スタートアップのPEファンドを利用した2段階エグジット
こんにちは。公認会計士の桑原です。
今日は利益が出ているスタートアップファウンダー向けのPEファンドを利用した2段階エグジットを説明したいと思います。
2段階エグジットとは何か?
通常スタートアップのファウンダーが株式譲渡で資金を取得するには、①IPOか②M&Aエグジットの2つと考えられることが一般的です。
しかしIPOを実現するためには何年も必要ですし、他社に売却した場合は手塩に育てた会社が自分の手から離れてしまい経営者の地位から降りることもあるでしょう。
会社の成長に伴う資金的な成果をファウンダーが得ることは簡単ではありません。
本当にそうでしょうか?
実は営業利益が1億円を目指せるところまできた創業者にはPEファンドを利用した2段階エグジットが可能です。
① 成長のために資金が必要だ
② IPOに向けて管理体制を整備したい
③ でも今までの成果(営業利益1億円が見えてきた)のため自身の株式を
一部資金化したい
④ 一部の株式を資金化するけど自身の株式保有比率はある程度維持したい
① ②は通常のVCファンドからの資金調達で達成出来ますよね。
問題は③と④です。
通常のVCファンドで創業者が保有する株式の一部売却を認めるケースは極めて稀です。また、創業者が株式の一部を売却するとそれに応じて自身の株式保有比率は減ってしまいます。
でも①~④全てを実現出来るスキーム、つまり、IPOに向けた資金を確保し、管理体制を整備し、でも自分の株式は一部資金化したいし、でも自分の株式保有比率はある程度維持したい、という全てを解決する手法がPEファンドを利用した2段階エグジットなのです。
PEファンドとは?
PEファンドとはPrivate Equityファンドの略で、バイアウトファンドとも呼ばれます。
VCファンドと同じ投資を行う事業体ですが投資手法が異なります。
VCファンドは成長が見込まれる会社に投資をします。将来成長するのであれば投資時に赤字でも構いません。また基本的に経営権は取りません。
一方、PEファンドは投資時に一定の利益が出ている会社に投資をします。
株主から株式取得をせず純粋に出資をすることもありますが、基本的には株主から株式を取得し経営権を取る投資を行います。
また投資時に投資資金の一部に借入金を用いる点が特徴です(借入を行うことをレバレッジと言い、借入を用いて投資する手法をレバレッジドバイアウト=LBOと言います)。
VCファンドも投資先へのサポートを行いますが、PEファンドはファンドメンバーやファンドから指名されたコンサルタントが常駐する等、VCファンドよりも深くて手厚いサポートをしてくれます。
PEファンドを用いた2段階エグジットとは?
PEファンドは創業者から株式を買い取り経営権を取得する投資スタイルですが、2段階エグジットの場合は創業者が引き続き経営者として経営を続けることが出来ます。
プロセスは以下のとおりです。
PEファンドに株式を一部売却し1回目のエグジットを行う。これにより株主はファンドと創業者になる。
会社を成長させてIPOもしくは他社へ売却し2回目のエグジット
単純ですね。
数字を入れて見てみましょう。
まずはPEファンドではなく事業会社等に過半数を売却してIPOするケースを見てみます。PEファンドではないのでレバレッジはない前提です。
【ケース1】
前提条件:
・現在
売上40億円、EBITDA4億円、NetDebt(純有利子負債)1億円、税引後利益2億円、EV/EBITDAマルチプル7倍で評価し100%株式価値27億円で評価
⇒この時点で100%株式を保有するファウンダーが80%を外部に売却
・将来
売上80億円、EBITDA8億円、NetDebt5億円 税引後利益5.6億円、PER20倍で評価し100%株式価値112億円でIPO
⇒この時点でファウンダーは全額エグジット
図にすると以下のようになります。
ファウンダーは最初のエグジットで21.6億円、IPOで22.4億円の合計44億円を得ることになります。
次にPEファンドに売却するケースを見てみます。
【ケース2】
前提条件:
・現在
売上40億円、EBITDA4億円、NetDebt(純有利子負債)1億円、税引後利益2億円、EV/EBITDAマルチプル7倍で評価し100%株式価値27億円で評価
⇒【ケース1】と同じです。
PEファンドに株式を80%分売却。売却後はファンド55%・ファウンダー45%の保有比率とする。
⇒レバレッジ効果によりファウンダーの保有比率が高くなります。
・将来
売上80億円、EBITDA8億円、NetDebt5億円 税引後利益5.6億円、PER20倍で評価し100%株式価値112億円でIPO
⇒この時点でファウンダーは全額エグジット。【ケース1】と同じです。
図にすると以下のようになります。
最初のエグジットでファウンダーが得る金額は21.6億円で同じですが、PEファンド投資時のレバレッジ効果で【ケース1】と異なりファウンダーは持分45%を維持出来るため、IPOで50.4億円のCashを得ることが可能となり、ファウンダーは合計72億円を得ることになります。
普通に事業会社に売却する【ケース1】では44億円、PEファンドに売却する【ケース2】では72億円とレバレッジ効果により28億円もの差が出ることになります。
まとめると、PEファンドへの売却は以下のメリットがあります。
普通に売却するよりも高い持分比率を維持出来る
IPOも含めた売却合計はレバレッジがないスキームよりも大幅に増加
PEファンドは追加資金の提供も可能で、管理体制の整備等のコンサルティングも関与するため、以下も実現出来ます。
① 成長のために資金取得
② IPOに向けて管理体制に整備
PEファンドの2段階エグジットはメリットが非常に多い手法であると言えます。
どのPEファンドと組むべきか?
では、どのPEファンドと組むのが良いのでしょうか。
PEファンドと言っても、国内独立系、外資系、金融系と様々で、ファンドごとに投資できる企業の規模や業種が異なり、投資後の関与の強弱も異なります。
スタートアップの規模や今後会社としてどの機能を強化したいか等でどのファンドと組むか変わってきます。
弊社は多くのPEファンドと関係があるため、スタートアップの規模やニーズに応じて様々なご提案が可能です。
実務的には、PEファンドだけでなく事業会社への売却や普通に資金調達をしながらIPOを目指すケースも交えての検討・アドバイスをいたします。
また最終的なクロージングまでは、複数のPEファンドとの交渉、デューデリジェンス対応、価格交渉、契約交渉などプロセスが多岐に渡り論点もかなり専門的になるため、弊社のような経験値豊富なファームに相談することがベターです。
是非お気軽にご相談いただければと思います。
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