なぜホタルは熱くならないの?:発光の不思議①
エネルギーが変換される際には熱が発生する。でも、化学的エネルギーを光エネルギーに変換するホタルは熱くならない。名は体を表す。でも、英名fireflyのホタルが燃えることはない。ホタルは生物発光しているから。(吉野賢一)
エネルギー変換効率:あるエネルギー(入力エネルギー)を別のエネルギー(出力エネルギー)に変換するときの効率。基本的には「出力エネルギー÷入力エネルギー×100」%で表される。大まかにいうと、変換効率15%の太陽電池であれば「100の太陽エネルギー」を「15の電気エネルギー」にしてくれる。以下は、電気エネルギーを光エネルギーに変換している身近な白熱電球、蛍光灯、LEDの変換効率について書く。
白熱電球は10%:電気エネルギーを物理反応によって光エネルギーに変換する電球。しかし、入力される電気エネルギーの10%しか光(可視光)にならず、基本的に残りの90%は熱になる。「電球」ではなく「白熱」の意味が大きいようなので、やけどに注意すべし。
蛍光灯は25%:電気エネルギーを物理反応によって光エネルギーに変換するガラス管。しかし、入力される電気エネルギーの25%しか光(可視光)にならず、基本的に残りの75%は熱になる。ガラス管内は低圧になっているので破壊するとポンと良い音がする。割りたがる子どもに注意すべし。
LEDは50%:電気エネルギーを半導体を使って光エネルギーに変換してくれるのが発光ダイオード(LED:light emitting diode)。なんと、入力される電気エネルギーの50%も光(可視光)にしてくれる。変換効率が良くて寿命も長いのでお勧めの一品。高価なので財布の中身に注意すべし。
人工光は熱くなる:今のところ、最も変換効率の良いLEDでも「電気代の半分は無駄」にしている。無駄はどこに行くのかと言えば、そのほとんどは熱エネルギーになる。白熱電球なんて、地球温暖化の観点から生産・販売禁止の方向にあるため、なかなか目にしなくなった。入力気エネルギーの90%を使って熱くなるのだからまるで暖房器具。禁止の方向、致し方なし。
生物発光:ホタル以外にも、食べて美味しいホタルイカ、東京湾アクアラインのパーキングエリアの愛称になっているウミホタル、夜光虫と呼ばれるプランクトン、深海魚やクラゲや菌類の仲間など、種々の生物が光る。生物が光を発する現象が生物発光(そのままのネーミング)。これらの生物発光の多くは、ルシフェリン(光るための基質)がルシフェラーゼ(光るための反応を促進する酵素)の働きによって酸化して光る。
生物発光の変換効率:生物発光における化学エネルギーを光エネルぎーに変換する効率は、驚きの90%! だからホタルは光っても熱くならない。生物発光が「冷光」とも呼ばれる所以。そもそもホタルが熱くなったら死んでしまう。日本の唱歌・蛍の光には「ホタルの光で読書、勉強した」という内容の歌詞がある。でも一匹一匹の光が弱すぎてホタル狩りが大変なので、受験生には蛍光よりも蛍光灯(LED)を勧める。
生物発光でノーベル賞:2008年に下村 脩博士がノーベル化学賞を受賞した。下村博士はウミホタルの生物発光(ルシフェリン)の研究で頭角を現し、その後オワンクラゲの生物発光に着手。オワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP: green fluorescent protein)やイクオリンを発見した。でも当時はそれほど注目されなかった。その後、GFPが生命科学研究で広く利用されるようになりノーベル賞受賞となった。生物発光に光が当たった瞬間。
余談①唱歌・蛍の光:「ほたるのひかり、まどのゆき~♬」の歌詞は、蛍雪と言う故事がもとで(昔あった大学受験雑誌の「蛍雪時代」を思い出す)、ホタルの光だけでなく「窓の雪」も登場する。でもホタルは自ら光るけど、雪は光を反射することしかできないので光源(太陽光や月光)が必要。曇りや雨の日には「窓の雪」は役に立たないから「ホタルの光」で(晴耕)雨読すべし。でもやっぱり、蛍光よりも蛍光灯(LED)がお勧め。
余談②受賞者のコメント:下村博士は「ただオワンクラゲの生物発光の不思議を明らかにしたいと思っただけ。役に立つとは思わなかった」とコメントしている。そういえば、リチウムイオン電池で2019年ノーベル化学賞を受賞された吉野 彰博士(私とは縁もゆかりもない)も「基礎研究は創造の場(それが企業から失われている)」と言われていたな~。その他の受賞者も異口同音「基礎研究は重要」と述べられている。役に立つ研究(応用研究)はもちろん大切だけど、真理の探究を目的とした研究(基礎研究)もすこぶる大切。
余談③電気料金:使用しているすべての電化製品の変換効率を調べる。そして「供給されている電気のうち、目的の用途には30%しか使用していない」と電力会社に告げる(全体として変換効率が30%だった場合)。すると電力会社が「電気料金を70%値引きします」と回答してくれる。そんな妄想を楽しむ私。そして、この妄想を笑神様(妻)に語ったとき、笑神様は本気にした。さすが神。