突然の「特別な日」の記録
いつか娘に「あなたが生まれた日は」と伝えるための記録。今まではただただ過ぎていた「なんでもない日」が、突然「特別な日」になるってすごいなあ。
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予定日から6日遅れの夜明け、4時。妊娠してから、どうも眠りが浅い。産後の育児に備えて眠りが浅くなるホルモンが出ていると何かで読んだ。そんなの生まれてきてからにしてほしい。
毎日「今日こそ生まれるかな…」という期待と不安を裏切られ続けた私は「どうせ今日も何もないだろ」と思っていた。トイレに行って、布団に舞い戻ったところで、あれ?と思った。なんだかお腹が痛いような気がした。
そこから「これは…一体…?」と不確定な腹の痛みが続いた。夫に声をかけ、母に連絡する。ふたりとも「本当に陣痛?仕事やすんだほうがいい?」と聞いてくる朝8時。陣痛じゃないなら出勤、陣痛なら欠勤という連絡の瀬戸際にもかかわらず、私はまだ「わからん……」とタイマー片手に顔をしかめていた。
小心者の私は2度も産院に電話をかけ「もうすこし様子みてください」と言われていた。きっとこれが陣痛なんだろう。たしかに波のようにじーんと痛くなる。夫にも母にも会社を休ませてしまったし、何が何でも今日、産む!このとき、陣痛は7分間隔くらい。
これは一気に進めるしかない。
そう思った私は、近所の神社まで散歩に行くことにした。「陣痛来たのでちょっと散歩してきます!」と言ったら、近所のパン屋のおばちゃんが仰天していた。神社に向かう道すがら、歩けなくなるくらいの痛みが襲ってきた。行き先を神社などとゲン担ぎ的な場所にしてしまったため、途中でやめるのも気が引け、そのままお参りを済ませた。
急いで帰宅すると、なんと陣痛が2分間隔になっていた。これは…!病院に行ってもいいのでは?!13時に病院につき、すぐに入院となった。
ーーー
産院では、実際に出産をする「分娩室」の前に、陣痛に耐えつつ赤ちゃんが降りてくるのを待つという「陣痛室」というものがあった。きれいなベッドに寝かせてもらい、すぐさま麻酔を入れてもらった。下半身の感覚が鈍くなり、陣痛の痛みがすぅっと消えた。ベッド横の機械が示す数値では、確実に陣痛は強くなっているはずなのに痛くない!
「ちょ、これは…!すごい…!痛くない!みんな無痛にしたらいいと思う!」と大いにゴキゲンな私。満面の笑みを、夫がカメラにおさめていた。が、これを最後に私の笑顔は消えた。
お産の進みが早すぎたのだ。
記録していた私のメモは「14:22 促進剤を投入した。麻酔のおかげで痛くない。無痛分娩すげ」で途切れている。
「痛くなったら麻酔足すから」と言われたのに、いくら麻酔を足してもそれを上回る内側からの痛み。おなか…、腰…、おしり…、そして股。赤子がぐいぐいと降りてきているのがわかった。助産師さんも「え、もうお尻まで来てる?!生まれちゃうね!」と驚くままに、分娩室へ。
ーーー
分娩室では、さらに強い麻酔を入れてもらった。痛みはないはずなのに、何かが股の間から出ようとしている感覚だけはあった。今まで経験したことのない、とんでもない大きさのウ○チをしているような。汚い表現だが、これが1番しっくりくる。とにかく、これを押し出さなくては…という一心でイキんだ。
余談だが、ここで10年間の吹奏楽経験が生きた。ブレスコントロール、ロングトーンを繰り返してきた私の体は、一息が長く、力強く赤子を押し出した。助産師さんにも、立ち会った夫にも、「ずいぶんとイキみが長かった!」と褒められた。
さらに余談だが、助産師さんのはからいで少し出てきた赤子の頭を触らせてもらった。自分の股の間から柔らかい頭とフサっとした髪の毛を触ったときの気持ちは、どうしても言葉に表せない。感動とか、がんばろうとかそういう気持ちというより、率直に「すげーー!こんな経験したことなーーい!」という感じだった。
左に夫、右に母。家族に立ち会ってもらってお産ができたことは本当に有難かったなと思う。一役買ったのは、夫が100均で購入したミニ扇風機だ。そんなの恥ずかしいから使わないでと思っていた扇風機、涼しくて気持ちよかった。馬鹿にしてごめん。
そして入院してから、たったの4時間。「超安産」と褒められたお産を経て、17時過ぎに全身むらさき色の娘が生まれた。思っていたより紫色で、思っていたより太っていたのを覚えている。
出産後の第一声は「ちょっと…これもう1回できる自信ないわ…」だった。
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1番恐れていた会陰切開は、麻酔のおかげでなんともなかった(麻酔が切れたあと数日はめちゃくちゃ痛かった)。夫は、大きなハサミが出てきた瞬間から見ていられなかったそうだ。
すぐに抱かせてもらった娘はあったかくて、フニャフニャのくせに力強かった。すごく疲れているはずなのに、目を大きく開いて必死にお乳を吸っている姿は、今までみたどんな動物より本能的だと思った。
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10ヶ月、待ち望んでいたお産はあっという間に終わった。今、これを書いている私の腕の中では娘が眠っている。出てきたんだな、もうお腹の中にはいないんだ。なんだか不思議な感じだ。
立ち会ってくれた家族、支えてくれた助産師さんや先生には感謝しかない。無痛分娩に賛成してくれた夫やまわりの人にも、本当にありがとうと言いたい。そして頑張って、健康で生まれてきてくれた娘にも、ありがとう。
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