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反逆の炎上錬金術師パラケルスス:錬金術から学ぶ③

 錬金術師といえば、パラケルスス!賢者の石、エリクサーです。錬金術第三弾は、本命登場です。18世紀フランス第一弾)→17世紀イギリス第2弾)ときて、16世紀ドイツへと遡ってます。科学的業績には?マークですが、めちゃくちゃ変わった人なので紹介します。(小野堅太郎)

 錬金術師の代表格として有名ですが、パラケルススは医者です。吉野先生の「鋼の錬金術師」の記事にあるように、パラケルススという名は本名ではありません。

 1493年にスイスのアインジーデルンで産まれています。いろいろ調べてみると、父親は市井の医者であり、幼い頃は鉱山で育ったようです。おそらく親からの医学教育を受けた後、とある有名なオカルト修道院での経験を経て、大学に行ったようですが定かではありません。20代半ばからヨーロッパを遍歴し、名をパラケルススとしたようです。パラ(para)は同等、並列という意味です。ケルススは、あのたまたま医学書だけが後世に残ることとなったケルススでしょうが、「彼と自分は同等である」との意味合いでパラケルススとしたのでしょう。まあ、名前についても諸説入り乱れており、はっきりとした事は何もわかりません。

 経歴としては、軍医やったり、バーゼル大学で医学部教授やったり、放浪したりと多彩で、1541年ごろに47歳ぐらいで亡くなっています(死因も諸説あり)。医学部教授時代が面白くて、当時の医学の神、ガレノスやアビセンナの本をわざわざ皆が見えるところで燃やしたり、医学を変える!と張り紙貼ったりと、学内で炎上して首になっています。おそらくちゃんと当時の大学教育を受けていないので、ラテン語が不得意なため、講義をドイツ語で行ったりして他の教員から白い目で見られています。とにかく医学だけでなく、あらゆる既存の学問を全否定しています。悪名高き四体液説を初めて明確に全否定した人ですが、水銀、硫黄、塩の三元質論というさらによろしくない理論を医学に持ち込んだ人でもあります。

 当時は宗教改革です。マルチン・ルターがカソリック教会を否定する動きが広がり、農民の反乱など「既存の権威に抵抗する」ということが華やかなりし時です。パラケルススもその流れに乗ったのだろうと考えられます。とはいえ残された書物には、ガレノスやアビセンナの医学をそのまま参照したものを残しています。パラケルススの大きな特徴は、鉱物も医薬品として大々的に取り込んだということがあります。加えて、占星術と錬金術を取り合わせて医学を魔術的領域までもってきています。現代的視点では???ですが、こういった謎医療が当時の多くの医師たち・患者たちに支持されたようです。

 権威の崩壊時とは常識の崩壊でもあります。伝統的に形成されていたモラルが壊れて、新しいモラルの模索時期です。こんな混乱時に現れたパラケルススは、独自の理論と経験に従って特殊な世界を作り上げたわけです。その不可思議な医術はオカルトとして伝説化し、その後の社会に悪影響を及ぼすとともに、数々の創作物にパラケルススは権力に屈しないアウトサイダーな錬金術師として現代にも名を残します。錬金術を医学に取り込んだことで「ホムンクルス」という人造生命体の伝説も生みました。

 こういって書くとパラケルススを非難していると取られるかもしれませんが、現代常識と照らし合わせているからです。その時代に身を寄せれば、古臭いラテン語での大学教育、千年以上前の医学にしがみつく医療を否定したパラケルススの態度には一目を置いています。しかし、あまりにも特異な彼の行動は、多くの知識人の支持を得ることはありませんでした。それでも、自己を主張し、小難しい書物を残し、その後の社会に情報を浸透させました。自分を信じて、たとえそれが後世の価値観で間違っていたにせよ、自分を押し通した彼の生き方には感銘を受ける点があります。

 錬金術については、アラビア医学や古代ギリシャなどまだまだ話題がつきませんが、このあたりで区切りをつけようと思います。ではでは。


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