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■リーダーシップ講座2.「行政の病」を治療する方法:不祥事とマイナ保険証・東京五輪・大阪万博からの治療法開発:動画付
■「行政の病」とその治療方法■
ドラッカーは著作「断絶の時代:名著集」で政府の病といった章立てで、政府の意義と課題を適切かつ厳しく指摘しています。その内容は、現在の成果不足で混迷する日本の政府と自治体の現状と酷似しています。またそこには、その「行政の病」から抜け出す「治療法」に関する確固たるヒントもあります。
そこでドラッカーの著作から、行政リーダー(首相と自治体首長・部課長)に必要な「行政の病と治療法」に関する指摘と助言を活用し、現在の混迷する行政の課題の解決方向を明らかにします。
1.行政の病(成果不足)
♦行政は病んでいる
国家経営(政府)と地方経営(自治体)の人口減と成果不足から、日本社会の厳しい低迷が続いています。
ドラッカーは1968年に刊行した『断絶の時代』で、「政府の病」の章を設けて「行政は病んでいる」とし、行政が自己治療しない場合の影響を明らかにしています。その内容は、現在の混迷する日本の行政組織の状況と近似しています。その慧眼(けいがん)には、ただ驚くばかりです。
♦行政の怠慢:住民と国民は「行政の病」の治療を強く求める
日本の行政(首相と自治体の首長)リーダーは、60年前にドラッカーが指摘した「行政の病」の自己治療を先送りし、現在の大きな低迷をもたらしています。取り返しができない「大きすぎる怠慢」です。
主権者である住民・国民は、行政の病を治す自己改革を、行政に強く求めなければなりません。行政のリーダーは、「ドラッカーのその書籍はまだ承知していない。法律に基づいて業務を遂行している」といった、無知を自ら表明する言い訳を考えることなく、猛省し、自己の改革に挑まなければなりません。
♦行政は巨大になったが成果はあげていない
ドラッカーは、歴史上、今日ほど行政が突出した存在になったことはないし、しかし、行政は太って巨大になっただけであり、費用はかかっても、成果はさしてあげていないことを示す証拠は、山ほどある」とし(『断絶の時代』P216)、行政の肥大と成果不足、そして信頼の低下を諫めます(下図参照)。
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♦毎年失敗して膨張する国家予算
ドラッカーの指摘通り、例えば、日本の国家予算は、毎年、行政の能力不足から課題解決に失敗し、その対策に必要な予算を毎年積み上げて浪費しています。
10年前の2014年の国家予算は約96兆円でしたが、2024年の予算額は約113兆円です。国政を維持するコストが膨張しています。通常なら人口が一定とすれば、行政の活躍からその維持コストはハズです。しかし現状は真逆です。これは毎年莫大な予算(税金)を投入しながら、年々社会が良くなるのではなく、悪化していることの証明です。稚拙すぎる国家経営です。
社会的な課題を解決して住民・国民生活を向上させるハズの政府(内閣・国会議員と国家公務員)と自治体(首長・議会と地方公務員)が、年々劣化しています。惨敗の国家経営と無力の地方経営です(下図参照)。
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♦頻発する首長の不祥事
これに政府(内閣・国会議員と国家公務員)と自治体(首長・議会と地方公務員)の不祥事が重なります。
政府では、安部政権の「桜を見る会」「モリカケ問題」、菅政権の親族が関係する「違法接待疑惑」、岸田政権での「息子優遇の公私混同」「裏金問題」。
自治体では、知事や市村長長などのパワハラ、セクハラ、職務に関して収賄、市長の不適切発言、職員採用への介入、入札情報の漏えいなどで近年は多すぎます。公人としての自覚を喪失した住民・国民軽視の行動です。リーダー失格です。
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♦信頼が薄れ、幻滅が深まり社会を沈滞させる
この行政の能力不足とリーダーの不誠実な言動から、行政に対する信頼がますます薄れ、幻滅が深まっています。このままでは行政の存在意義が疑われ、その能力不足から社会の活力がさらに消失し、住民・国民を貧困させ、地方を荒廃させ、社会の規範を壊し、2050年までに約2千万人強の住民・国民減とその年から744自治体の消滅が始まることになります。
まさに行政は、真摯で健全、かつ信頼と活力にあふれた行政のリーダーシップが必要とされているこの危機の時に病んでいます。
2.行政の病(成果不足)の実例
♦大義を叫び成果を軽視する行政
現在の成果不足の行政組織に必要なのは、疲弊する社会を安定・発展ざせる健全な「成果」を産出することです。ところが、行政組織はこの「成果」を重視しない傾向があります。我々は大義を担っている。よって実行することが重要であるとし、成果は二の次とします。
―実例1:住基カードとマイナ保険証―
♦住基ネットで1兆円(5千万円の土地付き住宅約2万戸分)
例えば、「行政の効率化」を目的とし、2002(平成14)年8月 に第1次稼働した「住基ネット」は、様々な不備が指摘され、2015年12月に「住基カード」の新規交付、再交付及び更新を終了します。有効発行数は僅か717万枚です。717万枚を全人口(約1億2,823万人、H27.1.1住基人口)で割ると約5.6%です。この短命に終わった「住基ネット」には、約1兆円の税金が投入されました。1兆円は土地付き一戸建て5千万円の住宅が2万戸建設できる金額です。あり得ない浪費です。
この「住基ネット」は2016(平成28)年に開始されたマイナンバー制度に置き換えられます。莫大な税金の浪費と、殆ど使われない機器の維持費用がかさむだけになりました。
♦マイナ保険証で約2兆円(5千万円の土地付き住宅約4万戸分)
さらに、そのマイナンバー制度にも問題が発生します。そこに紐付けされる8879億円投入した「マイナ保険証」のトラブル発生です。その対策として、最大で2万円のポイントが用意されます。2020年9月に始まった第1弾では2979億円、2022年6月から本格実施した第2弾では1兆8134億円を予算計上します。本来なら必要のない税金の支出です。それでも利用は2024年9月時点で13.9%と低調です。悲惨な結果です。
明らかな失敗で企業なら責任者は更迭されます。しかし政府は、国民は政策や制度の利点を十分に理解していないだけとし、一度決定した政策は、成果に関係なく大臣と一緒に推進しようとします。まさに「行政の病」です。それも重篤です。
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―実例2:東京五輪や大阪万博―
それは、自治体が主催した東京五輪や大阪万博でも同様です。東京五輪の招致段階の立候補時に見積もった必要な費用は7340億円でした。しかし結局は1兆4238億円にもなりました。さらに、会計検査院は、東京五輪に関する道路整備など関連経費も加えた総額は、3兆6845億円と公表します。税金浪費の典型です。
大阪万博は、2017年当初は1250億円の予算が必要としましたが、2023年10月には2350億円が必要となります。この増額は2020年には当初(1250億円)の1.5倍となる最大1850億円への増額が報告されました。その時、大阪府の吉村知事は、「何度も増加するとなると、府民、市民も“どうなの?"という話になりますので、これが(会場建設費の)増加の話としては最後」と宣言しています。トップ発言の軽さが指摘され、リーダー論からすると失格です。
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♦行政の肥大病と浪費から「悲劇と社会不安増」に
ドラッカーも「行政組織の失敗への反応は、改善や廃棄ではなく、対策と称して予算を倍にすることである。責任の発生を恐れ、何が問題か、何が必要か不必要かを検討することを疎かにする」と指摘します(『旧断絶の時代』P246)。
このようなニーズ軽視の生産性意識(効果/費用)の低い組織では、いつまでも成果を手にすることはありません。追加の対策で資源の浪費が続き組織の終焉を迎えます。それは住民・国民の悲劇です。この期に乗じて、東京都知事選、兵庫知事選で見られた過激な主張がなされ混乱します。危険な徴候です。
♦成果軽視と方法論の欠落で「失われる40年」に
もちろん、行政の政策すべてが誤っており、成果がないということではありません。中には的確な政策もありますが、しかし、効果のある政策さえ、変化の時代では、やがては役に立たなくなります。廃棄が必要ですが、残念なことに、そのときの行政の反応は、対策と称してさらなる予算の獲得です(『旧:断絶の時代』P247)。
この廃棄できないことが、行政の肥大病の最大の原因です。こうして現在は、死に至る肥大病と社会の破綻につながる財政の困窮に病んでいます。
この、㋐「大義」を必要以上に強調し「成果」を軽視する考え方と、ⓑ住民・国民起点の政策の策定と実現に関する方法論の欠落が、行政組織に長年の成果不足をもたらし、それが「失われた30年」、そして「失われる40年」になります。
以上、行政組織は、肥大病、浪費病、倫理喪失病、廃棄無視病の各病魔に冒され、身動きができなくなっています。このままでは、その役割を失います。それは住民・国民生活の破綻でもあります。この「行政の大病」の克服には、㋐社会の安定と発展に貢献する成果に関する考え方と、㋑成果を産出できる方法論が必要です。行政リーダーはこの習得と組織への導入の先頭に立たなければなりません。
3 行政の病の治療方法
♦治療により無能から「有能な行政」
疲弊と困窮の時代の日本には、真摯で活力のある成果を出せる行政を必要としています。前年の失敗から毎年予算(補正予算も含む)を膨らませる無能な行政をとるか。それとも真摯な姿勢で、住民・国民起点に立脚し、独自性のある政策を策定し、協働してそれを実行して成果をもたらす有能な行政をとるかという、選択の問題に直面しています(『旧:断絶の時代』P261)。
♦行政組織の目的は「住民・国民の創造」
国家経営を担当する政府と地方経営を担当する自治体は、成果不足から人口減を招いています。人口減は組織の存続にかかわる課題です。行政組織の目的は住民・国民の創造です。政府は対象となる国民、自治体は対象となる住民を創造できなければ、それぞれが実質的には不要になります。この点から現在の人口減は行政の意義に関する深刻な課題です。
住民・国民こそが行政組織の基盤であり、行政組織を存続させ、その住民・国民の生活向上を実現するために、社会は税金の使い方を行政組織に負託しているのです。行政リーダーはこの負託に応えなければなりません。
♦創造に必要な4つの機能
ここから、行政組織には4つの機能が必要になります。1つは、行政組織で働く職員を組織力として結集する①マネジメント、他の2つは、行政組織としての「価値創造」を担う②マーケティングと③イノベーションです。最後が④廃棄の制度です。
マネジメントは、行政組織に成果をもたらす仕組であり、マーケティングとイノベーションは、政策に成果をもたらす体系であり、廃棄は新陳代謝を促進し新しい取組を可能にする制度です。
行政組織の成果は個々政策の成果の積み上げです。マーケティングとイノベーションによる政策の成果を、廃棄によりアップデイトされたマネジメントで組織の成果に統合します(下図参照)。
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♦ドラッカーの見解
ドラッカーは、後者のマーケティングとイノベーションについて、「行政組織に直接的に社会に貢献する成果をもたらすのは、マーケティングとイノベーションの機能だけである」とします。
マーケティングとは、住民を理解し政策と制度を自然と活用してもらうことです。イノベーションは、より有効でより低コストの新しい価値を社会に提案することです。行政組織に直接的に成果をもたらすのは、この2つの機能だけです(『マネジメント上』P74)。
ここに、自動的な廃棄システムを組み込みます。政策、組織、活動のすべてを、恒久のものではなく、期間のかぎられた臨時のものとして、スタートさせることです。約束した成果をあげなければ、更新しないことにします(『断絶の時代』P238)。組織を常に最新の状態にします。
♦行政に必要なのは仕組みと真摯なリーダー
ドラッカーは「現在の行政組織が成果をあげるうえで必要とするものは、マネジメントの仕事を真摯で体系的にこなし、自らと組織を成果に集中させる人材である。それは、人気者や偉大な人物ではないとし、マネジメントの仕組みを構築し、継続的な改善ができる真摯なリーダーが必要」とします。
現在の日本では、このような行政リーダーがまったく不足しています。「日本と地方を良くする」と大声では叫ぶものの。それを行政組織を活用して効果的に実現する「方法論」がありません。「経営の運営」の違いに関する理解も曖昧です。用語のない組織にその行動はありません。それが現在の日本と地方の低迷を招いています、是正が必要です。
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♦現状維持の悲劇
「失われた30年」に渡って成果不足と人口減を続けてきた行政には、自己改革しかありません。現在の継続で得られるものは、さらなる不信と「病の悪化」です。
確かに、不信を突きつけられた首相・知事・市長でも、任期の間は、権力で政策の策定と実施を命じることはできるかもしれません。しかし、権力では、職員と住民・国民の献身、支持、信頼を得ることはできません。結果、成果不足から借金で対策を連発し、腹が出て体重が増えることがあっても、成果を手にすることはありません。
さらに、信頼なきリーダーでは、住民・国民の活力を喚起することはできず、さらなる成果不足になります。今の道の先にあるものは、「行政の病の悪化」であり、「行政への幻減の増大」だけです(『断絶の時代』P248)。
5.まとめと動画で内容確認
♦社会の安定と発展に貢献できる成果をあげる
全くのところ、行政は病んでます。しかし、住民・国民は、社会における中核の支援組織の一つとして、行政を必要とします。
真摯なリーダーシップで使命を明示し、住民・国民志向の共通の理念と価値観のもとに、住民・国民に対し、全体の奉仕者として最高の貢献を行う組織を必要とします。
ドラッカーは「社会の安定と発展に貢献できる成果をあげることが、行政組織にとって唯一の存在理由である。行政組織が、権限をもち、権力を振るうことを許される理由」とします。
♦行政の病を治療する最良の方法
行政組織は、マネジメントの仕組みである、1、自らの使命を明確にするほど、2、住民・国民起点に立つほど、3、独自性を追求するほど、4、人材を育成するほど、5、成功事例を共有するほど、6、自らの成果を評価し改善するほど、7、全体を統合できるほど、より大きな成果をあげることができます(下図参照)。
それは、行政の病を治療する最良の方法であり、この仕組みの構築と展開は行政リーダーの役割です。
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♦リーダーは建築家のようにマネジメント(経営)を設計し創造する
行政組織が、成果をあげるうえで必要とするものは、偉大な人物や特別な人ではありません。組織で働く職員の真摯な言動とマネジメントの仕組みです。それを建築家のように設計し創造することがリーダーの役割です(『マネジメント(上):P201』)。
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リーダーとは、真摯さと使命、そこから醸成される信頼、そして仕組みで人と組織を通して、なすべきこと、つまり住民・国民が求めることをなし遂げる人です。その先に住民・国民の幸せを実現する、健全な社会とその未来があります。
♦上記の内容を動画で確認
―完―
―行政経営総合研究所の紹介と関連書籍―
人口減や成果不足といった「行政経営」に関する課題解決の糸口は必ずあります。お気軽にお問い合わせ下さい。
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