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老人ホームをINNOVATION。そしてCREATIVEで、HAPPYEND HOMEに。もがく施設長日記その4。〜老人ホームは、今でも「姥捨山」なのか?

入居者も職員もHAPPYと思える場所づくり。

1)入居者ファースト、実は職員もファースト
 〜スローワーク、スローケア、スローライフを実践する。

③3つの「ゆっくり」

 私の施設の理念は、3つのゆっくりを実践すること。ひとつめのゆっくりは、入居者さんたちの隣に座ってゆったりと寄り添い、語り合いながら、急かさないケアを行うこと(スローケア)。ふたつめは、時間に追われない仕事の進め方をすること(スローワーク)。そして、休日のお茶の間のように、のんびり寛いだ雰囲気の中で、職員も入居者と一緒にお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながらテレビを見たり、お喋りするなどの風景を創り出すこと(スローライフ)です。
 実際は、言うは易く行うは難し。まじめなスタッフは、仕事中にお喋りしたり、テレビを見たりしてはイケナイと教育を受けてきているし、実際、そんな時間的ゆとりはないと主張するかもしれません。言葉から受け取り描くイメージと、今までまじめにしてきた現実の仕事のギャップの大きさに何をしていいかわからないと戸惑いを感じてもいるんだろうと思います。
 仕事の場と暮らしの場が共存している施設では、暮らしの場が、仕事に侵食されてしまっていることが多いのが一般的で、世帯主とも言える入居者さんたちからすれば、食事の時間も、入浴日も、その他様々な行動に制約を受けていますし、職員都合や業務都合でトイレや着替えや入床時間なども入居者本人の預かり知らぬところで決められてしまうし、結局、ゆっくりどころか、時間に追われる職員が、入居者を急かして、毎日の暮らしが作られる仕組みになっているのが、多くの高齢者施設の実態ではないでしょうか。
 暮らしの主人公であるはずの入居者さんたちは、やがて、言われるがまま、されるがまま、「ありがとう」「すみません」「申し訳ない」を繰り返し言いながら衰えていきます。お金を払って施設に入居し、介護保険料も負担して、介護サービスを買っているお客様の方が、なぜか小さくなって、100年生きてきた果てにさえ、誰かに謙虚に頭を下げて、お詫びやお礼を言い続けなければ生きていけない終末を過ごします。
 なぜ主人公であるはずの入居者さんたちの、ゆっくりと流れる暮らしの時間を、私達は演出してあげられないのでしょうか?

 1)スローケア

 ゆっくりケアすること。
 勤務時間が終わりに近づくとスタッフはやたら仕事のペースを早めて、入居者さんたちに有無を言わさずトイレにお連れしたり、洗面台の前に連れていき、歯ブラシを突きつけたり、着替えをさせて、「おやすみ〜」などと優しく元気な声で、ベッドに横になってもらったり、忙しく急かして、仕事を完了させようとします。夏などまだ無理やり締めたカーテンの隙間から、遮られた陽射しが眩しいほどに床を照らしているというのに、です。
 トイレに座らされたと思ったら、いきなり服やスボンを脱がされ、夜用のオムツやパットをあてがわれ、おまけに保湿クリームなどを全身に塗られたり、目薬さされたりしながら、パジャマに着替えさせられたり、用を足すにも落ち着かないまま、「終わった?」などと聞かれ、うなづく間もなく「立って!」と指示され、言われるがまま立ち上がるとささっとお尻を拭かれて、オムツやズボンを引き上げられる。
 一般的には、これらの作業が手早くできるのが、介護職から高く評価され、手本、目標とされる「できるスタッフ」です。ですが、私の施設では、このスタッフは評価しません。ゆっくりとかまえず、入居者さん本位のケアをしていないからです。

 2)スローワーク

 ゆっくり働くこと。
 スタッフどうしで喋っていると、上司や同僚から「口を動かす暇があれば手を動かせ!」と怒鳴られ、椅子に座ってお茶を飲んでいれば、「さぼっている」と思われるのが一般的な職場の価値観だとしたら、私の施設ではこうなります。「手を動かすよりも、入居者さんとお喋りしろ!」「フロアの隅みでこっそりお茶のむくらいなら、入居者さんと一緒に飲み食いしろ!」「記録を書くのも、入居者さんの隣で書け!」「スタッフがやっている仕事(の一部)は入居者さんにやってもらえ!」という感じです。
 スピードや効率を考える余地があるのは、無駄な記録を一本化するとか、会議や日々の業務連絡や打ち合わせを回数を増やして一回のそれらを短時間で行うとか、そういうところです。
 入居者さんは、様々な馴染みのものをすべてどこかに置いたまま、施設という、今までの常識が通用しない辺鄙な場所に連れてこられて、寂しい思いをし、孤独に身をおいています。「私はここにいます。私を見て!」「私の話を聴いて」と心で叫んでいます。
 隣に座って、例え短い時間でも、その人ひとりに関わっていれば、その人たちがどんな人生を過ごしてきたのか、何を大切にしてきたのか、今、どうしてほしいのか、が感じられます。それを感じ、引き出すことがどれだけ大切な私達の仕事か、使命か、わかると思います。


続く

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