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ネットストーカーの思い出
わたしは1998年から、まだホームページと呼ばれていた時代に、ネット上で日記や本の感想などを書き始めた。当時はタグ打ちで、HTMLの知識などないので、ホームページビルダーというソフトを使い、悪戦苦闘しながらなるべくコジャレたサイトを作ろうとしていた。
当時はそういった個人サイトを持つ人が、登録できる総合サイトを運営している奇特な人もいて、そこに登録すると、タイトルで興味を持った読者がリンクを辿って読みにこられるようになっていた。検索ではすぐに個人サイトは引っかからないので、こういった一覧となる総合サイトの存在はありがたかった。同じ系統の内容を書いている人にも気づけたし、趣味の似た人とやり取りできる機会ができた。サイトはなるべく多くの人が読みに来てくれるように、ほぼ毎日こまめに更新するようにしていた。
しかし、それは変わった人の目にも留まることになる。いまならレスやコメント欄と呼ばれるものを、当時は掲示板というレンタルで読者が書き込めるサービスで行っていた。わたしも利用していたのだが、ある日ちょっとバズッた時があり、掲示板に書き込みがたくさんされた際に、全員にはレスをしそびれてしまった。
何も、絶対に返事を書かなければいけないルールも義理もないが、途中で気力とスタミナ切れで取りこぼしてしまって、返信できなかった人には悪かったなあと内心思っていた。でも、仮にAさんとするが、わたしからレスをされなかった彼は、想像以上に無視されたと思い怒り狂っていた。その日から、彼が掲示板に嫌味の書き込みなどをするようになった。
また、彼も個人サイトをやっていたが、その内容が連日わたしの日記を受けて、それを気味悪く捻った内容の文章にしてきた。一番印象に残ったのは、わたしの文章を引用して、一行一行に「これは××だから僕が××だという皮肉です」「これは潜在意識では僕に好意があるのに、それを否定したい葛藤の表れです」といった、わたしの文章がすべてA氏について書かれていると分析した文章だった。だが、こちらはもちろんA氏について書いたことなど一度もない。A氏のサイトではまた、グロテスクな表現や性的なことを記した内容もあった。
さすがに気持ち悪くて、当時の彼氏にも相談していたが、彼は言いづらそうに「悪いけど、君が誇大にこじつけて考えすぎなんだと思うよ。ネットストーカーというのは言い過ぎで、別に彼の文章は普通だよ」と言われて、この恐怖心がどうしてわかってもらえないのか、とても不思議だし悔しく思った。逆に、まったく面識のない方から、「A氏の文章を全部保存しているので、被害届など出す場合は協力します」と連絡をいただいたりして、見知らぬ方のご厚意に嬉しくて泣きそうになったりした。
わたしはA氏に直接メールを送って、「金輪際わたしについて書かないでください」と言い切った。しかしA氏からは「書いてはいけないと思っても、つい書いてしまう。もし今度僕があなたのことを書いたら、訴えてもいいです」といった内容の返信がきた。そこには彼が通っている大学の学部と、本名らしきものが書き添えてあった。
わたしは恐る恐る、その大学の学部の電話番号を調べてかけてみた。事務の人が出たので、その名前の生徒が本当に在籍しているかを尋ねた。まだ個人情報の扱いがゆるい時代だったので、「いる」という返事を聞けた。
当時はネットストーカーという言葉が社会的に知られ始めた頃だった。わたしはとりあえず警察にも電話をして、ネットトラブルの窓口があるかを問い合わせてみたが、まだそんなものはなかった。わたしは困り切って「どうしたらいいんでしょうか?」と、電話に出たおじさんの警察関係者の人に尋ねた。すると、「何か起こってからじゃないと動けないんでねえ」という返事が聞こえた。
「……つまり、わたしが刃物で刺されたら、やっと動いてくれるということですか?」
わたしの声が怒気を孕んでいたので、おじさんは「まあ、そうだねえ」と困ったように返答した。