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情報革命で一度死んだ大学は、どうやって19世紀に蘇ったか!: 歯科医療の歴史外伝④
16世紀のグーテンベルク活版印刷は情報の大量複製を促し、情報革命を引き起こした。知の拡散は、キリスト教を分裂させただけでなく、大学の権威を失墜させた。19世紀に大学は復活するが、今、インターネットにより在り方を問われている。歴史は繰り返されるのか。(小野堅太郎)
大学の成り立ちについて「歯科医療の歴史外伝①②③」に書いたものを復習してみる。①十字軍遠征を発端として12世紀以降のヨーロッパで修道院図書館を起点として「大学」が生まれた。②大学ではイスラム圏教科書の翻訳、解説を主とし、神学、法学、医学および七自由学科が教えられるようになった。③アリストテレスの主張が神の存在を示すスコラ学となり、オッカムの剃刀的思考による自然哲学(科学)と相いれない状況になってきた。というわけです。
小説「薔薇の名前」の解説シリーズ①②③にあるように、「知」は羊皮紙に写本され、図書館で学生に共有されました。しかし、印刷技術の発展は「大学の中だけの限られた情報」を社会に開放しました。同じことが、教会でも起こり、聖書の普及はプロテスタントを生んだわけです。研究者たちは、大学で学んだ後、大学を出て自宅で研究を行います。
賢明な読者ならもうお気づきのことであろう(白戸三平風)。18世紀までの間に、権威主義に凝り固まった大学は「新しい知」を求める者たちにとってはむしろ抵抗勢力となっていました。コペルニクス、ハーベィ、「近世ヨーロッパ編①②③④:歯科医療の歴史」や「錬金術に学ぶ①②③」シリーズを読んでもらったら明らかなように、偉大な研究者・医療人たちは大学を嫌い、大学に所属せず、「アカデミー」という研究者有志の会合に重きを置いていました。書籍(論文)は仲間内で推敲し、印刷所との交渉で出版されています。
18世紀末についにフランス革命が起きます(ラボアジェ!!!)。そしてナポレオンの侵攻によるハプスブルグ家の解体。プロイセン(ドイツ)は、瀕死の状態です。...とはいえ、ドイツでは哲学者カント、音楽家ベートーベン、詩人ゲーテの時代ですので、国力弱くとも文化華やかりし、です。19世紀になり、大学救世主、フンボルト登場です。
フンボルトは、これまでとは異なる大学「ベルリン大学」を創設します(1810年)。教育だけではなく、討論をする「ゼミ(ゼミナール)」と新しい自然法則を発見する「研究(実験)」を大学機能の中に組み込みます。要するにアカデミーの内容を大学の中に取り込んだわけです。「大学は、国家に仕える人材を作るのではなく、個が自分で考えて世の中を切り開く人材を作るのだ!」となるわけです。この仕組みは周囲各国へと伝わっていきます。イギリスではイングランドよりもスコットランドのほうで、この大学改革が広がっていきます。
大学改革は大西洋を越え、新興国であったアメリカに飛び火します。1876年、ジョンズ・ホプキンス大学ができ、研究に特化した「大学院」が創設されて「博士号の新しい授与システム」が構築されます。これにて、現在の大学・大学院が生まれたことになります。
こうやって振り返ってみると、情報革命が大学を一度死に追いやったことがわかります。現在、インターネットの普及により、スマホを通して簡単に情報にアクセスできるようになりました。論文もオープンアクセスが増えてきています。プレプリントなんて仕組みも出てきました。小野はよく、移動時に論文をスマホで読んでいます。新しい情報革命が起きたわけです。大学なんて行かなくても、「ネットで勉強すればいいじゃん!」てな、世界になるかもしれないわけです。近世ヨーロッパのように「自宅で研究し、論文をネットで公開する」なんてことが当たり前になるかもしれません(実際、数学の世界では起きています)。
現在の感染症の広がりで教育と研究情報のデジタル化が急速に推し進められました。早かれ遅かれ、インターネットによる情報革命は大学の在り方を変えるはずです。2度目の死を迎えるかもしれません。とはいえ、博士号取得の海外社会における重要性はかなり高いです。そう簡単に消えるシステムにも思いません。
歴史を学ぶことで、現在が見えてきます。そして、未来も垣間見えます。未来をぴたりと当てることは不可能ですが、何となくですが見えましたよね。我々大学人は、来るべき大学の未来に備えなければいけません。権威主義を捨て、社会に必要な「学問の発展」と「知の発見」に務める必要があるでしょう。
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