて就任となります。ただ、よほどのことがない限り1年で退任するということはないです。業界、業務、社内の状況や課題、戦略を理解するのにそれなりの時間がかかりますし、執行(社長をはじめとする、実際に業務を遂行している経営陣と社員のみなさん)との関係構築、コミュニケーションが適切に成立している必要がある、ということを考えると、2年以上の時間軸は必要なのかな、と思います。
じゃあずっとやっていればいいのか、というともちろんそんなことはなく、内規で就任期間を決めている企業もあり、6年、8年、というところをよく見かけます。ISSなどの議決権行使助言会社は、12年以上在任している社外役員(取締役や監査役)には反対票を投じるよう助言していたりします。長すぎる在任は、馴れ合いとは言わないまでも独立性に疑問が生じるから、ということだと思います。
そもそも社外取締役って?
社外取締役の前に、まずは経営をしている取締役会。取締役会は、企業戦略などの会社の大きな方向性を決定し、必要に応じてリスクを踏まえた経営判断を行い、執行が行うことに対して様々な観点から「監督」を行うことを求められています。そのためには、社内だけの目ではわからないことも多いのではないか、いろいろな視点からみたほうが適切な経営判断ができるのではないか、という指摘から、社外から参加する取締役=社外取締役を入れることがとても強く求められるようになってきています。
女性の社外取締役はまだまだ必要とされている(らしい)
社外取締役はいろいろな視点からの意見を伝えることが大切なので、まさにいろいろな人がいるのが良いです(と言われていますし、私もそう思います)。となると、従来のように社長の友人とか、OB、というわけにはいかなくなります。全然多様じゃないからです。異なる業界、異なる職種、グローバル経験、ITやDXの知見、女性を始めとするダイバーシティの視点。。。となれば、女性の取締役は当然いないとおかしい、せめて女性は入れてください、ということになります。
こういった流れの源流には「コーポレートガバナンス・コード」通称CGコード、があります。この中で明確に、「女性の活躍を含む社内の多様性の確保」が求められており、しかも2025年を目処に1名以上、2030年までに女性役員の比率を30%にする、という(目指す)目標も明記されています。ここでいう女性役員は社内、社外を問わないのですが、社内からの女性役員の登用は相当時間がかかるため、「まずは社外から」という流れがしばらく続いています。それでも現在、こんなに増えたように見えても東証プライム市場の取締役女性比率は19.1%にとどまっています。
これまでは弁護士や会計士のような専門職としての女性取締役の登用が多かったのですが、それではもうスキルの多様性が担保できない、ということでまさにいろいろな企業で活躍していた女性が次々登用されるようになっています。
しかし、このような流れは急に始まったので、まだまだ私を含めて各人のスキルにはばらつきがあると思います(男性もそうです)。最近ではいろいろなところで「いつかは社外取締役になりたい」とか「社外取締役育成プログラム」ができたりしていますが、誤解を恐れずに言えば社外取締役は勉強したり、目指したりするというのはちょっと違うかも、と思っています。各社でやることが全然違うし、向き不向きもあるように思うところもあります。
社外取締役としてのスタンスー私の場合
実際の社外取締役はなかなか大変です。常勤ではないので毎日いるわけではありません。部下もいません。執行をすることもできません。前述した通り、それ、誰?と思われている希薄な存在です。
でも求められていることは結構広いし深い。企業にとってさまざまですが、事業領域も広く、知らないことも多い。業務プロセスや財務の知識も必要、そういったことをベースに適切な指摘ができることを求められ、何か問題が起こると取締役として責任を取る必要があります。
私の場合は、こんな気持ちでやっています。
一般ピープルだったらどう感じるか、の代表選手として考える
上司や部下の関係はないので、あまり社内事情とかを考えなくて済むのは楽だな、と割り切って考える
自分が経営の立場で上から目線でああだこうだ言われたら嫌だろうなあ、と思うので、できるだけわかってもらえるように話す
実際にできているかどうかは、また別なんですが・・・
実際の活動
偉そうなことを言っても、実際の業務ができるわけではない、というのが社外取締役であって(そもそも執行を監督するのが仕事なのでしてはいけない。経験もないからそもそもできないことが圧倒的)、できることは限られます。私が社外取締役としてやっているることは、例えばこんなことです。
取締役会への参加(当たり前)
事前説明会がある企業の場合は事前説明会への参加
委員会(指名諮問委員会、指名委員会、監査委員会、など設置の仕組みは各社によって違いますが、そういう委員会がある企業の場合)の活動に参加する
何か課題や問題が発生したときに、社外取締役だけで議論をしたり、委員会メンバーで議論したりする(これが結構多い)
事業責任者の方や執行役員の方からの事業やリスクについての説明をしてもらう
現場の視察(工事の現場や店舗や子会社など)
社員の人たちと話す(知り合いに紹介してもらったりします)
「この論文や記事や資料はもしかしたら役に立つかも」と思った時にその業務を担当している役員の方にメールなどで情報をシェアする
女性活躍支援などに注力している企業の場合、人事部門が座談会やわいがやタイムを企画してくれると、そこに参加して一緒にわいわい話す(その後、人事部門とこんなことしたらどうかな、とブレストしたりする)
DX絡みでこの人の話聞いたらいいかも、と思った時に、その人を企業に紹介する
この会社とあの会社の同じ領域を担当している人同士を繋いで、お互いにいろんな発見をしてもらう(仲人?)
旅行に行った先に店舗があれば、その店舗に行く(店長さんの時間が空いていれば話をすることも)
マーケティングなど自分が知っている分野のことを知りたい、と言われたら、関連メンバーにワークショップする
(ごく稀に)海外視察をする
という感じでその企業によって活動はさまざまです。取締役会に出ているだけでは、本当に役員の皆さんが考えている戦略や今年の事業の方向性を現場の皆さんが納得しているか、はよくわかりません。なので、できるだけ現場の方たちとお話しして「確かめ算」をしているところがあります。
また、他の業界では一般的に行われていることでも業界が異なるとそうでないこともあるので、そういうことは伝える場合もあります。
共通しているのは、「取締役会に出席するだけではとてもおさまらない」ということです。
なかなか難しいな、と思うこと
企業が考えるべき課題は多岐にわたります。事業の成長、戦略の実現、利益の継続的確保、社員の幸せ、株主への貢献と説明責任・・・事故も起こるし事件も起こる。
社外取締役が難しいな、と思うのは、
自分の手ではほとんど何もできないのに、責任は取らないといけない
というところです。あくまで「監督する責任」があるけれど、部下もいないし、毎日会社にいるわけでもないし、少し離れた存在なわけです。でも何か起こった時には
「なぜ事前に確認していなかったんだ」
「なぜ見ぬけなかったのか」
「責任を果たしていないのではないか」
「お飾りか」
と言われてしまう。
100%やっていたか、と言われるとやっていました、と断言はできないです。責任はとっても感じます。
でも、じゃあどうすればいいのか、というところに答えがなかなか見つかりません。
人によっては、そのジレンマを打破するために執行の立場で自分自身がやりたい、と考え、執行に移る人もいます。その気持ちもわかる。
CGコードがどんどん要求レベルを上げて来る中で、どうしていくのが正解なのか、社外取締役同士で話すこともよくありますが、最後はため息で終わります。
それでも、社内ではない、でも何かを企業として決める時の1票を持っている人間として、よい企業、よい社会にするために何かできるんじゃないか、という気持ちは歳を重ねてきた今だからこそ強く感じます。がんばっている若いメンバー、懸命にやっている経営陣を応援したい、できるだけ正しい方向で進んでほしい、そのためのサポートをしたい、という感じです。だから反対もするし、賛成もするし、質問もするし、電話もかけるし、飲みにも行きます。
社外取締役は独立性を担保するために執行と離れた関係でいるべきだ、という考えがあるのも理解しています。でも、私の場合は現場が大切だな、と思うし、経営陣の皆さんを人間というか友人としてリスペクトした上で仕事をしたい、そうでないと判断を誤るのでは、と思っています。この人たちに幸せになってもらいたい、としたら今何をいうべきか、みたいな感じです。
とか言っていますが、そんなにたいそうなことをしているわけではないです。数年やっていてもわからないことは山ほどありますし、相変わらず質問ばかりしています。
それでも、せっかく関わりを持った会社がもっと成長すればいいな、と思って明日も会議に出るのでした。