イアンに続け!考えすぎる私の解放ものがたり
ライター仲間の甲斐イアンちゃんの言葉に、ギクリとした。「はい、それ私です」と降参ポーズで両手を挙げたくなる。
何を隠そう、私もかれこれ数年間ずっと黒髪で、息子が生まれてからは刈り上げ上等の短髪を続けてきた。もちろん黒髪ショートが悪いのではない。むしろ大好きな髪型である。が、ギクリとしたのは、そのモチベーションが「だってメンテできないし(どうせ私なんか)」みたいな、ネガティブなものだったところにある。
イアンちゃんの言葉に揺さぶられた人は多かった。SNS上でみんなが「わかる〜〜〜」とつぶやくなか、私も「うああああ」と背後から刺されたモブ悪党のような声を上げながら、ずっと後回しにしていた美容院の予約をいれた。
髪を染めたイアンちゃんのルンルンと軽やかな言葉を改めて目で追いながら、人を動かす文章ってこういうことなんだな……と思う。
時を同じくして、妹から「アタッチメントセオリーって知ってる?」と聞かれた。詳しくは割愛するが、人がコミュニケーションを取る上ではいくつかのタイプに分かれており、タイプによって課題や解決法が変わる、みたいな話だった。
妹に勧められた動画を見て、私は瞬時に自分が「anxious attachment」というタイプだと自覚した。簡単に言うと「人が離れていく恐怖に囚われていて、他人のために尽くしすぎて疲弊する」みたいなタイプだ。
私は今まで、「この世で何が一番こわいですか?」と聞かれたら、真っ先に「人から嫌われること、失望されること」だと答えてきた。ライオンよりオバケより、何よりもこわい。大切な人に嫌われるくらいなら、憧れの人に失望されるくらいなら、いっそこの世から消えたいくらいだ、と本気で思うほどだった。
ただ、この数年でその傾向は薄れつつあるように感じている。周りの人たちのおかげもあって、「他人よりも自分を優先しても大丈夫なはず」と思えるようになってきた。少しずつだけど練習を重ねて、「人の目を気にしすぎる傾向がある」ということに、この数年で自覚的になっていた。
そして、みんな大好き「2024年のしいたけ占い」。我ら牡牛座の冒頭にはこう書かれている。
ほうほうほうほうほう!!!!
「オレの幸せはオレが決める!」みたいな当たり前のことが、ようやく私にもできるようになるわけですかあ!とテンションが上がった。よし、今年はもっと自由に、自分の心が動くままに行動するぜ……!と心のなかでグッと拳をにぎった。
さて、髪型の話に戻ろう。実は私は昨年くらいからずっと「黒髪飽きてきたな〜」と思っていたにもかかわらず、冒頭の理由から後回しにしてきた。が、内省オバケの私は、後回しの理由は「めんどくさい」だけではなかったことに、本当は気づいてもいた。こわいのだ。
染めて似合わなかったらどうしよう。変だと思われたらどうしよう。みんな口には出さないけど「黒髪のほうがよかった」とか思うかもしれない。義理の家族や保育園のママ友たちはどう思うだろうか。取材相手からの第一印象はどうだろうか……ぐるぐるぐる。
ここにきて、私はまーだ人の目を気にしていた。たった一度、髪を染めるだけなのに、いつの間にこんなにハードルの高いものになってしまったのだろう。結局「カラー」の予約はしたものの、何色にしたいかどころか、本当に染められるのかも怪しくなってきた。
その頃、ライターの師匠と仲間たちとお茶する機会があった。仕事の悩みを話していると、師匠から何度目かのアドバイスをもらった。
「まなちゃん、考えすぎだよ」
そう、そうなのだ。私はいつも「考えすぎ」る。ああなったらこうなったらと豊かな想像力を羽ばたかせすぎて、まるで予言者のような確信を持って未来を不安に思う能力がある。
「考えることができる自分」は好きだけど、「考えすぎる自分」は正直、邪魔くさい。私は今年、自分のなかの5歳児を呼び覚ますんじゃなかったのか。うちの娘(5歳)は、人の目など気にせずに鼻くそを食べたりしているというのに。
翌日、私は美容院へ向かった。考えることを放棄して。そして。
……やった。やってやった。15年以上の付き合いになる美容師さんに上の話を長々とぶちまけた上で「メンテに無理なく」「テンションが上がる」「自分らしいと思える」「今までの自分から変わりたい」という欲張りな無理難題を押し付けて。
そうしてカットとカラーがされた頭は、想像していた何倍も軽くて誇らしい。美容師さんって本当にすごい。
帰宅すると、子どもたちは私の頭を見ながら口が開いてしまうし、夫には「正直びっくりした」と褒めてはもらえていない。鏡を見るたびに、たしかにやりすぎたかもしれないとビビる。まあでも。「似合ってるから別によくね?」と、私の中の5歳児が鼻くそをほじっている。なるほど、こういうことか。
たった1回、髪を染めただけ。
そんな簡単なことをようやくできただけ。でも、ここから、私の解放物語は始まっていくような気がしている。解放のきっかけをくれたイアンちゃん、ありがとう。
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