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『ウィンターバケーションEP 2019』

『二〇一八年のサマーバケーションEP』vol.1

『二〇一八年のサマーバケーションEP』vol.2
〜あるいは二〇〇八年のスプリングバケーションEP〜

↑古川日出男20周年記念サイト『古川日出男のむかしとミライ』の中のコーナーである「私的古川論」に僕が寄稿させてもらった『二〇一八年のサマーバケーションEP』も読んでもらえるとこの『ウィンターバケーションEP 2019』というのがどういうことなのかわかると思います。


 二〇〇八年に古川日出男著『サマーバケーションEP』の舞台である神田川沿いを歩いて東京湾、晴海埠頭まで行く「スプリングバケーションEP」をやってから、だいぶ時間は空いて、二〇一三年からは「ウィンターバケーションEP」と題して元旦の朝一から歩いた。二〇一四年、二〇一六年、二〇一七年、二〇一八年と神田川沿いを歩き、今年二〇一九年も東京湾を目指した。七回目の神田川沿いの冒険。

 前日の大晦日にガルシア=マルケス『コレラの愛の時代』を半分ほど読んで年が変わる前に寝落ちした。『コレラの愛の時代』は重かった。そうそうに読み進められる種類のものではなかった。美しい光沢のある大理石のような小説で明らかに読むのに体力、いや向き合う態度が必要なものだった。半分ほどの長さまで格闘した僕はボクサーがいいパンチをもらい過ぎてリングに救いを求めるかのように、眠りに落ちていった。ただ、落ちたという眠りだった。初夢は見なかった。

 五時にスマホの目覚ましと雷電というベルの音がやかましすぎる目覚まし時計の音で目が覚めた。スッキリ過ぎて驚くほど寝起きがよかった。顔だけ洗って着替えてから家を出て下北沢に向かった。南口商店は一部の人が動き出していた。西南口の改札から構内に入って井の頭線に乗った。乗客は祝い疲れたのか、仕事を終えての帰りなのか、どこか満たされた顔で半分以上が寝ていた。起きているものはスマホを見つめていた。井の頭公園駅で降りる際にGPSを起動してナイキのランニングアプリを起動させた。実際に自分が歩く距離の正確な長さと歩いた道のりをアプリに記録させようと考えていた。充電も足りなくなる可能性があると思い、大晦日に充電バッテリーを買いフル充電しておいた。あとは財布とiPod nanoだけ。


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『サマーバケーションEP』の冒頭で「僕」と「ウナ」と「カネコ」が神田川の源流から出発し、川沿いに歩けばやがて海に、東京湾にたどり着くだろうと、彼らが旅立つプロローグにも出てくる立て札とひょうたん橋まで歩いて行き、気持ち的にはここからスタートする。六時ぐらいからの始まり、あとは川沿いをただ歩く、BGMはシャッフルして流れてくる好きな曲、今日は一度も途中で飛ばしたりしないで、ただ流れてくるものを聴きながら進むことにした。


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里程標が川沿いにはある。ここには井の頭公園の源流からの距離とここから隅田川に合流し、飲み込まれていく柳橋までの距離が刻まれている。毎回写真を撮り終えて気づく。撮影した画像を見直していると気づくのだが、この里程標のナンバーは隅田川のほうから始まっていて源流に近づくたびに数字が増えていく。川の流れとは実は逆行しているとも言える。

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川沿いで工事があると進めないで迂回することになる。また、工事をしていなくても住宅があったりして、そもそも川沿いを進めない箇所は迂回したりする。川がある方を意識ながら歩いていき、ある程度歩いたら川の方に戻っていき、また川沿いを歩くという感じになる。


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善福寺川と神田川が合流するところ。


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水道橋付近に来ると中央線から見える神田川は川幅もかなり広くなっている。このあたりは基本的に毎年大きな変化はなく、このまま秋葉原に入っていく。

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柳橋のところで神田川は隅田川に合流し、東京湾に向かうことになる。

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数年前は隅田川テラスの護岸工事をしていて入れない箇所があったりしたが、それはもう終わっていた。だが、橋りょう工事をしている箇所かいくつかあり、そういう変化としては神田川よりは隅田川の方が感じられた。これはオリンピックに向けての修繕なのだろうか、どうか。


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中央大橋から月島に入る。わりとここから晴海埠頭が遠くて疲れるよなって毎年思うけど、なぜか今年は早くついたような気がした。年々歩いてるからデジャブみたいな気持ちもあるにはあるが、たぶんどこか見慣れている景色には不安とか危険を感じることがないので歩くスピードとか初めていく場所に比べればきっと早い、それが繰り返されるとやはりより早くなるのかもしれない。

超高層マンションぼこぼこ立ちすぎ。地盤とか大丈夫なんだろうか、なんか高すぎる建物に住んだことないけど、絶景かもしれないけど地上に降りるまで時間かかるとこに住むってイメージが沸かないし、そういうところに住むこともこの先ないとは思う。


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去年の元旦に驚いた選手村建設地になっていた場所でたけのこみたいに新しい建物がぽこぽこできていた。間に合うのかこのスピード、っていうかこれ今開催中止したらこれ請け負ってるところ潰れるんだろうな、でも、そういう利害関係とかのせいで二回目の東京オリンピックをやっても一部の人にしか金は回らないので経済的にどうこうじゃなくて、大事なことから目をそらせるにはもってこいのようにしか感じられない。あと『AKIRA』ではオリンピック中止というか作中に出てくるけど、あの漫画の舞台が2019年ってことを考えるとなにかが起きるか、起きないのか。

IWCから日本が脱退したことで、オリンピックにも影響はあるだろうし、正直わからない。そもそも最初にこの歩くことを始めた時には都知事が石原慎太郎でここはその時からオリンピックに関する予定地だった。で、候補落ちてからはそれがなくなってただの空き地になっていた。2020年の開催が決まってからはまたここにオリンピックに関する看板が現れて再開発している。

そもそも、東京湾岸の埋め立て地は江戸時代ぐらいからできてきたもので、かつては海だった場所。僕らは海だった場所を歩いたり生活したりしている。クジラも来ただろう、品川区に鯨塚があるように。


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物語の最終地点である晴海埠頭公園は再整備のため立ち入り禁止。去年の元旦もだったけど、どう考えても工事進んでないようにしか見えない。どう再整備するんだろうか。本当なら公園からレインボーブリッジやお台場を見て終了なんだけど、入れないので晴海客船ターミナルから東京湾を見ることにした。

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『ウィンターバケーションEP 2019』終了。来年のオリンピックと終わったあとの2021年の元旦までは歩きたいと思う。見届けたいという気持ちがどこかにある。物語はそこにはきっとあるだろうから。

歩いて勝どき駅まで戻る。そこまでの距離と時間を計った。ほぼ歩いたのは7時間だった。距離は38キロと気持ちではフルマラソンぐらいの距離だと思っていたけど、そこまではなかったみたい。

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自分があるいた経路がこういう風に記録されるのは目に見えるのでたのしい。

あと選手村を作っているのを見て、来年、海外からいろんな国の選手がやってきて、滞在するとおそらくすぐ近くのもんじゃ焼きストリートっていうか商店街に行くと思う。そして、幾人かが自国に帰ってからなんちゃってもんじゃ焼き、あるいはもんじゃ焼きから発展したような食べ物が亜種として発展するのかなって。それは古川さんの小説に出てくる多種多様な国の食べ物だとかのイメージが僕の中に広がっていて、そういうことが浮かんできたのだと思う。


神田川の源流から歩き始めて、次第に太陽が昇ってきてその光に照らされるとなぜか手を合わせたくなるような気にいつもなるのは、不思議だ。同時に暗闇にも惹かれてしまう自分もいて、そのふたつのものが混ざり合うような二重螺旋の先に、未来やいくつもの時間が孕まれていて、そこをしっかり進んでいきたいと思った。歩きながら考えたことと浮かんできたことをきちんと自分の中で言語化して動いていければ、自分にとっていい一年になりそうだ。だからこそ、思考して行動していくしかないっていうわかりきったことをわかる。そのために歩くのは僕にとって時間や空間と親しくなるようなことに似ていると思う。


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