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夜中に募る感情は理不尽だ

午前3時。腕の中で寝息、イビキすらかいている娘をベッドに寝かせると、弾けたように泣き出した。すこし乱暴な置き方をしてしまったかもしれない。もうかれこれ2時間、これを繰り返している。泣きたいのは私のほうだよ…。

普段は夜泣きも少ないし、おなかがいっぱいになればすぐ寝る子。今日はどうしたか、何をしても泣きやまない。気がつけば、抱く私の腕にも力が入って、いつもよりも雑な揺らし方をしている。

そういえば、出産前の両親学級で「カッとなって赤ちゃんを揺さぶってはいけない」と教わった。そのときは「絶対にそんなことしない」と他人事のようにビデオを観ていた。

また泣いた。大きなため息が出た。床に叩きつけたくなる。優しくできない。自分自身がこわくなる感情だと思った。夜中だからだろうか。さっきまで、心の底から可愛くて、愛おしいと思っていたはずなのに。

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「夜中の子守りをシフト制にしようよ。僕もミルクをあげられるよ」と言ってくれた夫の提案を「授乳を安定させたいから」と一晩まるごと引き受けたのは私のほうだった。

授乳以外のすべての育児をしてくれる夫に不満はないはずなのに、泣き声に起きてこない彼にも苛立った。

一言、「大丈夫?寝かしつけ、代わろうか」と声をかけてくれるだけでよかった。そうしたら「ううん、大丈夫だよ」と言って落ち着けたかもしれない。夜中に募るのは、どれも理不尽な感情だなと思う。

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きっとまた泣くだろうと、やっぱりすこし乱暴に置いた娘は、静かになった。やっと寝た…。この瞬間を逃すまいと自分のベッドに飛び込む。腰がいたい。

すぐに、娘の詰まり気味の鼻がフガフガと言い始めた。鼻息が荒い。このまま寝てくれ。聞こえないフリをする。

無視すればするほど、本格的に泣き出した。まだ生まれて2ヶ月も経っていないのに、ずいぶんと大きな声が出るんだな。ご近所に迷惑だよな。夫が起きてくれないかな。そんなことを考えながら、目は開けない。腰も痛む。

ふと、娘の泣き声が止んだ。

次の瞬間、ゴボッという液体が吹き出る音がした。そして娘の小さな喉がヒイッと鳴るのが聞こえた。

暗闇のなか、文字どおり飛び起きた。

ついさっき、「乳児の死亡は、吐き戻しを喉に詰まらせる窒息死が多い」という記事を読んだばかりだった。

はやく寝てよ、その一心で、泣くあの子に無理やりミルクを飲ませたんじゃないか。あまりの眠気にゲップをさせずに寝転がしたんじゃないか。何してるんだろう、私。

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むせる娘の小さな背中をさすりながら、外がすこし明るくなっているのに気づいた。腕のなかで静かになった娘は、気持ちよさそうに寝ていた。

とても眠たかった、はやく寝たかったはずなのに、目が冴えてしまった。娘への罪悪感、自分への苛立ち、夜中の感情への恐怖。そういったものをすべて吐き出したくて、文字を打ち始めた。

すこし寝よう。そう思った瞬間に、ほら見て、娘の足が動いている。詰まった鼻が音を立てている。ここに吐き出したおかげか、それを見て笑う余裕があるほどには回復した。もう大丈夫だ。

はやく日がのぼれ。夜中の感情、いなくなれ。

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