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まだ大きな声では言えないけれど

「無痛分娩で産もうと思うんだ」

そう人に伝えるとき、私はピリリと緊張する。ちょっと小声で、少し強張った笑顔で、こっそりと。それはまるで、悪いことを告白するかのよう。

無痛分娩とは、出産時に麻酔を使うことで痛みを軽減する方法。完全に感覚がなくなるわけではないらしいけど、私も体験していないからわからない。

反応は大体、3パターンに分かれる。

ひとつめは「いいなー!私も産むならそうしたい!」という肯定派。同世代の、まだ出産前の友人はほぼこのパターン。この反応がもらえるとホッとする。

ふたつめは「え、麻酔するってこと…?それってリスクないの?大丈夫?必要?」と心配してくれつつ、抵抗がある保守派。両親を筆頭に身近な大人たちに多く、反対はしないけど賛同もしない。無痛分娩自体がまだまだ普及していないことを痛感する。

そして、みっつめは「何言ってるの!自然分娩が1番!人間は自然に出産できるように作られているし、みんな今まで薬なんて使わずに産んできたのに!」という、完全反対派。
これ、ビックリするくらい男性に多い。不思議。過剰に反対されると「じゃあ、あなたが産んでくれ!」と胸ぐらに掴みかかりそうになる。

無痛分娩はしばしば、「耐えられる痛みなのに母親が楽をするために子どもをリスクにさらす」というような見られ方をしている気がする。「子どものために痛みに耐えること」が神聖化されてしまっている感じ。自己犠牲をしてこそ母親だ、と。わかる気もするけど、ちょっとひっかかるなあ。母も人間だから、痛いのは嫌だし…痛くない方法があるなら、その方がいいなと思ってしまうよね…(小声)

もちろん、無痛分娩という選択肢がなかったとき、または自然分娩を選んだ人に対して「痛みに耐えて出産するなんて馬鹿馬鹿しい」という気持ちは一切ない。むしろ本当にすごいと思う。それは本当に!

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私が無痛分娩に決めたのは、夫がアメリカ人だというのも大きい。アメリカでは無痛分娩や帝王切開が一般的だそうで、彼のお姉さんもお母さんも帝王切開。だから麻酔が普通だし、むしろ普通分娩の選択肢があることに驚かれた。

「歯医者で麻酔できるのに『耐えられるから、抜いた歯に愛情が湧くから』と、あえて麻酔なしで親不知を抜くようなもの」と言われたときの衝撃は忘れられない。親不知に置き換えると考えただけで「何故そんなことを?!」って笑っちゃう。もちろん出産と親不知は違うけど。

もともと無痛分娩に嫌悪感もなかったし、「みんなやってきたんだから」という精神論よりは論理的だとさえ思った。小さな穴からヒトが出てくるというだけで想像できない恐ろしさ。加えて「死ぬほど痛い。でもがんばれ」だなんて理不尽な…とさえ思っていたから。こんなに進んだ今の時代、医療のチカラに頼りたい。

もちろんリスクはある。でも未知のものを「危険よ!」と跳ね除けてしまうことが、私には勿体無くも感じてしまう。だって、飛び込んでみなきゃわからないじゃない。

病院でしっかりと説明を受けて、メリットとデメリット、リスクへの対処法を聞いて納得したから、やってみることにした。自然に産んでも、麻酔をしても、お腹を切っても、出産は命がけなことに変わりはないのだから。

というわけで、無痛分娩で産んできます。出産後「大変だったでしょ!辛かったでしょ!」と聞かれることが多くなると思う。そんなときに「う、うん、まあね…」と濁してしまいそうな自分に喝を入れるため、ここでこっそり、告白しておきます。(小声)

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