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【2】note紙上実践セミナー/動画付:消滅可能性自治体からの脱却講座:市長は部課長と職員に改革を求める

1.深刻な地方の衰退

■日々未来を失う地方

 地方の衰退は深刻です。人口減少と高齢化による財政の圧迫、工場の撤退、商店街のシャッター化、経営者の後継者不足などから地域経済活動が縮小し、そこから地域共助の低下、インフラの劣化、空家の急増などの地域社会の空洞化が生じ、さらなる人口減少と少子高齢化につながる悪循環が各地で加速しています。

 魅力ある働く場所が少なくなることから、地域の次世代を担う若い人たちは、生活の充実とキャリア形成を求めて、より大きな街に移ります。特に若い女性の離郷が地域の再生に深刻な影響を与えています。
 また、能登半島地震の支援と復興の大幅な遅れから、災害時により迅速な対応が期待できる都市への世帯毎の移住が増えています。日々、住民が少なくなっています。

■衰退地域の中核事業所の紹介

 結果、地域の主力産業が、製造や商業といった産業から、市役所、郵便局、信用金庫、農協(農業)、土建建設業、NPO、介護サービス施設、病院、寺院といった、公共色の強い産業に変化しています。駅前から市役所までの通りには、税金と年金・預貯金に関連した事業所の看板が並びます。このままでは「消滅可能性自治体744」が増加します。

2.「民間を超えるレベルの市役所」の実現

■大事なのは民間手法の活用ではない

 このような地域社会と地域経済のあり方の変容の大きな要因の一つとして、地域に住む人々の生活を支える、事業を営む企業に対するサポートを行う役割のある「市役所の考動のあり方」があります。

 「行政(市役所)が変わればまちが変わる」とよく言われます。しかし、それは行政の対応が丁寧になった、市長の公用車が高級車から普通車になった、民間の手法を活用している、それまでとは異なるような「異次元の政策」を続けて発表するといったことではありません。

  これらは、やらないよりはやった方がましといった程度の取組です。これで安心して、これ以上の工夫や自己改革をしなくなることの方が心配です。事実、過去の政権にこのような「やってる感」的な取組が目立ち、それに安心したのか改革が進まず、その結果は国際競争力の低下になったケースがあります。

■必要なのは地域経営の経営センスと経営の仕組みだが?

 「あり方」が問われる市役所に真に必要なことは、人口減社会で、これからも発生するより深刻なさまざまな環境変化に対応できる、下記の組織に変わることです。

 地域の資源を掘り起こし耕し育て、それを最大限に活用する   ことで、地域社会の安定と発展に貢献できる「地域経営」が担える、経営の考え方と仕組みのある組織(市役所)になることです。

 しかし、これまで、歳入と不足の多くを、国に頼る下請け的な役割に甘んじてきた自治体(市役所)は、今回の地方創生でも、地域の特徴や強みを生かして「地域を経営する」といった意識が欠落していました。これに住民本位の政策を考えるノウハウの不足が重なり、主体的で独自の取組が十分ではありませんでした。

■必要なのは成功事例のマネではない

 例えば、経済は国の問題だとして国の経済対策の出動に依存し、地元の他の事業主体と知恵をしぼり、地元の独自の資源の活性化を図る、地元産業を育成して課税対象を増やすといった「地域経営」に関する活動を、本格的には推進してきませんでした。他自治体の成功事例を探し、それに多少手を加えて実行するだけの取組でした。

 この特技ともいえる成功事例のマネでは、結局は他と同じ画一的な政策の羅列になり、地域の魅力を失います。過去に批判された、隣接自治体と同じ「箱モノ」を造る発想から抜けきれていません。それが「地方創生10年の総括(内閣府)」での目的未達の表明になります。

■「民間を超えるレベルの市役所」の実現

 ここで必要なのは、前記した、現在と将来での様々な環境変化に、短期でも長期でも、地域の資源を生かして的確に対応できる「地域経営」が担える経営力とマーケティング力のある行政組織(市役所)に変わることです。

 よって市役所に必要な改革とは、市長と職員が自慢げに語る、「民間手法の導入をしています」といったレベルではありません。「地域経営」において、地域のリーダーとコーディネイト的役割を果たせる「民間を超えるレベルの市役所」の創造です。

 それは、成功事例(What)の借用ではなく、成功事例を創造できる組織の仕組み(How)、つまり「市役所自身の経営力とマーケティング力」を高める自己改革です。

■決断は市長(リーダー)の役割

 前回(1)で明らかにしたように、行政の強みを活かした経営改革で「民間を超えるレベルの市役所」を実現する可能性はあります。しかし改革には、様々な障壁の発生、内外からの抵抗への対応、それを克服し解消するための改革期間の確保、これを担う人材と体制の整備といった取組がもとめられます。ここで必要なのがリーダーである市長の決断です。

 ドラッカーは「人は不完全である。よって危機は必ずくる。その時がリーダーの出番である。それはいかなる状況でも対応できる百戦錬磨の組織をつくること」てあるとします。
 この組織の創造に向けた経営改革の継続がリーダーの役割であり、遅きに失した感がありますが、リーダーの出番です。

3.動画:市長は自己と、部課長と職員に改革を求める

 現在とこれからの人口減への対応と「消滅可能性自治体からの脱却」「自立持続可能性自治体への挑戦」には、市長が主導する、「地域経営」が担える基本的な考え方の浸透と、その具体化に必要な経営力と政策力の向上(マーケティング)に関する改革が不可欠です。これなくして、地域の他の経営主体に影響を与えることはできません。これには下記動画内容の、市長自身の改革と、部課長と職員の改革の実行が必要になります(動画参照)。

■動画の内容

(1)市長は自己を地域経営者にする

■市長自身が率先して変わる

 「地域経営」の実現に向けてやるべきことの最初の改革は、市長自身が「最強の地域経営者」になることです。それは、地域の資源を、地域の様々な経営主体と共に、地域のニーズに適合させ、それを地域の社会と経済の活性化に結びつけ、地域社会の安定と発展を実現する体制の構築です。

■①宣言→②継続的な対話→③仕組み作り

 市長自身の改革を宣言し、地域経営のビジョンを明示し、その必要性を語り、それを担える市役所の経営の仕組みを構築し体制を整備します。

この①宣言→②継続的な対話→③仕組み作りの3つが重要です。

 これにより、多くの人材(職員)と地域に広範な影響力(強制)をもつ市役所を、地域でリーダーシップがとれる、コーディネイト役が果たせる経営主体として機能発揮ができるようにします。

(2)市長は部長を「最強の部経営者」にする、部長は「戦略的な部経営者」になる

■具体化不足の原因は市長ではなく部長にあり

 地域経営の実現には、上記のように地域の経営主体の中心になる市役所の経営的な活動が必要です。しかし市民からは、地域経営は必要だが、これに不可欠で最大の経営主体である市役所が機能していないとの指摘がされます。
 市長の地域経営に関する方針のもと、これに具体的に取り組むのが各部での取組です。部長の経営力が問われますが、部長の地域経営の意義の理解と取組に不足があると、部内での浸透が不足し、上記の市民からの指摘になります。地域経営の取組は暗礁に乗り上げてしまいます。これは市長ではなく部長の責任です。

■部長は経営職として役割を果たす

 市長は「職務委任」で各部長を「経営職」として位置づけ、「地域経営」の不可欠な経営の習得と実践を求め、経営能力の向上を図ることを厳命します。部経営の基本的な考え方の学習と、それを具体化する部の経営の仕組み構築を要請し、その進度を確認し必要な指導を行います。部長は市長をリーダーとするトップマネジメントチームの一員です。市長と同じ目線で経営職としての「選択と集中」を実行できる戦略的な部長の役割を果たします。

(3)市長は「課長を最強の課経営者」にする、課長は「敏腕な課経営者」になる

■部長と課長の「経営」の本質は同じ

 部長と課長は、所管組織の規模や職員数には違いがありますが、所管組織に、社会に貢献できる成果をもたらす経営の部分には本質的な違いはありません。さらに、職員に対する影響力に関しては、課長の影響力が部長の影響力を大幅に上回ります。地域経営の組織内隅々までの理解の広がりは課長の考動が鍵になります。

■旧来型の管理職の役割から「経営職」として役割を深める

 市長は、課長を部長と同様に「経営職」として位置づけ、部長を通じて、課経営の責任者としての「地域経営」に関する理解と、部の経営方針に基づいて課の経営資源を最大限に活かす経営力の向上を要請します。
 課長も「決められたことを決められた手順で行う」といった旧来型の管理職の役割から、組織の目標を達成するためには何を行うかを考える「経営職」としての認識と「俊敏で敏腕な課長の役割」を深める必要があります。

 (4)市長は職員を「最強の事業企画者」にする、職員は「有能な事業企画者」になる

■市長の政策(マーケティング)オンチ

 市長の地域経営に関する見識と構想、部課長の経営能力の向上は、それぞれ有効なものですが、それだけでは、顧客である住民への価値ある政策・施策・事業の提案にはなりません。

 市長の中には、「政策」は所管組織や職員、あるいは外部の有識者と業者に依頼すればよいとする人もいます。まったくの経営オンチです。経営の基本的な知識の欠落です。

■政策形成のマーケティングを活用する

 部課長の組織活動の積み上げを政策に変換して市民に提供する「価値創造の政策形成」に不足があれば、市役所はコストはかかるが、成果は不足する不要の組織体になり、その継続は存在意義の喪失になります。行政組織の成果不足の原因一つがこの政策形成の不備にあります。

 市長は、政策形成の企画から提供後の評価・改善までの全プロセスを、マーケティングを活用した、市民の要求と期待に応えるプロセスとして整備する必要があります。市長は、部課長にマーケティングを活用した政策形成の価値創造力の向上を要請し、職員を「有能な事業企画者」にしなければまりません。

(5)事例の動画:地域の資源を掘り起こし耕し育てた、①無名、②人口減確実、③有名施設や観光資源なしの流山市の改革

 この地域経営の成功例として流山市の経営とマーケティング改革があります。下記の動画が概要です。この20年間で市民を15万人から21万にした流山市の取組に関しては、noteの他の掲載もご活用下さい。
                -完-


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